社員の育成責任は管理職にあるのか?
管理職になりたくない社員が増えているという。業務で常に忙しく、ストレスにさらされている上司を間近で見ていれば、管理職になりたくないという思いが出てくるのも納得できます。
弊社では特に若手、中堅社員向けのソフトスキル教育を企業向けに実施していますが、管理職側も業務で忙しく部下の面倒を見られないという声をよく聞きます。実際、弊社が先日実施した調査では、管理職の62.0%が部下の育成に悩みを抱えており、36.4%の管理職が育成に割く時間が取れないと回答しています。
https://ed-works.co.jp/research/20230705
これまで日本では新卒で入社後に上司や先輩社員から指導を受け成長をしていくOJTモデルで社員を育成してきました。そのため、多くの企業(特にそのように育てられた経営層)は仕事は現場で覚えるもの、部下が育たないのは管理職の責任と考えられているようです。
しかしながら、現在は職場環境の変化により、昔のように職場での学習(OJT)が難しくなってきています。立教大学の中原教授によれば、そこにはいくつかの理由があるようです。
一つはWeb会議やメール、チャットツールの普及により、上司や先輩社員の仕事を横目で見て学ぶことが難しくなったことです。昔であれば、上司や先輩が目の前でトラブルを解決する姿や、社内でのちょっとした根回しをする姿を観察できましたが、いまはオンラインで行われるケースが多く、部下からプロセスが見えづらくなってきています。
私自身も先輩社員が上司から指導される場面や先輩社員が華麗に問題を処理する姿を見て、たくさん学んできました。リモートワークの普及もあり、そのような環境が最近は減っているのです。
もう一つは働き方改革による労働時間の減少です。定時で帰ることを求められる現代、目の前の仕事以外に時間が割けられないという事情があります。昔のように定時を過ぎてから部下や後輩を残して個別に指導をするということも難しくなってきました。
そして、最後は組織のフラット化です。課長に課長代理、主任に主席社員など、多重階層の時代は新人の育成を担う先輩社員や主任、課長補佐がいたものです。現在は課長の下に全ての社員がぶら下がる構造を取る企業が多く、課長一人でその他大勢の育成を見るのが難しくなってきているという事情もあります。
これも私自身の経験で言えば、新卒で入った会社では課長から学ぶ以上に、主査や先輩の一般社員(一番年次・等級が上)から学ぶことが多かった気がします。
これらのことから社員を育成するのは管理職の責任であると言い続けることは難しくなっていると言えます。内閣官房のデータによると日本の人材投資はGDP比で0.1%と米国の2.08%と比べて著しく低い状況にあります。
企業は社員育成は管理職の責任であるという考えを改め、OJT以外での人材投資を積極的に考える時期に来ています。それが結果的に人的資本を高めることにつながると言えるでしょう。