【連載小説】マザーレスチルドレン 第二話 廃棄物処理場【#創作大賞2024 #漫画原作部門 応募作】
「君は何故ここでの仕事を選んだんだ?」
ベッド上で上半身を起こしている男が唐突にハルトに問いかけた。
異様に痩せて肌は荒れて見るからにカサカサだが眼光だけは鋭い男だ。
「ここで働いているのは・・・さあ、他にすることもないから」ハルトは正直にそう答えた。
「楽な仕事じゃないだろう、確かに今は大変な時代だ。でも多くの若者は政府の生活支援プログラムで遊んで暮らしてるじゃないか」
「別にそれでもいいんですけどね。ただ人を探してるんです。もしかしたらここで、この施設で働いていればその人に会えるかもしれないから」
───確かにまともな人間のする仕事じゃないよ。
とハルトは思った。
放射線被爆者療養施設の仕事は過酷だった。
寝たきりの老人達の食事と排泄の世話。一日平均十五時間労働。
支払われる給料は政府の失業者対策の支援金とさほどの変わりははなかった。
「誰を探してる?」
「子供の頃に別れた母親を……もうここに運び込まれてもいい年齢になってるから」
この男に食事を与えると今日の仕事は終わりだった。
ハルトが働いているこのセンターは常時約三百五十名の被ばく特殊養護老人を収容している。
老人とは言っても施設入居者の平均年齢は四十七歳であった。
このセンターは放射能を直接あびて被ばくした者と放射性物質の含まれた食物を食べ続けたせいで内部被ばくした者が入居する施設である。
この国の水とあらゆる食べ物には放射性物質が含まれていた。
汚染された食物を食べ続けた人々の余命は通常の場合の半分以下になると云われていた。
放射性物質は毎日の食事として口から入り胃や腸、更に消化吸収されて人体の様々な臓器を少しづつだが確実に破壊していく。
現在この国で生きているの国民の直接被ばく者と内部被ばく者を合わせた数は全人口の八割に達していると云われている。
その数およそ五千万人。
国民の平均余命は五十歳に満たないとの試算が発表されていた。
この施設に運び込まれてくるのは、放射能毒に犯されて末期的な症状の死を待つだけの人たちだ。
彼らはこの施設で積極的な治療を受けるわけではない。
死ぬまでの残り僅かな時間をただここで過ごしているだけだった。
町外れの小高い丘に立っているこの施設「聖母の家」は
何時からか皆に廃棄物処理場と呼ばれていた。