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帯に偽りなしの超絶技巧〜十二人の手紙
久しぶりの小説だよ、オールドスポート。
そういえば、井上ひさしさんの著作は初めて。
これは看板(この場合は「帯」だね)にいつわりなし。
ただ、これを「ミステリ」といわれてしまうと、ちょっと違うんだよなぁという気持ちにはなる。(北村薫さんの「円紫さんと私」シリーズについて、誰かが評していた「いいんだけど、これをミステリだといわれるとちょっと違うんだよなぁ」という感想と同じように)
とはいえ、帯にもある「濃密な人間ドラマ」や「圧巻の超絶技巧」には納得。
これぞまさしくイノベーション(革新ではなく、枯れた技術の水平思考、新結合という意味で)ではないかと強く感じたんだ。(ジェームズ・ヤング、横井軍平さんなんかも想起しつつ)
とくに公式の書類(出生届や死亡届、死亡診断書といった)でほぼ構成されている「赤い手」や、手紙の例文集からの引用でほぼ成り立っている「玉の輿」はまさに前述のイノベーションではないかと。
プロローグ(第一話)とエピローグ(最終話)でその間の話を串刺し、サンドイッチにする短編「集」としての括り具合も見事。
連作短編を各話それぞれで完結、完成させつつも最後にそれらをひっくるめてひとつの(抽象度の階層を高めて)作品として昇華させるといえば山田風太郎はすばらしい作品を多く残している、なんてことも思い出したり。(そういった彼の作品は多いけれど、ぱっと思い浮かんだのは『明治断頭台』かな)
風太郎の明治ものを再読したくなったよ。
とはいえ、今は(そして当面は)創作、小説に時間はそれほどかけられないから、それは厳しいかな。
いやいや、それは君が無駄なことにばかり時間を費やしているからだと(セネカがいうように、そうした浪費をしなければ人生は十分に長いと)言われそうだけれど。
とにかく、ひさしぶりの小説、はじめての井上ひさしさん体験はいい箸休めになって楽しかったよ。