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映画感想文『エターナル・サンシャイン』は最強の哲学映画ですよ「幸せは無垢の心に宿る。忘却は許すこと。太陽の光に導かれ 翳りなき祈りは運命を動かす」「神は死んだ」ニーチェ永劫回帰

スタッフ
監督: ミシェル・ゴンドリー映画脚本: チャーリー・カウフマン原作者: ミシェル・ゴンドリーチャーリー・カウフマンピエール・ビスマス 撮影: エレン・クラス 公開日: 2005年3月19日 (日本)
キャスト
ジョエル・バリッシュ:ジム・キャリー
クレメンタイン・クルシェンスキー:ケイト・ウィンスレット
メアリー:キルスティン・ダンスト
パトリック:イライジャ・ウッド
ハワード・ミュージワック:トム・ウィルキンソン
スタン:マーク・ラファロ

あらすじ・ストーリー
恋人とケンカ別れしたジョエルはある日、記憶除去を専門とする医院から一通の手紙を受け取る。それは、ジョエルの記憶を恋人から消去したので、過去に触れないようにというメッセージだった。仲直りしようとしていた矢先に、そのことを知ったジョエルはショックを受け、自分も記憶を消去しようと病院の扉を叩く。だが手術中にジョエルは恋人との楽しかった日々を無意識のうちに思い出し、手術をやめたいと考え直しはじめる。

https://www.thecinema.jp/program/00465

『海馬』
人間の脳には、左右に『海馬』と呼ばれる器官がある。タツノオトシゴにそっくりの形状をしたその器官は人間の記憶を司る機能を持っている。海馬は脳の中では小さな器官でそれぞれ小指ほどの大きさである。しかし海馬は小さな器官ながら大脳に入った情報の取捨選択をして記憶全体をコントロールするきわめて重要な役割を果たしている。海馬は、パソコンでいえば一時的に情報を記憶するメモリの役割を果たしていると云える。そして必要があればパソコンを終了する前にデータを保存するのと同じように、海馬も記憶を大脳皮質に送って長期記憶として保存する。大脳皮質というハードディスクに長期記憶されたファイルを呼び出すことも『海馬』の役割であり、それは『思い出す』という作業である。海馬は人間の記憶の司令塔だと云えるのだ。

ゼロ年代の名作恋愛SF映画『エターナル・サンシャイン』今回U-NEXTで再鑑賞。何度観てもチャーリー・カウフマンの高度で緻密な脚本が素晴らしく、伏線回収も完璧でかなり良くできた映画です。こういう基本時間軸が入り乱れる系はジョナサン・ノーラン監督の『メメント』が有名ですが、難解だけど非常に面白くて何度も観たくなってしまいます。『エターナル・サンシャイン』も時間軸が複雑で、基本的には現在から過去に向けて時間が流れるのが特徴です。でも『メメント』よりは解りやすく出来てます。
物語はジョエルとクレメンタインがモントールの海岸で出会い恋に落ちるところから始まります。珍しく会社をさぼって海を見に行くジョエル、そこでちょっといかれた感じの女性クレメンタインに出合う。海辺のファミレスで再会し帰りの列車で積極的にアプローチしてくるクレメンタイン。終始受け身なジョエル。ジョエルはクレメンタインの家まで車で送ることになる。数日後にチャールズ川で夜のピクニックデート。そして話は過去に戻ります。車の中で号泣してるジョエル。ここでやっとタイトルバックが流れる。ジョエルはクレメンタインとは別れているようだ。冒頭のエピソードが実はお互いの記憶を失くした二人の2度目の恋愛であることが徐々に視聴者にわかる仕掛けになってます。クレメンタインの髪色の変化とジョエルの車の傷がヒントになっていて、そこに注目してみていくと正常の時間軸が解る仕掛けになってます。ラクーナ社の受付役のキルステン・ダンストが「忘却はより良き前進を生む」というニーチェのキリスト教を否定する『善悪の彼岸』から引用する場面があって、これは世界は同じ事象が永遠に繰り返し続けるという『ツァラトゥストラかく語りき』におけるニーチェの永劫回帰の概念を暗示しているようです。永劫回帰とは人は生まれ変わっても今と全く同じ人生が永遠に繰り返されるという思考で、これは過去の失敗や嫌なことは終わったことであり今と全く関係のない未来の不安や心配事も起きてから考えればよいし、そもそも起きるとも限らない。だから今という瞬間を一生懸命楽しく生きることがなにより大事である。そして最期命が尽きる瞬間に、ああ最高の人生だった、もう一度同じこの人生を送ったっていいと思えること。苦痛が溢れている世の中を肯定して生きるためにはどうすべきか。永劫回帰は嫌なことは忘れて前向きな人生を送ることが正しいという素晴らしいニーチェ哲学です。嫌な事は忘れ、良い思い出を大事に。私もそう思って常々残りの人生を楽しく過ごそうと思ってます。
劇中にもうひとつアレキサンダー・ポープというイギリスの詩人が書いた詩の引用が出てくる。

「幸せは無垢の心に宿る。忘却は許すこと。太陽の光に導かれ 翳りなき祈りは運命を動かす」


「友達の芸術家、ピエール・ビスマスと食事していたら、彼がガールフレンドのことが嫌で、彼女の記憶を一切消したいと言い出したんだ」ミッシェル・ゴンドリー監督は回想する。

「そこから、記憶を消去してくれる会社の話を思いついた。それを映画にしたいと言うと、みんなすぐにSFサスペンス・アクションにしようとした。『トータルリコール』みたいにね」

ゴンドリーはプロモーション・ビデオ仲間のスパイク・ジョーンズからチャーリー・カウフマンを紹介された。

「カウフマンは男女の恋愛話にしようと言ってくれた。それから2人で脳と記憶の仕組みについて研究してシナリオを書き始めた」

常にハリウッド映画の定型から外れたシナリオを書いてきたカウフマンは、「エターナル・サンシャイン」にもハリウッド風ハッピーエンドへの反発があるという。「ハリウッド映画は男女が互いに愛を告白したらそこでハッピーエンドになってしまう。でも、現実の恋愛はそこから始まる。脚本を書いていると思わずハリウッドの紋切り型に引きずられてしまうけど、僕はそんなウソを描くことはできない。『めでたしめでたし』で映画館を出たら忘れてしまう映画にはしたくない。この映画がハッピーエンドなのかどうか、それを決めるのは観客だ。映画館を出た後、話し合って欲しい」

いろいろ考えさせられる事が多い映画ですが基本はとってもハートフルなラブストーリーです。


Beck - Everybody's Got To Learn Sometime (Eternal Sunshine of the Spotless Mind)  もともと映像作家出身のミシェル・ゴンドリー監督のスタイリッシュなシーンの連続。ジム・キャリーは得意の顔芸を封印したシリアスな演技。この頃のケイト・ウィンスレット・・・とっても愛おしくて最高です。随所で流れるBECKの楽曲も素晴らしい。

傷心したジョエルは元カノのクレメンタインの記憶を消そうとラクーナ社のクリニックを訪ねるが・・・



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