生きていてよかった,亀井文夫,1956
https://www.yidff.jp/2001/cat113/01c122-1.html
原爆投下10年後のドキュメンタリー。原爆による外傷はまだ生々しく肌や街のあちこちに残っている。
被爆者の語りと生活がかわるがわる淡々と描かれている。固定カメラ。街に残る大いなる破壊の痕跡と登場人物の切実さは政治的なことどもを一瞥ともしない。
原爆ドームをねぐらにしている足の不自由な野良犬。実験用の犬の鳴き声。
原爆によって障害を負ったこどもや若者が多く登場する。語りとしての原爆とは距離感が違う。これからどのような人生を歩んでいったのだろうか。
長崎のキリスト教者は原爆の後「神はいない」と町の教会は行く人も全然いなくなってしまったということを語っていた。それほどの地獄だったと。なんということだろう。
展開は作り込んだシナリオの上を進んでいくので、被写体との距離感は現代のドキュメンタリーのように、手持ちカメラで密着、みたいな近さ(身近さ)はない。
しかしながら、時々に映される登場人物の感情の発露によって、その距離は急に視聴者の眼前にまで接近し、視聴者は現実としての原爆に相対せざるを得なくなる。
亀井文夫の演出力はすごい。
■参考
土田ヒロミ"ヒロシマ 1945-1979",アサヒソノラマ社
さらに20年たった後の写真集。
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