ペルーの「ラーメン」:ペルー風角煮と角煮再利用豚骨風ラーメンの作り方、「ソパ」
ここに掲げた写真は、先日友人と一緒に作った、牛バラ肉とソーセージのアヒ・パンカ煮込みの残りです(あとで説明します)。たくさん作ったのでので食べきれませんでした。
さて皆さんは、これを見て何を思い出しますか?
…そう、豚骨ラーメンですね!!!(ちょっと無理やりかしら)
ということで、今日はアヒ・パンカの煮込みを再利用して豚骨風ラーメンを作ります。
牛バラ肉とソーセージのアヒ・パンカ煮込みの作り方
まず、アヒ・パンカを使った牛バラとソーセージ煮込みを作ります。
アヒ・パンカとは、乾燥させた赤唐辛子を水で戻し、茹でて柔らかくしてから、ペースト状にしたもので、ペルーでは醤油や味噌のように料理のベースとして使われます。味は辛くないコチュジャンに似ているかもしれません(数年来コチュジャンを口にしていないので定かではないですが)。
今日は瓶詰めで売っているペーストを使いました。アヒ・アマリージョなら丸ごとのアヒ・アマリージョから家でもペーストにできますが、アヒ・パンカのペーストを作るのはけっこうめんどくさいので。
正しいアヒ・パンカペーストの作り方はこうです。はじめにアヒ・パンカよく洗って辛味を取り、その後半日以上水につけて、乾燥させているのをもどします。柔らかくするため、また火を通すため、しばらく煮込み、そのあとでミキサーなどにかけてペーストにします。めんどくさい。
ここからしばらく写真を撮っていませんが、まずはペルー料理に不可欠な基礎、アデレソ(玉ねぎとにんにくを炒めたもの)を作ります。正統的なペルー料理では、玉ねぎとにんにくは重量比で2:1です。かなりのにんにくの量。
玉ねぎとにんにくに火が通ったら、アヒ・パンカペーストを炒めます。辛味のもと、カプサイシンを揮発させるためです。揮発性であるせいか、炒めているときに立ち上る蒸気が辛いという感じがします。
ここまでの工程でできたもの、すなわち玉ねぎ+にんにく+アヒ・パンカペーストを炒めたものを、ペルーでは「赤いアデレソ」と呼んでいます。
「~アデレソ」と名前がつくのは、玉ねぎとにんにくだけからなる「基本のアデレソ」、基本のアデレソにアヒ・パンカのペーストを加えた、この「赤いアデレソ」、基本のアデレソにアヒ・アマリージョのペーストを加えた「黄色いアデレソ」、基本のアデレソにコリアンダーのペーストを加えた「緑のアデレソ」、この4つだけです。これがペルー料理のバリエーションの大部分を網羅していることになります。
(ここに、トマトが含まれないのが興味深いところ。トマトはアンデス原産で、基本のアデレソ+トマトをベースに使う料理もそれなりの数にあるのに…。)
ある程度アヒ・パンカに火を通したら(適当です)、肉、ひたひたになるくらいの水、塩を加えます。塩を忘れないように。煮込みながら塩分を付けていかないと、肉に塩味がつかなくなります。この前、肉の煮込みを作るのに煮汁に塩を入れるのを忘れてしまい、食べながら悲しい気持ちになりました。ただ、この段階では、煮汁を飲んではっきりとおいしい、と感じるほどの塩を入れる必要はありません。ほどほどに。
肉は、牛バラ肉と、ソーセージを入れました。牛バラ肉だけでなく、日本では決して安いとは言えないぶっといソーセージも一緒に煮込むなんて、背徳的です。
クツクツと火を入れ続け、牛バラ肉がいいかんじに柔らかくなったら、牛バラ肉とソーセージのアヒ・パンカ煮込みの完成です。角煮を、醤油や味噌の代わりにアヒ・パンカを使って作っただけとも言えます。
あ、写真を見て思い出しました、牛バラ肉は小麦粉をはたいて、あらかじめ表面をこんがり焼いています。風味付けと時間短縮です。
これはこれでおいしくいただきました。
ペルー風角煮再利用豚骨風ラーメン
さてここで冒頭の写真に戻ります。その写真は、アヒ・パンカの煮込みを冷めるまで置いたものです(量が多くて一度に食べきれなかったので)。見てください、このたくさんの脂を。これをみて豚骨風ラーメンを作ろうと思い立ちました。
周知の通り、豚骨ラーメンのあの特徴的な白いスープは、肉や野菜の味が溶け込んだ汁(=水)と、豚の脂(=油脂)を、強火でグツグツ煮込んでスープを撹拌しながら、豚骨の髄などから流れ出たコラーゲン(=乳化剤)で乳化することによってできています。
なので、煮込みの汁と、牛バラとソーセージから出たこの脂を、牛バラから溶け出たコラーゲンと、すべての肉から溶け出たタンパク質とで乳化することで、まあ似たものができるわけです。
煮込みの残り汁に、昆布を鍋に入れて一晩おいておきました。写真の昆布は水を吸って大きくなったものです。スープを70度くらいまで温め、脂が溶けたところで取り出します。
ラーメンなら昆布はやはりほしいところ。ラーメンはやはりうま味がガンガン効いてこそおいしいものなので、肉類のイノシン酸だけでは頼りなく思い、昆布のグルタミン酸を足すことにしました。
一方でミニマルな構成で作ってみたかったので、グルタミン酸系のうま味は昆布だけにしましたが、普通の豚骨ラーメンでやるように、玉ねぎ、ネギ、にんにく、生姜を入れたり、フランス料理の出汁のベースのように、にんじん、セロリなどを入れてもおいしいはずです。
さて、このスープには若干頼りない乳化剤できちんと乳化させるための秘密兵器が、ハンディミキサーです。脂が溶けるまでスープを温めたら、これで一気に乳化させます。あまりスープを温めると、スープがはねたとき危ないので温度は程々に。スープが飛ばないように鍋にラップを掛けました。
スープが真っ白になりました。乳化されている証拠です。
具を入れて温め直します。そして可能な限りたくさんの醤油を入れます。一旦白くなったスープの色がけっこう黒くなりました。
普通のラーメンならば「かえし」と呼ばれる、醤油、昆布、鰹節、貝柱などから取ったうま味たっぷりの液体をたれを加えるところです。でも鰹節すらないし昆布は入れたし、まあ面倒だったので省きました。それに、元来かえしはチャーシューの煮汁から作られていたそうで、今回はそもそもスープが角煮の煮汁みたいなものなので、省いてもいいでしょう。
醤油の量を調整するときにおすすめなのは、お玉や茶碗に少量のスープをよそい、そのスープでどれくらいの醤油の濃度がちょうどいいか試してみる、という方法です(参考:樋口直哉「スパイスからつくる本格チキンカレーの作り方」)。今回はかなりしょっぱいくらいになるまで醤油を入れましたが、それでも麺を合わせたときには物足りないくらいの塩分でした。
温め直した牛バラ肉とソーセージ、レモンと塩で和えた紫玉ねぎ、薄切りにしたトマト、パクチーの葉と一緒に器に盛り付けます。
紫玉ねぎと、時々トマトを、レモンと塩、刻んだパクチーの葉で和えたものをペルーではサルサ・クリオージャ、無理に直訳するならクレオール・ソースと呼んでいます。肉料理に定番の付け合せです。これをラーメンっぽくばらばらにして載せてみました。
麺は、中華麺もスーパーで売っているのですが、わざわざ買う気にならなかったのでスパゲティにしました。ペルーには、ペルー料理と中華料理のフュージョン「チーファ」なるものがあるので、ある程度の中華食材は手に入るのです。
ペルー風角煮の煮汁から出た、肉のうま味たっぷりスープが乳化してがっつりこってりです。
そして、角煮に入れたソーセージのたくさんのハーブや調味料の風味が味に深みを与えています。日本ではあまり見ない、あっても高い、ぶっといソーセージが安いから、と贅沢に突っ込んだことが功を奏しました。
以上が、ペルー角煮再利用豚骨風ラーメンのレシピでした。
ただもちろん、日本の家庭で普通に作る角煮の煮汁を再利用しても角煮はできます。
ペルーの「ラーメン」
ところで、ペルー料理には元々ラーメンっぽいものがあります。ペルーでソパSopa、つまりスープに分類されるもののいくつかがそうです。
これがペルーの代表的なスープ、カルド・デ・ガジーナ、メンドリの汁です。(写真は借り物です。たぶん僕も撮ったことがあるのでいつか差し替えたい。)紫玉ねぎ、セロリ、ネギ、生姜などと一緒にまるごとのメンドリを煮込み、そこにスパゲティとゆで卵を添えたもの。上の写真は、透明なスープで、鶏ガラの塩ラーメンのようなバージョンですが、鶏白湯のようにスープが濁ったバージョンもあります。写真でスープが黄色っぽいのは、ペルーの鶏からはあの色の脂が出るためです。
すべてではないにせよ、ペルーの多くの「スープ」はスパゲティの麺を具材としています。それゆえ、ペルー料理と日本料理のフュージョン料理、ニッケイ料理店に行くと、日本でいうところのラーメンはペルーではスープ扱いとなります。そしてペルーではスープは前菜なので、ラーメンとは別にご飯付きの炒めものなどを食べるのが、一般的であるようです。
特にカルド・デ・ガジーナは用法もラーメン的です。ペルーでいうところの「フィエスタ(「祭り」のスペイン語)」のあと、すなわちディスコで踊ったり、音楽が大音量で流れるバーでしこたま飲んだりしたあとは、「やっぱりカルド・デ・ガジーナに限るよな」的な言い方がなされます。
もう一つの代表的なスープが、ソパ・クリオージャ、クレオール・スープです(借り物、同上)。これは玉ねぎ、にんにく、アヒ・パンカ(前述の乾燥赤唐辛子)、トマト、牛乳、ひき肉、スパゲティ、卵のスープ。これも油脂がガンガンに効いて、麺入りで、日本人にはトマトラーメンっぽく見えるかもしれません(え?トマトラーメン知らないって?)。またしばしば、こんがり焼いたバケットがついてきます。チャーシューライスがついてくる感覚でしょうか。
実際、私が作った角煮再利用豚骨風ラーメンの作り方は、構成がクレオール・スープと牛乳以外ほとんど一緒です。
さらに言えば、日本料理とペルー料理のフュージョン「ニッケイ料理」のラーメンより、ペルーのスープのほうがラーメンぽいんですよね。ニッケイ料理のラーメンはまずくはないんですが、何かが物足りません。たぶんペルーのラーメンはがっつりうま味と塩を効かせていないんだと思います。「ラーメン欲」には、むしろ、ペルーのスープのほうがよく応えてくれる。もしかしたら、ペルーの食文化内での差異化がなされているのかもしれません。
あー、本物のラーメン食べたい。
追記:
書きながら何か違和感があると思っていましたが、それは本記事がレシピの体裁をとってはいるけれど、日本ではほぼ材料が調達できない以上、再現がほぼ不可能だからだと気づきました。再現できないレシピは日記かエッセイでしかない。