縁劇ラジオ①村上信正(あんこ熊王)さん/切ない声の「芝居マグロ」
▽2024年5月21日の配信ゲスト
村上信正(むらかみ・のぶまさ)/あんこ熊王(あんこ・くまおう)
信州全土をノンストップで駆け回るフリーの役者。
世を忍ぶ仮の姿(本業)は棚卸委託業。
仕事でも演劇でも長距離運転をこなしまくるタフネスヒューマン。
演劇を始めたのは2018年秋。長野市松代出身、安曇野市在住。
10月13日生まれのてんびん座。
X:@yosikiyo1013
Instagram:@nobumasamurakami
以下の内容は2024年5月21日配信分を、抜粋・入れ替え(言い換え含む)しながら整えたものです。
▽地元神社の奉納劇から始まった演劇ライフ
しょう:演劇を始めたきっかけ、教えてください!
村上さん(以下村上):出身地である長野市松代の皆神山――結構有名なパワースポットなんですけど。そこにある皆神神社にお参りに行った際に、たまたま手に取ったチラシが「1300周年記念奉納劇出演者募集」という内容だったんですね。
1300年という歴史に驚きつつ「こんな記念すべきもの、参加すべきだろう!」と。当初はスタッフでも構わないと思って応募したんですけど、山の麓に住んでる地元民だった縁ですかね、演者に選んでいただいて、神社にまつられてる神様の役をやりました。
その奉納劇の制作が夢幻工房さんで。神社の境内を生かすとともに、音楽とか照明もしっかりあって、すごく本格的な舞台だったんです。
初舞台で200人位を前にして、演じ終えた後「良かったよ」って今まで関わりのなかった人たち声をかけられて、握手を求められたりして、それがうれしくて。同じようなことを味わえないかと、続けて夢幻工房さん主催の小布施での市民劇に参加したりして…そこがはじまりです。
しょう:それまでは演劇、舞台との関わりはあったんですか?
村上:大学の際、クラスで1度だけ劇をやったんですよ。「十二人の怒れる男」を書き起こして。そのくらいかな。その時はまだ「舞台、観に行ってみるか」と思う程度で、自分が演じようとは思わなかったですね。
しょう:演劇以外に、人生の中で熱中したことは?
村上:サッカーの裏方ですかね。
2002年のワールドカップで盛り上がったころに、J2リーグの試合を観に行ったんです。それこそ、お客が入ってなくて誰かが行かないと潰れてしまうみたいなチームで。でも、数少ないお客さんたちの中に子供たちがいて「この子たちにとって、選手がヒーローなんだ。身近にヒーローがいるって良いな」って感じたんですよ。サッカーチームって各地域にあるじゃないですか、それに関われたら良いなと思った。
当時は相模原に住んでいて、近くに現J1の町田ゼルビアがあった。その頃はまだ東京都リーグのチームで、Jリーグを目指してスタッフを募集してたんですよ。「おう、じゃあやってやろうか」と。そこからスタッフとして広報などを担当しましたね。町田がJFLに上がったタイミングで、長野県のチームをJリーグに押し上げたいと思い、帰郷しました。長野パルセイロのスタッフ、松本山雅の後援会のお手伝いなどを経験して。「でもお手伝いじゃあ食っていけないなあ」ってうだうだしていたタイミングで、奉納劇のチラシに出会ったという。
しょう:サッカーは、ご自身はプレー経験があったんですか?
村上:いや、ぜんぜん。
しょう:そのフットワークの軽さというか、未経験のところから飛び込んでどんどん熱量を上げてく感じ、サッカーの裏方も、演劇も、誰でもできることではないですよ。すごい。
しょう:奉納劇、小布施の市民劇と演じて、その後は?
村上:「サクファイン」っていうご当地ヒーロー映画の撮影がありました。オーディションを受けに入ったら、ヴィラン(悪役)で採用されて。
しょう:今も定期的に出演してるヒーローショーの関係ですか?
村上:そうそれ。もともとは映画としてつくったやつだったんですよ。
しょう:「サク」ファインってことは、拠点は長野県佐久市ですよね(松本市からざっくり1時間半とか2時間かかる)。遠くないですか…?
村上:その辺は、普段の仕事で100キロ超えの移動がざらにあるので、感覚麻痺しちゃってますね…。
▽お芝居の何が楽しい?
しょう:ゼロからお芝居を始めて、何が楽しいですか?
村上:普段と違うキャラになれることかな。
しょう:普段の自分は、どんな人間だって認識してます?
村上:つまんねー(やつ)
しょう:そうなの!?それが、芝居の中だと自由だったり、違う自分と出会えるみたいなイメージですかね?
村上:そうね。それに、お芝居やってることで、全然違う年代の人と触れあえるし、世界が広がっていくのが大きいなと思う。
しょう:私も村上さんも、社会人になってから演劇はじめて、仕事ばっかりだった人生が変わった感じですよね。演劇って、年齢層も性質も違う人たちが集う人の「るつぼ」。普通に生きてたらきっかけがないような人たちとも、友達になれる。それがいい。
村上:そうそう、知り合いが増えてくの、うれしいよね。
しょう:本当に途切れなく舞台に立ってらっしゃる印象なんですが、大変じゃないですか?
村上:いや、何もなくなって寂しくなる方がつらい。笑
しょう:止まったら死ぬ「芝居マグロ」と化してしまっている…笑
村上:とはいえ、お誘いいただいたときに「この稽古(回数・日程)ならいける」って判断はきっちりしてるので、泣く泣く断ることもあります。筋は通してますよ!タイミングもありますし。
しょう:稽古、どの舞台でもお仕事がとても忙しい中でもきっちり参加されてる印象があります。その辺の心持ちもうかがえますか?
村上:お声かけいただいたら最初に「稽古はこのくらいしかでれないですが、それでも良いですか?」としっかり確認してます。それでOKいただけたところでないと、行かない。
しょう:その辺の双方(出演する側・依頼する側)の合意は大事ですよね。どちらかに無理があってはいけないし、不義理があってもいけないし。
村上:(2024年)5月と6月は立て続けに舞台があるんですけど、6月の舞台は、5月の公演後に集中的に稽古をするというお話だったので、受けられました。話し合いや調整ができてるから、こんな(芝居)馬鹿みたいなことができる。笑
しょう:立て続けに公演があるときは、脚本はどう覚えてますか?順番に?並行して?
村上:一応並行して覚えてますね。稽古自体はどちらもあるので。
しょう:限られた時間の中で、どういう風に脚本を体になじませて(覚えて)る感じですかね。
村上:やっぱり仕事の移動が長いので、車での移動中に録音を聞いて喋ってる感じですね。本読みとかの時に録音させてもらって。
それができない演目(演者や場面が多い/全員での本読み機会が少ない)は結構覚えるの難しい…。5月の「どん底(アルプス乙女ユニオンズ)」がそれでした。演者が14人で公演時間も長く、録音がままならない。なので、本を読んで、場面場面で稽古の時に集中して覚える感じでしたね。ぎりぎりまで厳しかった…。6月の「百万年ピクニック(劇団月灯り)」の方が頭に入ってたくらい。笑
しょう:耳から覚える感じなんですね、文字情報としてというより(私自身は割と、台本のページそのものを画像化して頭にインプットする感じから始まる)。
村上:耳からですね。動きも合わせて覚えていく感じ。
▽青年役からお父さん役まで
しょう:たくさんの舞台に立たれてると思うんですが「こんな役振り当てられるの多いな」とかありますか?
村上:いや、結構バラバラですね。やっぱ、そもそも男性の役者が界隈で少ないんですよ。なので、無理矢理当てはめられるみたいな役も良くある。シェイクスピアの「夏の夜の夢」を題材にした演目では恋に惑う若者役で、相手(恋人)役は20代の女の子でしたからね…。
しょう:村上さんの年齢不詳さは武器ですよね。良い意味での役者としての使い勝手の良さがある。
村上:そうですねえ。お父さん役もやりましたし。
しょう:短編映画『お揃いのコーヒーカップを。』(2023)ですね。
しょう:映像のお芝居は、ノンストップの舞台のお芝居とは違いますか?
村上:そうですね、シーンごとシーンごとで切り替わりますし。最初の映像出演は「サクファイン(先述)」だったんですけど、ロケ地がすごくいっぱいで。佐久市のあちこちで撮って。瞬発力がいる感じがしました。同じシーンをアングル変えて撮る場合もありますし。
しょう:「お揃いのコーヒーカップを。」では、二つの年齢軸の「お父さん」を演じてましたよね。若い頃のお父さんと、少し歳をとったお父さんと。
村上:そのへんはメイクさんに助けられましたね。しわを描いていただいたりして、実年齢よりも老けてる感じにしてもらいました。
▽持ち味は「自然な演技」と「切ない声」
しょう:リスナーの方から「ヒーローショー(アクター)、映画、新劇、朗読劇、いろんな芝居に触れてきたと思いますがあんこさん(※村上さん)が1番合ってるな〜って思う芝居の形はありましたか?」と質問がきました。どうですか?
村上:基本、オーバーリアクションな演技が苦手なので、そういう視点では映像媒体(自然な演技)の方が向いてるかなと思うんですが…「お揃い~」は見返すと、あまりに恥ずかしくてもう一度撮り直したいなと思ってしまいます!恥ずかしいんですよ、実は。
しょう:映像として残る分、今ならもう少しやりようがあるかなとか、考えてしまいそうですよね。
オーバーリアクションが苦手というお話から。舞台のお芝居って、自然といいながら、現実的じゃないんですよね、立ち振る舞いが。
村上:そう。笑 とはいえ、舞台とかのお客様の感想だと「一番自然に見える」って言ってもらえることが多いですかね。だから、そういう(自然な)見せ方ができるお芝居が一番向いているのかな、とは思います。
しょう:自分の中で、一番しっくりきた役とか舞台とかはありますか?
村上:「スーパー短編劇場ズ(2022)」の勇者役かな。「自称高校生で勇者のおっさん」って役柄なんですけど、ドラクエみたいな衣装を着ました。
しょう:すごい多重構造の役。笑 どういうところがやりやすかったですか?
村上:他の演者の横で、架空の敵と戦ってたりする、自由度の高い役だったところかな。空想上の敵を変えたりするのが楽しかった。相手がいるアドリブは相手が乗れないといけないので難しいなと思いますけど、自分でいろいろ考えて動くのは好きです。
しょう:逆に、今までで一番大変だったとか、苦労したとか役は?
村上:「秋の庭」(2022)の父親役かな。でもこの役を演じたことで、飛躍できた。ターニングポイントだったなと思います。
しょう:チェーホフの「三人姉妹」のから着想を得てその後を描いた、創作作品。まつもと演劇祭の参加作品ですね。ジャンルとしては新劇。
村上:役は、父親であり、だめな兄であるっていうどうしようもない人間。ギャンブルで家を失ったりとかするんですよ。演出のこたとのぼるさんや共演者さんにたくさん助言いただいた。結果、公演後色んな人に、だめ男っぷりに共感をもらえたのがうれしかったです。
しょう:難しさって言うのは、どのへんが?
村上:どこまでだめっぷりをつくるか、という塩梅が難しかった。
しょう:だめ人間といえば、「どん底」(先述)でもだめ男的な「自称男爵」を演じましたね(元貴族で没落した男)。父親と男爵は「だめの男」ベクトルはどう違いました?
村上:秋の庭は自虐。自分はだめだと思って、完全に落ちちゃってる。周りの女たちにはぼろくそに言われてるし。男爵はまだ、過去は良かったなと振り返れる、今は落ちぶれてるけど自虐までは行かない感じがしますね。
しょう:なるほど。
村上:ターニングポイントと言えば、役者たちが自身の経験をもとに脚本、演出全てに携わった市民劇「ワレワレのモロモロ」(2020)もかな。オーディションの時に「後光が見える」って言われたのも印象深くて。
しょう:後光!?人徳かな…
しょう:今、脚本演出ってワードが出てきましたけど、役者以外にやってみたいポジションってありますか。
村上:いや~どうかな~うーん。
しょう:やっぱり役者が好き?
村上:外から全体がどう見えてるとかが見えるタイプじゃないので。普段も演出の方に頼ってますし。役者はほら、男性は少なくて重宝されるから…。
しょう:いやいや、そもそも安心して呼べる役者さんじゃないと男性でも声かけられないですよ!それは村上さんの人徳と経験ですよ。
村上:そうですかねえ。役者としては「声が良い」って声をかけてもらえることが多いかも知れない。こたとのぼるさん(アルプス乙女ユニオンズ)には「切ない声」って言われます。自覚はないんですけど。「桔梗の空へはばたけ!~宮澤賢治の生涯~」(2023)では、声をきっかけに賢治役のお誘いを受けました。「声のイメージがぴったりだったから」と。
声って、自分が聞いてる声と人が聞いてる声って違うじゃないですか。自分が聞くと「俺を殺せ~!」って思ってる。そんな声が評価されてるのは、不思議な感じがします。
しょう:リスナーの方から「あんこさんの声はかっこいいとか、勇ましいとかより切ない、柔らかい、女々しい(褒めてる)みたいな言葉の方がしっくりくる気がしますー」とコメントが。
村上:やっぱりそういう感じなのかな。
しょう:威圧感がないんですよね。初対面の方でも身構えずに話せるようなやわらかさがあります。
▽フリーの役者として
しょう:村上さんは劇団に所属しないフリーの役者さんですが、フリーの面白さ(強み)と苦労みたいなのあれば教えてください。
村上:面白さは、いろいろな演出家さんとやれること。人によって求めるものが違うのが面白い。あとやっぱり、いろいろなところでやるから、新しい出会いが絶えずありますよね。大変なところは…やりすぎて移動距離が長すぎるところくらいかな。笑
しょう:フリーの役者として認知してもらうためにやっいてたこととかはあります?
村上:いや、特には。積極的にオーディション受けに入ったりしてるくらいかな。
しょう:オーディションから、合否にかかわらずつながったご縁もあります?
村上:ありますね。
しょう:村上さんは初めての場所で緊張とかするんですか?演じる時は?
村上:初めての人と会うのはいつも緊張してますよ。「いて良いのかな」って思う。演じる時はしないかな。大勢のお客さまにも慣れてきたから。どっちかというと、本番はかかっちゃう方かもしれない。テンション上がりますね。「どん底」はかかりましたね。男爵の酔っ払いぶりが増してしまった…稽古の時は酔えなくて、それがゲネでは「こんな感じか」になって、酔っ払いっぷりが増したという。
しょう:「どん底」と言えば、歌もありましたね。村上さんはミュージカルの出演歴もありますけど、歌うのはお好きですか?
村上:好きなんですけど、評価されてません!笑 一人で歌わせるのは不安みたいです。かなしいです~。
しょう:笑 演劇界隈の人は歌うの好きな人多いですよね。
村上:ほんと、歌うのは好きなんです!でも歌わせてもらえないんです~!
しょう:お客さまの中に、戯曲を書ける方はいらっしゃいませんか~!笑 歌うのはどんな系の歌が好きですか?
村上:なんでも…いや、バラード系かな!
しょう:ここぞとばかりに自分の切ない声で売り込もうとしている!笑
しょう:今後やってみたい役とかありますか?
村上:いや~結構いろいろやりましたからね。若者も女の子もやったし。笑
しょう:めちゃくちゃ性格悪い役とか、憎みきれない役じゃなくて、擁護しようのないくそ野郎、どうですか。
村上:サイコパス似合うんじゃない?って言われたことある。
しょう:そうそう。悪いことを悪いことと思ってやってない系の役!人を人とも思ってないタイプの。
村上:それで書いてくださいよ。
しょう:皆さん、ぜひ村上さんにサイコパスの役を書いてください!!!
しょう:近隣の演劇界隈で尊敬する人、共演してみたい人はいますか?
村上:くぼっち(大久保学さん/演劇裁縫室ミシン)かなあ。立ち振る舞いが「ああ、役者だなあ」と感じる。培ってきたものの深さがある。ただふざける場面も、ただふざけてるだけじゃないって感じる。真面目な役もやれるし…。度々お芝居を観て感銘を受けてきたので「どん底」で初めて共演できてうれしかった。「どん底」では作田令子さん(シアターTRIBE)とも共演できたのも、良い経験でした。
共演したいのは、ヤマザキトウコさん(0 Gravity主宰)。同じ座組にはいたけど違う演目での出演だったりで、すれ違ってて。強さを感じる芝居に、この人の隣で芝居をしてみたいって気持ちになるんです。
しょう:演劇以外の趣味は?
村上:仕事合間の食事めぐり(村上さんはめっちゃグルメです。XやInstagramを見てほしい)、あとは寺社仏閣めぐり。スピリチュアルなことにも興味があったので――って、それで思い出した。
毎回公演前に神社に行って公演の成功を祈るのがルーティンだったんですけど、「どん底」は忙しすぎてできなかったんですよ。そしたら…本番前に足を負傷してしまいました。芝居を始まる前の朝に、ぐねってしまった(そしてギプスに)。ルーティンを忘れてしまったら、こんなことに。笑
しょう:お参りの重要性が増してしまった…!
▽さいごに
しょう:直近の公演の宣伝をどうぞ!
村上:すでに触れてますが、2024年6月8-9日に佐久市コスモホールで行う劇団月灯り旗揚げ公演「百万年ピクニック」です。
自分は北川という若者…しかも学ラン中学生時代の姿も演じます。笑 小学生から70代まで、7人の演者が舞台に立ちます!10月の「まつもと演劇祭」にも同演目の別キャスト版を上演予定です。ぜひ来てください!
しょう:さいごに一言!
村上:とりあえず、切れ間なく役者でいさせてください!ノンストップでいたいです!寂しい思いをしたくないです!
「縁劇ラジオ」第1回、ゲストは切ない声の芝居マグロ・村上信正さんでした!ありがとうございました!下記出演歴や動画も、ぜひご覧ください!
録音そのもののアーカイブはコチラから聞けます。
※会話の中で、大久保学さんの名字を「クボタ」と間違えております。申し訳ありません。
▽番外編・おすすめの店
手打ち さぬきうどん 心
長野県安曇野市穂高4749-1
村上さんがほぼ毎週通っている(ゆえに最近は最早SNSに写真を載せなくなった)という、おいしいうどんのお店。お手頃価格で、うどんも天ぷらもおいしい。期間限定うどんや、日替わりのミニ丼もおすすめ。
▽出演歴&出演動画
▽Cannibal!!!!!!!! 「I will always remember you」(2021)
▽第14回こころのミュージカル 笑劇ミュージカル 佐久の夜の夢(2022)
▽あけのあさ 「その花はきっと美しいと思うんだ」(2022)
▽あけのあさ 「かわった日。でも、いつもの日。」(2023)