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カタチから入る

 「カタチから入る」と聞くと、格好ばかりが先行して中身が伴っていなかったり、体裁にばかり固執しているような少しネガティブなイメージがある反面、「カタチにこだわれていないものが中身も伴っているわけがないだろ」と感じる自分もいるような気がする。

 ほぼ反対の意味を持つ言葉に「身の丈に合ったような」という形容詞が存在するが、身の丈に合わない言動の選択が、自分の想像を凌駕するところへと連れて行ってくれることも珍しくない。そんな経験から「身の丈に合ったような」という言葉はあまり好んで使いたくはない言葉のひとつで、その逆に「カタチから入る」という言葉は僕にとってどこかポジティブな要素を感じる言葉である。いつだって手に取った「ひのきのぼう」は「ロトの剣」へと持ち替え、「モンスターボール」ではなく「マスターボール」を連投し続ける自分でありたい。

 そんな戯言はさておき、人生25年目にして、食にも流行があることを最近知った。毎日口にするものに流行り廃りが?と少し懐疑的だったが、毎日身にまとう衣類に流行があるのだから、食に流行があっても何らおかしくないことだなとも思った。とにかく食にも流行があるのだ。スガノ調べによると、最近流行っている食べ物はシンプルクレープとタコスとアイスワインの3つである(※スガノ調べ2024年7月時点)。シンプルクレープとはクレープの具なし・皮だけの、ザ・シンプルなクレープのことである。地元のイオンに行くたびに、中に何を入れようか、列に並びながら迷っていた十数年前のスガノ少年に、「近い未来、中身は入れないで食べるのが流行るのだよ」と教えてあげたらきっと腰を抜かして驚くことだろう。

 そんな流行している食の中でも、とりわけアイスワイン(これはアイスをつまみにワインを飲む料理?シチュエーション?)には、「カタチから入る」という言葉が好きなぼくでさえ、「格好ばかりが先行して中身が伴っていなかったり、体裁にばかり固執しているような」印象を覚えていて1度も食していなかった。食する気にならなかった。「アイスにワイン?」というミスマッチとも思えてしまう、チグハグした突飛な合わせと、昨今の映えカルチャーに便乗した「ワインつけときゃオシャレだろ」みたいな安易な考えが見え隠れしているように感じてならないのだ。ただ、複数のメディアや友人からのプッシュに背中を押され、先日ついにアイスワインと対峙してきた(異なる2つ以上のコミュニティのメディアおよび友人からプッシュされたら必ずチャレンジしてみる、というマイルールを3年ほど前に制定したのだが、これがとても良かったりする)。

 アイスワインとのご対面当日、複数のプッシュのうち最も多く名前に上がった幡ヶ谷にある『kasiki』さんに訪問。休日午後15時くらい、たしか4組目くらいの待ちだった。入店してメニューを見ると、「アイスとワイン」という組み合わせ以前にアイス自体も独特で見たことのない組み合わせのテイストが揃えられていた。選んだのは、「ルバーブ山椒」「河内晩柑ラムレーズン」「プラムとレモンバーベナ」「塩バニラオリーブオイル」の4種類。「見たことのない組み合わせ」と言ったが、「ルバーブ」と「プラム」に関しては組み合わせどころかそもそも単体としてなんだか正体がよく分かっていない。「カタチから入り」すぎるあまり知ったかぶりをするのは気をつけたいところ。ちなみに「ルバーブ」はベリーのような酸味を特徴とする植物で和名は「ショクヨウダイオウ」。茎はなんだかみょうがみたいな色をしていて、ほうれん草の顔をした大きな葉はなんと有毒らしい。「プラム」は生のスモモ。

 そんな4種類を選び食べてみたところ、ワインとの合わせどうのこうのの前にとにかくアイスがアイスとしてどれもおいしすぎる。特に「塩バニラオリーブオイル」がいちばんのお気に入りで、「しょっっぱ!」の一歩前の「しょっっ..」くらいの味がする。そんな味を通して「しょっっぱ!」の味覚の過程には「しょっっ..」がある感覚を初めて知る。そしてスプーンをグラスに持ち替え、飲んだワインもとびっきりにアイスと合うものだった。

 この「アイスワイン」を通して、人生において出会ったことのない味覚を発見する良い機会に巡り会えた上に、「カタチから入る」ことに対するポジティブな印象はより強固なものへとなった。ぼくも「カタチから入る」ことにとどまらず、あの「アイスワイン」のアイスのように、こだわり抜いた体裁に負けずとも劣らない、凛としたたしかな中身のある人間になりたいものである。

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