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最高のアヒ・アマリージョのペーストの作り方

これ以上読みたくないあなたのための要旨

 アヒ・アマリージョのペーストの最も美味しい作り方を実験した。アヒ・アマリージョは種と繊維を掃除したら水でよく洗い、電子レンジで蒸し、手で皮を剥いてからペーストにするのが一番おいしく、手間がかからなかった。パプリカのペーストも、アヒ・アマリージョのペーストには劣るが、まあまあおいしい。

はじめに

 アヒ・アマリージョのペーストはペルー料理において、日本料理における醤油や味噌のように、多くの料理のベースとして使われる。辛味はそれほどなく、その香りや味のために用いられる。ペルー料理の最も基本的で重要な要素の一つだ。
 それゆえ、これまで私が見てきた厨房ではそれぞれに異なる作り方があり、それぞれの料理人が自身の作り方について熱い思いを語ってきた。

 しかし、本当はどの作り方が一番おいしいのだろうか?もちろんどの作り方でどのような味になるかは大まかに覚えているが、一列に並べて食べ比べたことはない。そこでそれぞれの作り方とそのための工程を比較する実験をしてみることにした。
 自然科学の教養がないので、やり方が大雑把なのは許してください。
 なお味見には、世界中のトップレストランで働いてきた日本人料理人、大野尚斗氏の意見も含めている。ありがとうございました。


共通する準備

アヒ・アマリージョを洗う。ヘタの部分を切り落とし、縦に半分に切る。スプーンなどを使って、種の部分と、その周囲の白っぽく見える繊維部分を削ぎ落とす。これらの部分に辛味があるので、掃除は念入りに行うこと。


実験デザイン

 実験は6パターン行った。上段左から実験1,2,3,下段左から実験4,5,6と呼ぶことにする

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実験1 洗う→茹でる→皮を手で剥く(→ミキサーに掛ける)
実験2 洗う→茹でる→皮を剥かない(→ミキサーにかける→編みでこす)

 アヒ・アマリージョを水でよく洗い、そのあとお湯で茹でる、というのが最も一般的に見られるアヒ・アマリージョのペーストの作り方である。

 ところで、作り方の重要な分岐点の一つが皮の取り扱いである。いくつかのレストランでは、茹でたアヒ・アマリージョの皮を剥かず、そのままミキサーに掛け、その後ザルで濾すことで皮の繊維を取り除こうとしていた。あるレストランでは、そのやり方を採用していない。茹でた後、粗熱を取ったら、アヒ・アマリージョの皮をひとつひとつ手で剥いていくのだ。
 量によってはなかなか重労働になるので、なぜそのやり方をするのか聞いたところ、「皮には苦味があるから」らしい。ミキサーにかけてから繊維を取る方法だと、その苦味が入ってしまうからだという。

 実験1と2は、茹でるという加熱方法を試すとともに、皮の部分にどのような味があるのか確かめるために行った。


実験3 洗う→炒める(→ミキサーに掛ける)

 料理人の友人に「こういう作り方もある」と教わった方法。掃除して洗ったアヒ・アマリージョをざく切りにしてや黄色がつくまで炒める。それをペーストにする。茹でているときのように味がお湯に抜けていくということがないので、よりしっかりした味になるのだという。

 実験3は炒めるという加熱方法を試すために行う。


実験4 洗わない→電子レンジで蒸す→皮を手で剥く(→ミキサーに掛ける)
実験5 洗う→電子レンジで蒸す→皮を手で剥く(→ミキサーに掛ける)

 あるレストランではオーブンの蒸し機能でアヒ・アマリージョを蒸すことによって加熱していた。蒸し器で蒸すと結局水分と接触してしまうため、また家に蒸し器がなく、あってもわざわざ蒸し器を使うのはめんどくさいため、電子レンジで試すこととした。

 また、アヒ・アマリージョのペーストを作る上で重要とされる過程の一つに、種と繊維を掃除したアヒ・アマリージョを数回水を変えながらよく洗うことがある。それによって辛味を取るのだと言われている。しかし、加熱する際の水との接触によって味が抜けてし可能性があるならば、洗うことも味を抜いてしまうことになるのでは、と考えた。

 つまり実験4,5は、電子レンジによる加熱方法を試すとともに、加熱前にアヒ・アマリージョを洗う効果を確かめるために行う。


実験6 洗う→直火で皮を黒くなるまで焼く→ラップを張ったボールにしばらくおいたあと皮を手で剥く(→ミキサーに掛ける)

 スペイン料理にもパプリカのペーストを作る技術がある。スペイン料理ではパプリカが真っ黒になるまで直火で焼く。その後、ラップを張ったボールにしばらくおいたあと手で皮を剥く。ラップを張ったボールにおいておくのは、水蒸気によって皮が剥がれやすくなるためである。
 ラップを張ったボールに置かずとも、水につければ皮はすぐ取れるが、それはパプリカが水っぽくなるのであまり好まれない。

 実験6はスペイン料理のやり方を参考に、直火による加熱方法を試した。

作業過程と味

実験1 洗う→茹でる→皮を手で剥く(→ミキサーに掛ける)
実験2 洗う→茹でる→皮を剥かない(→ミキサーにかける→編みでこす)

 茹でるのは時間がかかった。お湯を沸かすのにも時間がかかるし、茹でるのにも時間がかかる。他の実験も同時並行で進めたのだが、実験1と2は他の実験より早く始めたのに終わるのは他の実験より遅かった。大量に作る場合はこのやり方が早いのかもしれないが。
 ちなみに、すべての実験共通で、簡単に皮が剥けるようになった段階が加熱終了の目安です。

 茹で上がったアヒ・アマリージョの皮を剥いて、それだけ食べてみる。他の料理人が言っていた通り、やや苦い。ペーストにしても感じるかもしれない。また大野氏によれば、かなり繊維っぽく、ザルで濾しても食感が残るかもしれない、とのこと。
 しかし、苦味や繊維っぽさが必ずしもよくないものでもない可能性を考慮する必要がある。ほのかな苦味は味に奥行きを与えることもあるし、繊維っぽさはソースなどにした場合にテクスチャーとなることもある。

 アヒ・アマリージョの果肉自体には、辛味は感じず、甘みがあった。しかしかなり香りが抜けていた。香りの多くは失われている。残っていたのはさつまいものような味。単体としてあまりおいしいとは言えない。

実験3 洗う→炒める(→ミキサーに掛ける)

 少々の油を垂らして炒めると、炒めるのはすぐに終わった。焼色がついたら火から下ろす。

 炒めたアヒ・アマリージョは焼き目の香りが支配的になっていた強く感じられた。単に焼き加減が強すぎただけかもしれないが。実験1,2より濃縮した甘みを感じられ、辛味は感じなかった。焼き目の風味を強調したような煮物のベースとしては使える。

実験4 洗わない→電子レンジで蒸す→皮を手で剥く(→ミキサーに掛ける)
実験5 洗う→電子レンジで蒸す→皮を手で剥く(→ミキサーに掛ける)

 電子レンジの加熱は1分半程度だった。他の調理法と比べても圧倒的に時間が短く、作業に手間もかからない。

 洗わずに加熱したアヒ・アマリージョは辛かった。大野氏と二人で辛いと叫びながら大量の水を飲む羽目になった。洗って加熱したアヒ・アマリージョはかなり辛さが抑えられていた。同時に、アヒ・アマリージョの個体差がかなり大きいということにも気付かされた。
 電子レンジで蒸したものはアヒ・アマリージョの華やかな香りが一番強く感じられた。甘さもある。そのまま食べてもおいしく、一番使い勝手が良さそうだった。

実験6 洗う→直火で皮を黒くなるまで焼く→ラップを張ったボールにしばらくおいたあと皮を手で剥く(→ミキサーに掛ける)

 焼き網がなかったので、トングでアヒ・アマリージョをコンロの火の上にかざし、アヒ・アマリージョが真っ黒になるまで辛抱強く待った。ずっとアヒ・アマリージョを持っているのは面倒だし、時間がかかるし、火前で待つのは暑かった。焼き網があっても長い時間火にかけなければいけないし、全面が黒くなるつくよう向きを変えるのも面倒だろう。全面が黒く焼けたアヒ・アマリージョはボールに入れてラップを掛けて放置し、その後黒くなった皮をそいでいく。少しでも皮が残っていると結構苦かったので注意深く作業しなければならなかった。作業としては一番面倒だった。

 味は濃縮された甘みを感じ、アヒ・アマリージョの香りもあったが、いぶしたような香りが気にかかった。

実験まとめ


 アヒ・アマリージョのペーストは「実験5 洗う→電子レンジで蒸す→皮を手で剥く(→ミキサーに掛ける)」のやり方で作るのが一番簡単でおいしくなるようだった。
 もちろん、量によっては手で皮を剥くの面倒になることもあるかもしれない。また、香りが邪魔なら茹でるという方法がよく、焦がしたような香りがほしいなら炒めるという方法がよい、といったように、どのような出来上がりがほしいかによってどれが最もよいかは変わる。

 …しかしこの記事、日本語で書いたところで世界中で何人に興味を持たれるんだ(スペイン語でも書くけれど)。

参考実験:パプリカのペースト


 アヒ・アマリージョはペルー国外では入手に若干手間がかかる。
 とはいえ、分類学的には近い植物であるパプリカならば多くの国で手に入るだろう。実験6でも触れたように、スペイン料理ではそのペーストが料理のベースとして使われることもあり、用法上も互換関係にありそうだ。(実際にスペイン料理のパプリカの用法がペルー料理のアヒ・アマリージョの用法に影響を与えたのかもしれない。)
 そこでアヒ・アマリージョとパプリカに、ペーストにしたときに実際にどれほど味の違いがあるのか実験してみた。

 調理方法としては、アヒ・アマリージョでの実験で一番おいしかった実験5と同様の、洗う→電子レンジで蒸す→皮を手で剥くという過程を採用した。

 パプリカは、甘みは、アヒ・アマリージョと同様に強く感じられた。しかしうま味などの点で、アヒ・アマリージョに強さが劣るように感じられた。パプリカはアヒ・アマリージョを代替可能ではあるが、料理としては風味が穏やかになるだろう。

これから書きたいと思っているのは「家でできる日本酒の作り方」「ペルー料理を理解するための料理・レストランガイド」「セビーチェのすべて」「ペルー料理を日本料理化する:日秘料理の構想」「砂漠への虚無旅」です!乞うご期待!