【連載小説】マザーレスチルドレン 第十三話 鬼畜の所業【創作大賞2024漫画原作部門応募作】
───ヨシオカが経営するラウンジのシークレットルーム
「先天性の重症疾患かなんかで臓器移植を待ち望んでいる子供たちは世界中たくさんいますが、正規のルートでは、脳死になった子供の臓器がなかなか出てこない。倫理的問題で小児臓器の移植を認めてる国もまだ多くはない」
「たとえ提供者が出てきたとしても血液型、HLAのタイプ、臓器のサイズ全てが適合しないと拒絶反応を起こしてしまう。そして全てが適合する都合のいい提供者がほいほい出てくる筈もない。数万人に一人いるかいないかだ。しかし大金持ちはいくら払ってでも病気で苦しんでる自分の子供の命を助けたい、それでもって何処の馬の骨かわからないガキの臓器じゃあ嫌だ、どんな感染症もってるかわからない。実際エイズに感染した子供の臓器なんてゴミ箱行きです」
「安全は金で買うものだ」
「まったく金持ちって言うのは勝手なもんですぜ、自分の子供が助かればそれでいいっていうんだから、余所のガキがバラバラに刻まれて死んでいこうが知ったこっちゃない、おんなじ人間なのに」
「それが親心だ」
「まあそうです」ヨシオカは頷いた。
「そこで頭のいい闇ブローカーが我が国の十歳以下の子供に目をつけた。ネオシティの小児臓器は今や世界的な高級ブランドです。『シンセカイ党の政策の下で育てられた子供はストイックなほど安全な食品しか摂取してませんよ、全くの無菌で衛生的、安心安全な臓器です、さらに通貨安の今がお買い得です』 そんな調子のいい謳い文句で世界中の臓器移植の提供者を待つ子供をもった大金持ちがこぞってこの国の小児臓器に飛びついた、全くいい加減なもんだイメージ先行もはなはだしい」
「今は世界の上位1%の富裕層が持つ総資産は、すでに世界全体の個人資産の半分以上を占めているんだ、当然そうなるだろな」
「やつらマッチングビジネスだとか言ってやがるが、地獄の鬼ですら反吐を吐く鬼畜の所業以外の何物でもねえ」
「確かにそうかもしれんがお前からだけは言われたくないのは確かだろうがな」
そう言ってナカシマは満悦の笑みを浮かべた。
「そりゃあそうでしょうが」
ヨシオカも愉快そうに頷きながら話しを続ける。
「相変わらず世界の国々はこの国で生産されるあらゆる食品の輸入を全面禁止している、放射能で汚れた食品なんてなんの価値も生まない。それなのに闇ルートの小児臓器だけは引く手あまただ」
「皮肉なもんだな」
「全くです。だがオレたちだってブツが高く売れれば、そんな理屈はどうだっていい」
「うむ」
「しかしいくらなんでもそこいらのガキ適当にさらって売り飛ばすなんて無茶な話だ、そんな事はできやしねえ、この国は表向きは民主主義国家だが実質クーデター以降シンセカイ党の軍事政権の下にあるわけだし。さすがに黒服は怖いですよ、オレたちだって」
「まあな」
「そこで協力者が必要だ、国家権力っていう」
「それで、黒服に顔の利く私に目をつけた」
「いやいや、目をつけただなんて」
「まあいい。続けろ」
「実際反政府分子っていうのは厄介なもんですよね、地下に潜って活動し気がついたときにはもう遅い。テロリズムってのは一瞬の隙を突いて行われる、テロリストたちは庶民面して普通の市民生活を装ってやがる、見分けがつかねえ」
「お前たちヤクザのほうがわかりやすくて楽だ」
「そうですな、先生の言うとおりだ、全く」
ヨシオカがおどけた調子で膝を叩くと二人ともさも楽しげに声をあげて笑った。
「で、ちょっとだけ情報を分けてもらう、そしてオレたちは政府のテロリスト対策のお手伝いだ。少しの間黒服隊に目をつぶってさえもらえればそれでいい。それで政府は反政府分子を家族ごと処分できる、我々はリスクなしでそれなりの利益が確保できる。これこそ持ちつ持たれつウインウインの共存共栄って訳です」
「まあ、そうだ」
「まあそれが実際テロリストかどうかなんてどうでもいいわけで。大義名分さえあればいい。そして先生はオレ達の上前をはねる」
「ヨシオカ、お前、今日はオレに一体何が言いたいんだ?」いくぶん気色ばんでナカシマが訊き返す。
「いえいえ、先生、滅相もない。言いたい事なんて金輪際ありゃあしませんよ。そうですね、あえて言うなら、お互い様だって分かって欲しかっただけですよ、蛇の道は蛇ってい昔から云うじゃないですか。先生」
ヨシオカがいった。
「今も昔も政治には金が掛かるものだ」
一瞬の沈黙。
「で、誰が一番悪党なんですかね」
ヨシオカが静かにタバコに火をつけ一服吸いつけるとゆっくりと煙を吐き出しながらそういった。
「さあな、そんな事は考えるだけ無駄だ」
ナカシマが続けて何か言いかけた時ヨシオカの携帯が鳴った。
「失礼」とナカシマにことわりヨシオカは電話に出る。
事務所当番の組員からの電話だった。
「どうした?」
───先ほどノセさんから電話がありまして。相談したいことがあるからいつもの所に来て欲しいとのことです。
「ああ、わかった、すぐ行く。他に変わった事はないか?」
───今のところはありません。
「そうか、なんかあったらすぐ知らせてくれ」
「先生すんません、ちょっと野暮用ができまして……」
「ああ、気にするな、オレも適当に飲んだら帰る」
ナカシマはそういうとグラスに残った焼酎を一気に飲み干した。