Bistoro☆shu12/英国風カレー
「久しぶりに教室に会いに行っていいですか?」
のぞみからメッセンジャーに着信があった。
「お昼を食べよう。ロンドン風カレーとNYCパスタとどっちがいい?」
「ロンドン風カレーがいいです!!」
「あははは。ロンドン風がどういうのかは今から考える(笑)」
「楽しみにしています。」
のぞみが大学生のときにロンドン旅行のお土産を買ってきてくれて,ロンドンの食べ物は高いのでカレーばかり食べていたと楽しそうに話した。とっさにそれを思い出したのだ。のぞみはボクの料理はおいしいと信じている。
その期待に応えるときにボクは天才クッカーである。クッカーとは造語で,なぜコックではないのかと言えば,味音痴の妻以外にはテイストする人間がいないからだ。天才と断定するにはいささか客観的評価に欠けている。
ロンドン風だからマトンを煮込んでみようかとも思ったが相手は子どもである。羊肉は好き嫌いがあるかもしれない。そこで前夜,家でビーフカレーを煮込んだ。あとは材料を持って行って職場で仕上げる。
パンガシウスを揚げて天才フィッシュ&チップス。ビーツは一昨日からドレミが酢に漬けこんでいる。どうだろう、これで子ども向けロンドン風カレー。子どもと言ってものぞみはもう就職して結婚もしている。
天才クッカーは環境を選ばない。カセットコンロにフライパン,どんぶり。まったくノープロブレムのイングリッシュキッチンである。
メッセンジャーに着信が入っているのに気づいた。
「先生、すみません。一つ電車乗り遅れてしまいました。遅れます。」
あ,しょうがないなぁ。揚げ時間をぴたり合わせてるのに!
「なるはやで」
返信を打ち終わった頃には,はあはあ息を弾ませてのぞみが玄関から駆け込んできた。
「仕事があるぞ。ハサミ持って外へ行って。」
ちょきちょき。花壇にあるドレミ自慢のイタリアンパセリ畑である。
なんだ。やせてやたらとキレイじゃないか。さっきパセリの収穫してるところの写真撮ってたらでぶちんに見えたから,何て声をかけたらいいか困ってた。
ちょっとーぉ,失礼じゃないですかぁー。…とぷりぷり怒っている。
「大盛でお願いします。」
太るぞ。
天才ロンドン風フィッシュ&チップスお子さまカレー,ビーツ添え。
おしまい。