【感想】劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』(ネタバレあり)
●記事概要
「ウマ娘」シリーズ初の完全新作劇場版となる本作について、観覧1回での感想文です。
筆者は上坂すみれさん(アグネスタキオンのCV)のファンであり、シリーズは多少履修している。そういう目線での感想としてご理解ください。
ちなみに筆者のウマ娘遍歴としては以下の通り。
・アプリゲーム・・・アグネスタキオンとナイスネイチャの育成をそれぞれ1~2周やった程度。普段ほとんど触らない。
・アニメ・・・第一期、二期、RTTT(配信版)は履修済み。三期は見ていない。
・その他・・・上坂さんの出演があればチェックするくらい。
<映画公式サイト>
※以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。
●大まかなストーリー
フジキセキの走りに魅せられた主人公ポッケことジャングルポケットは(簡単に言うと)アマ→プロの世界に転向し、「最強」を目指す。しかしアグネスタキオンの圧倒的な走りに敗れて以降は打倒タキオンが大きな目標となる。
ところが、タキオンに連敗を喫した皐月賞レースの直後、タキオンは突然のレース引退宣言。戸惑いながらもその後日本ダービーを制したポッケだが、マンハッタンカフェやテイエムオペラオー、ダンツフレームといった同世代の強敵たちが鎬を削る中、燃え尽きのような状態に。
そんなポッケの再起を促したのは、ポッケに影響されて自らもレースへの復帰を決意したフジキセキだった。彼女との並走を経て、ポッケは改めて「最強」を目指し立ち上がる。
そしてついに「覇王」テイエムオペラオーとジャパンカップでぶつかるポッケ。その姿を見たアグネスタキオンは自らもレースに復帰することを決意し、駆け出して行く。
●全体的な感想
めちゃくちゃ面白かったです。自分はやはりアグネスタキオン(上坂さん)目当てで観に行った部分が大きいので、タキオンの本作でのもう一人の主人公とも言うべき活躍に大満足でした。
●部分的な感想
アグネスタキオン
タキオンがマンハッタンカフェに呼びかける「カ~フェ~!」の一声に含まれる栄養素ハンパないって。あの調子良くペラペラまくしたてる感じ、ああいうイキイキとした語りのシーンでの上坂さんのお芝居がめちゃくちゃ好きですね。
でもそういったコミカルな部分だけでなく、シリアスな彼女の魅力も堪能できたと思います。
正直自分は「アグネスタキオンのファン」というわけでも無いんだけど、皐月賞のゴールのシーン、あの一瞬の表情に感極まってしまった。
レース中もね・・・自分の先を行く自分のイメージに、実体の自分が重なるという演出とかね・・・
そういえばタキオンが教室の窓に落書きしてた「U = ma2」という数式、あれはたぶんアインシュタインの公式で有名な「E = mc2」のパロディでしょう。(Uma→「ウマ」ってことでしょう。たぶん。)筆者は特殊相対性理論のこととかよくわかってないですけど、筆者のような人でもSF作品とかに触れてるとなんとなくはイメージがあるんじゃないでしょうか。「光速で移動すると時間は遅くなる」とかそういう。なのであれはなんとなく、レース中のタキオンの「未来視」とも捉えられるイメージの世界の描写とか演出と響き合っているような印象がありますね。ちゃんと解説できればカッコいいんですけどよくわかってないので無理です。話題に出しといてスミマセン。
最終的に彼女はレースに復帰するわけですが、そのへん示唆する描写、演出の数々がどれも良くてェ・・・
あれダービーの後だったかな?タキオンのケガしてる方の足(だったと思うんだけど)が震えてたりとか、パソコンに向かっていながら足踏みしちゃうところとか。そういう「タメ」が効いてるので最後、自らの脚で「到達」しなければ意味がない!と走り出すあのシーンにカタルシスがありますよね。
あらゆる部分で競馬の史実をベースにしている「ウマ娘」ではありますが、タキオンの復帰についてはその限りでは無かったわけで。映画冒頭のナレーション(未来は誰にもわからない、的な)がちゃんとそこらへんを示唆していたんだろうなあと思えるのも良かった。史実ベースであることの強みって色々あると思うんですけど、逆に言うと「予測がついてしまう」っていうのが弱点としてあると思うんで、そこはいい意味で裏切ってほしいというのがあるので・・・
レースシーン
まず音に関して言えば劇場の音響もあってか、臨場感がすごい。歓声、風切り音、ウマ娘たちの足音・・・それから、加速する時にたぶんだけどキャラによって独特の効果音が入っていて、ポッケは車のエンジン音?みたいな音とか、タキオンの場合は航空機のビュンッ!っていう航行音(なんて言うの?アレ)とか?そういった効果音のもたらす加速感めちゃくちゃカッコいいですね。
立体的なカメラワークもすごくて、ポッケの主観視点とかが取り入れられている(もしかしたら他のシリーズでもあったかもだが)ことで、より臨場感を増しているのかなあとか。
あと要所要所で用いられる虹色の光のエフェクトもカッコいい。どうしても「星3」とか「SSR」みたいなワードが脳裏に浮かんでしまうっていうのはあるけど・・・
ウマ娘「たち」
メインキャラが相互に影響しあってるというところがアツかったですね。
ポッケはフジキセキの姿に憧れを抱く。
フジキセキは、ポッケに影響されて一度は離れたレースへの復帰を決意し、その姿でもってポッケを立ち直らせる。
タキオンその圧倒的な走りでポッケに敗北を味わわせ、レースを離れることでポッケの挫折の要因となってしまうが、タキオンもまたポッケに影響されて再起する。
そしてメインキャラだけでなく、レースに参加するどのウマ娘たちも「勝ちたい」という意志をみなぎらせている。その代表的なポジションに位置するのが本作ではダンツフレームでありマンハッタンカフェなのでしょう。うまく言えないが、ウマ娘ひとりひとりはそれぞれの理由を持って走っているのだろうけど、ターフに充満する他者の「勝ちたい」という意志もまた、常に追い風のように彼女たちを後押ししているんではないかという気がした。
物語の上では、どうしてもメインキャラというフォーカスされる存在があるんだけれども、フォーカスされてないからといって重要な存在ではないというわけではないという制作サイドの意思が伝わってくるというか・・・こんなにわかりにくい言い方しかできないのかと自分の説明能力に愕然としてますけど、今。
●気になったところ
これは本作に限らずシリーズ全体的に言えることなのかもしれないんですが、ウマ娘の「レース」というのは突き詰めると「走って、誰が一番にゴールするか(誰が一番速いか)」なので、他のスポーツに比べると戦略とかゲーム性みたいなものの幅はどうしても狭い(※)と思う。つまり、そういった要素の描写の幅も狭いはずなので、どうしてもレース中の描写がエモーショナルな作画で見せる「気合い」みたいなものにならざるを得ないのかなと。
そうなると勝ち負けに理由が無いんですよね。
極論、「速いから速い」ということしか言えなくて。
逆に言えば、「レースに至るまでのドラマをいかに描くか?」「レースシーンをどのようにして最高潮に持っていくべく描写するか?」というのが肝になると思うので、そこが本作のみならず各シリーズでどうなっているのかというのが常に興味深い点ではあるんですけど。
もちろん本作ではそこ(勝ち負けのロジック)が主題ではないというのは理解しているつもりだし、「そういう描写を入れるべきだっただろ!」ともあんまり思わない。入れられるかもしれないけど、散漫になってしまうかもしれないし・・・ではなぜこんなことを言っているかというと、それは単に筆者の趣味というか、「そういう描写が難しい要素をどうにか扱ったレースが見てみてぇ~!」という感情の覚え書きみたいなものです。
※もちろん「ポッケは末脚があるからいかに勝負どころまで我慢するか」みたいな要素はあると思うし、実際そういう描写もあるのだが、描写の比重としてそこまで重要なものとしては扱われていないと思う。
了