ヤマモトシュウヘイ(山本無私蔵)
「女には恋愛というものはない。恋愛の対象はすべて男子の構成した幻影である」 ベートーヴェン終焉の館にて拳銃自殺をした十九世紀末の哲学者オットー・ワイニンゲルを私淑する中年男の日常。
これはもう、なんも言わん方がよいと思った。なんも伝わらんから。というかそもそも聞いてないから。なんじゃそらと思って、もう黙ってなんも言わんようにした。すると、余計に頓珍漢なことをのたまうので、これは一度文章にしてちゃんと伝えんといかんと考えて、こう書いて送った。 「ものごとの認識は、おおよそにしておくが賢明かと思います。あれこれと細かく分類しようとするからややこしくなるんだろうと。人間も同じで、男と女というだけでもあいだには深くて暗い河があるというのに、昨今ではもっと細分化
祖母が営んでいた銭湯「丸金温泉」がモデルとなった映画「湯道」を観に行った。 色褪せた、モノクロの遠い遠い昔の記憶。番台に座っていたばあちゃん、住み込みで働いていたきよこねーちゃん、腰の九十度に曲がった罐焚きのおじさん、天井から明るい陽の射し込む浴場、全身に入れ墨の入ったおじさん、隣にくっついてこちらの小さいチンコを覗き込んでくる変態おじさん、それに気づかず背中を洗う父、反響する風呂桶の音、女湯から呼びかけてくる母と妹、年季の入った木製のロッカー、大きな扇風機、手動のマッサー