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槙島驟
2022年6月17日 20:01
【第一章】足早 東京、冬。 バケツをひっくり返したような雨が降ったので、大学に行く途中、古臭い喫茶店に駆け込んだ。 店先で雨粒を払い、ヘッドフォンを上着で拭きながら店に入る。雨はカーテンのような帯状で激しく降っていて、そんな2月の雨は、指先の感覚を殺すのには十分だった。 店の客はまばらで、店内はトーストの焼ける香りと珈琲の深い香りに包まれている。 この店は、カウンターで薄汚れた綿入りの
2022年6月24日 20:09
いつから俺はこんなに世界に置いていかれたのだろうか。勉強はそれなりにできる方だったし、熱心に取り組んでいたものがあった。しかし、高校進学と共に東京に出てきてみれば、どこか息苦しそうに、そして忙しなく流れる時間と人々に揉まれ、いつしか俺も早足で、早口で、早く早くと1日をすぎるようになっていた。 夢を見ることを忘れ、自分と言う人間をどこかに置いてきてしまった俺は、自分でも自分がつまらないとわかって