【パブリッシャー事典】あなたにしか作れない、見たことないゲーム求む!/PLAYISM
クリエイターの皆さまに、参加パブリッシャーについて知っていただくことで、マッチングの一助となるべく始動したインタビュー企画「パブリッシャー事典」。各パブリッシャーの特色や得意なこと、目指す姿などをお伺いしていきます。
今回は、初期から日本のインディーゲームを支え続けてきたパブリッシャー、PLAYISMの水谷さんにお話を伺いました!
「PLAYISM」ってどんな会社?
ーー本日はよろしくお願いします! まずは会社の概要を教えてください。
会社はアクティブゲーミングメディアという大阪の会社になります。
PLAYISMというのは、そこのパブリッシュ部門になります。
会社自体はゲームのローカライズ事業をメインでずっとやっていまして、そこにマーケティングなどいろんな人間が入ってきたことで、13年前にインディーゲームのパブリッシング事業がスタートしました。
ーー日本で最初期のインディーゲームパブリッシャーと言えますよね! これまでにリリースしたタイトルはどのくらいなのでしょうか?
ほとんど誰もインディーゲームを売っていない時代から始めましたし、本数は多いですね。
Steamだけで100本以上なので……全部入れたら200とか300ですかね。
年間で20本くらいはやっています。
ーーすごい本数ですよね! ほとんど誰もインディーゲームのパブリッシュをしていない時代に踏み出せたのは、何か理由があるんでしょうか?
当時、日本ではソーシャルゲームがすごかったんですよ。ただ僕は、ゲームは好きだったんですがソシャゲはあんまり好きじゃなかったんです(笑)
あとは、リメイクや美少女ゲームも多くて。
二十歳過ぎたくらいから、ゲームをやらなくなっていたんですね。
そんな中で、会社でインディーゲームをサポートするようなビジネスは何かできないかという流れがあって。それまでほとんど、インディーゲームが何か知らなかったんですね。
そのとき、ほとんど初めてインディーゲームに触れて「これはすごい!」と感動したんです。
それまで、日本のゲームが世界でもぶっちぎりで一番すごいと思っていたんですよ。任天堂がいてソニーがいて……。
そう思っていたところに、海外のインディーゲームをいくつか見せてもらったら「これはとんでもない!」ってなって。
それに加え、当時すでに開発費が高くなりすぎて、費用を抑えていく上で個人でやらざるを得ないという状況になってきていたんですね。
当時はApple Storeのようなプラットフォームもできてきて、デジタルでもゲームを流通できるようになってきていました。
今後はインディー化せざるを得ない状況になるんだろうな、というのも感じていました。
日本でもすごいものを作れる人はいたんですが、仕組み上の問題で出てきにくいと感じていて、これは誰かがやらないといけないんだろうなと感じました。
正直、インディーゲームという市場の規模がどのくらいあるか、誰もわかっていませんでした。どのくらい売り上げがいくかも全然数えていなかったですね。
うまくいくかはわからなかったですし、うまくいくまでやらなきゃしょうがないと思っていました。ここまで来れたのはラッキーでしたね(笑)
ーーそんな中続けられたのはすごいですね…! うまくいくかわからない中、方向転換しようとはならなかったんですか?
色んな人に「なぜソシャゲをやらないのか」と言われ続けましたね(笑)
元々は、インディーゲームを買う場所も売る場所もなかったので、売る場所として「PLAYISM」という販売サイトを作っていました。
当時はSteamにも出しにくかったですし、自分たちでローカライズして自分たちで販売する、ということをやっていました。
そんな中、開発者と色々話していく中で「Steamで出したい」「PlayStationで出したい」 という話が出てきて。
元々「PLAYISM」という販売サイトのプラットフォーマーだったところから、他所のプラットフォームでゲーム出す手伝いをする、という決断には少し時間がかかりましたね。
それが、結果的にはパブリッシャーになっていったという形ですね。
こういった方向転換はありましたが、インディーゲームから別のところに方向転換しようとしたことはないですね。
いろんな人と繋がりもできましたし、インディーゲームのクリエイターがみんな困っていたんですよね。どうやって世界で売っていったらいいんだろうって。
その背景もあって、インディーゲームから撤退するわけにはいかない、なんとかしないといけないと思っていました。
「デベロッパーが困っていることはなんなんだろう?」を常に考えて対応していって、やれることを増やしていったので、小さい方向転換はいっぱいしていますね。
ーー活躍の場がなかなか少なかった当時のクリエイターにとって、救世主のような存在だったでしょうね!
これまでのパブリッシュタイトルは?
ーーでは、これまでパブリッシュしたタイトルを教えてください。
今だと一番わかりやすいのは『8番出口』ですかね。こちらのコンソール版を担当しています。
昔からやっているのは、NIGOROさんのところのタイトルですかね。『LA-MULANA』や『薔薇と椿』など。
代表作というか、知名度が上がったなと感じたのは『VA-11 HALL-A ヴァルハラ』ですかね。すごく喜ばれました。
あとは、売上で言うと『ごく普通の鹿のゲーム DEEEER Simulator』とか『Ib』とかも代表的な担当作かと思います。
海外のやつだと『MOMODORA』、『Bright Memory』あたりが規模は大きいですね。
ここに挙げたものも挙げていないものも、どれも1本1本思い入れがありますね。
会社として得意なこと、サポートできること
ーー続いて、会社として得意なこと、サポートできることを教えてください。
そうですね。
ローカライズはうちでも力を入れてきた事業なので、翻訳はなるべくいいものを届けようとしています。
日本語だけじゃなく、英語、中国語は専門のスタッフがチームにいますので、変な翻訳が世に出ることはないように努めています。
あとは、宣伝は割と得意かなと思います。
元々自分が広告宣伝出身なんですけど、普通のゲームの宣伝部の人には負けないぞという気持ちでいますね(笑)
プレスリリースを出したりゲーム実況を依頼したり、普通のことはもちろんやるんですが、タイトルに合わせた面白い宣伝企画ができるように考えています。
『グノーシア』では、開発者のプチデポットさんとゲーム実況者のジャック・オ・蘭たんさんを呼んで対談したり、
『アイドルマネージャー』では実際に破いたポスターを広告に使ったり、
『8番出口』ではおじさんの行方不明ポスターを掲出したり。
ゲームが面白ければ面白いほど、面白い宣伝もできるので、ゲームの持っている世界観に合わせたことをやるようにしています。
ーー水谷さん自身がゲームを深く理解されていて、さらに広告宣伝の経験をお持ちだからこそ、こうした宣伝ができたんですね!
パブリッシュタイトルは、選ばれる際に基準などはあるんですか?
明確な基準はあんまりなくて……。
ジャンルやアートの方向性などはなるべく何も決めずに、面白さを大事にしています。
インディーゲームなので、他の人が作れそうなものってあんまり意味がないと思っていて。
「この人がいなかったら、このゲームはこの世に存在しなかったんだろうな」というのがあるかどうかは気にしています。
『Refind Self: 性格診断ゲーム』みたいな「性格診断ゲームをああいう形に作るのは誰もしないだろうな」とか、『薔薇と椿』みたいに「ビンタするゲームは誰も思いつかないだろうな」とか。
「このジャンルが売れてるから」みたいなのは、あんまり面白くないですね。
その人の中から出てきたものをアウトプットできる人が才能ある人だと思うので、そういう人を応援したいですね。
ーーなるほど。決められる上で、実際に遊んでみて決められていますか? それとも企画やキャッチーさを見て決められることもあるんでしょうか?
どんなに有名人の作品でも前評判が高くても、α版というか何かプレイできるものがあって、これはおもしろい、あるいは間違いなくおもしろくなりそうと思えるまでは契約しないですね。一通りは遊んでから決めます。
どんなに面白そうなコンセプトでも、実際に遊んでみると違うこともあるので。
あとはキャッチコピーがつけやすいゲームだと、宣伝はしやすいですよね。
「おビンタゲーム」みたいに完成されていると、マーケティングは問題ないなと思えます。
「ほのぼのスローライフアドベンチャー」だとごまんとあるので、「他のゲームと何が違うか?」がパッとわかるといいですよね。
今だとゲームを知る入り口がSNSなので、1、2秒でわかるかは大事ですかね。スクリーンショットとかPVをちょっと見ただけで「これは他と違うな」ってわかるかどうかは気にしています。
じっくりやってみて面白いゲームもいっぱいあると思うんですけど、プレイヤーを説得しにくいんですよね。
「やったら面白いんですけどね」だとちょっと遅くて、パッと「これは面白い作品だ」ってことが伝えられるかは大事ですね。
今後パブリッシュしていきたいタイトルは?
ーー今後パブリッシュしていきたいタイトルはどんなタイトルでしょうか?
難しいなぁ……(笑)
決めちゃうと、世の中の流れが早いので、今流行っているジャンルも半年後はみんな飽きちゃうだろうなって思うんですよね。だからあんまりジャンルとかアートワークの方向性とかは決めないようにしています。
個人的には「見たことがないもの」が見たいですね。
『VA-11 HALL-A ヴァルハラ』とか『グノーシア』、パブリッシュはしてないんですけどPLAYISMのサイトで販売するためにローカライズの協力を当時したんですが『Papers, Please』とかを見たときの衝撃たるや。
そういうのを待ってますね。
インディーゲーム市場が大きくなっているので、その弊害として、みんなローグライク、みんなオープンワールド、猫のゲームが売れたらみんな猫のゲーム...…みたいなのは面白くないですね(笑)
その人ならではのアウトプットで衝撃を受けられるゲームがいいですね。
どんなに知名度が無かろうが、売れるわけがないと言われようが、「これはいいな!」と思えるものを応援していきたいです。
ーー水谷さん自身が「すごくいいな!」と思っても、「そんなの売れるわけない」って周りから言われることもあるんでしょうか? その場合はどうやって推進していくのでしょうか?
ありますね。
ただ最後は、売れそうか売れなさそうかはどうでもいいんですよね。インディーゲームだからこそ、単純にそういうことで決めちゃダメだっていう話なわけだし、これを世に問うべきかどうかという話なんですよ。と、論点をすり替えたりしますね……(笑)
『ウムランギジェネレーション』というカメラマンになるゲームの、アジア版の販売に協力したんですけど、広くは受けられるものではないなとは思いつつ、このゲーム体験は素晴らしいなと思って販売したんですが、実際売上はそこまで大きくは上らず。
ただこのタイトルは、後にインディゲームの祭典「Independent Games Festival」の第23回で、大賞を受賞したんです。
やっぱりこのゲームを、世に出すサポートができたというのは価値があったなと感じましたね。
そういうこともあるので、数字になるかだけを全てにしないようにというのは思っていますね。
2作目に繋がることもありますし、売上ではない違う方向での評価がされることもあります。
やっぱり価値あるものが世に出ることが大事だなと思っています。
ピッチデッキに盛り込んで欲しい情報は?
ーーでは、ピッチデッキに盛り込んで欲しい情報はありますでしょうか?
やっぱり「何が他のゲームと違うのか?」をわかるように書いてほしいです。
よくあるピッチだと、「これとこれに影響を受けました」とか「メトロイドヴァニアを作っていて、あの作品は何万本売れたから、このゲームも何万本は売れるんじゃないかな」とか書いているケースがあるんですけど、そういうのはあんまりいらないです。
他のゲームに似ていますってものであればあるほど、売れる率が上がらないと私は思います。
なので「どう他のゲームと違うか?」をわかるように書いてほしいですね。短くていいので。
最初にお話したキャッチーさでいうと、むしろ短いほうがいいんですが。
Game Pitch Base 参加クリエイターに向けて
ーー最後に、Game Pitch Baseに参加しているクリエイターに向けて一言お願いします!
出資者やパブリッシャーがどういうものを求めているか、というのを考えないと不安になると思うんですけど、「移植しやすいつくりです」とか「文字数少ないので翻訳工数少ないです」とか「流行ってるこのジャンルだから安心です」とか、そういったことは忘れていただいた方がいいかもしれません。
「自分はこういうことをやりたい、それを突き詰めるためにこういうサポートが必要なんだ!」ということを言ってもらうのが一番です。
パブリッシャーや出資者に日和らない、迎合しない。
出資の金額が安い方がいいとかじゃないですし、面白ければ出します。
100万なら出します、1億は出しません、とかそういうことはないです。
突き詰めれば道は開けると思います!
ーーありがとうございました!
日本で最も有名なパブリッシャーと言っても過言ではないPLAYISM。
パブリッシャーがまだまだ少ない時代からインディーゲームクリエイターを支え続け、多くのタイトルを世の中に存在させてきたからこそ、今の日本におけるインディーゲーム市場の基盤があるのだと感じました。
「売れることが全てではなく、価値あるものを世に出していきたい」という思想も、初期からインディーゲームを支え続けてきたからこその、強い説得力を感じました。
「これは自分にしか作れない」という自信がある方は、ぜひお話してみてはいかがでしょうか?
PLAYISMのGame Pitch Base パブリッシャーページはこちら。