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前々から書こうと思ってて書けなかった話がありまして、今日はそれを書こうかと思います。

「フィラリア」という病気をご存じですか?

わんちゃん飼ってる方にはなじみ深い病気と思いますが、蚊を媒介にしてフィラリアという寄生虫が犬の心臓や肺動脈に住みつき、血液の流れを悪くするという、あの病気ですね。
犬特有のものと勘違いされている方も多いかもしれませんが、フィラリアは、あくまで「糸状虫」という寄生虫の一種で、こいつは他にもたくさんの種類がいます。人に感染するものもあります。
人間のリンパ管内に寄生する『バンクロフト糸状虫』は、後遺症として「象皮病」を起こすことで知られていますが、こいつがあの西郷さんと関係してます。

西郷さんがやられちゃったもの。

「バンクロフト糸状虫」は、熱帯・亜熱帯を中心に世界中に広く分布しています。日本でも、かつては九州や南西諸島を中心に、本州でも見られる病気でした。西郷さんは、九州・鹿児島の出身ということもありますが、それだけでなく、南方の島へ二回も島送りの憂き目に遭っています。

そこで、西郷さんは、このバンクロフト糸状虫にやられちゃったわけです。
バンクロフト糸状虫は、その名の通り細長い糸のような形状をしています。寄生場所はリンパ管。そこで卵から孵化したミクロフィラリアが毛細血管に移動、蚊に吸血されることで人から人へと感染します。

そして、この寄生虫の被害に遭うと、最終的にはこんな病気になります。
陰嚢に水が溜まる「陰嚢水腫」。陰嚢がおそろしく腫れるというか膨らむそうです。
足が象のように腫れる「象皮病」。一説によると北朝鮮の金正恩氏が罹患しているのではないかという噂もあります。

西郷さんは上のほう、「陰嚢水腫」に罹患し、その大きさは「かぼちゃ」くらいだったと言われています。

ご遺体は、陰嚢ですぐに特定されたそうです。

西郷さん、晩年は陰嚢が邪魔になって馬に乗れなくなり、駕籠に乗って移動していたという逸話が残されています。
西南戦争で敗戦すると、仲間の介錯によって鹿児島城山にて自刃。そのとき首は土中に埋められ、首のない遺体だけが残されました。通常、首がなければ、誰のご遺体なのかを特定するのに時間がかかりますが、西郷さんの場合は、その巨大な陰嚢のおかげですぐに特定されたそうです。

感染原因は、島流し先での過酷な獄中生活。

「陰嚢水腫」とは、その名の通り陰嚢に水が溜まってしまうことです。
本来であれば、身体の組織に溜まった水分はリンパ系が汲みだしてくれます。リンパ管は最終的には静脈へとつながっていますので、組織内の余分な水分はリンパ系から血管へと戻っていくことになります。しかし、なんらかの原因でリンパ管の閉塞や破壊が起こると、その部分に水が溜まって、水腫になってしまうわけです。

西郷さんの場合は、フィラリアに感染し、足の付け根、鼠径部のリンパ管が炎症を起こして閉塞。その結果、陰嚢水腫が引き起こされたと考えられています。このフィラリアに感染したのは、島流し先での過酷な獄中生活が原因でした。
西郷さんは、島津斉彬には忠義を尽くしたものの、斉彬が急逝した後、藩の実権を握った弟の島津久光とは折り合いが悪く、1862年、ついに沖永良部島に島流しにされてしまいます。島の牢獄は、吹きさらしで衛生環境もすこぶる悪く、食事も満足に与えられず、そこでフィラリアに感染してしまったようです。

北斎が残した、一枚の浮世絵。

現代では、しっかりとした治療薬もあり、慢性化せずに治療できますが、昔は深刻な病気でした。日本人は、平安時代からフィラリアに悩まされていたと言われていて、江戸時代に全国に広がっていったのではないかと考えられています。そこで、この絵をご覧ください。

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葛飾北斎の浮世絵です。
肥大化した陰嚢を2人がかりで担いでいる様子が描かれています。
文化9年、関西に旅していたとき、三島で陰嚢水腫を見世物にしている2人の男を見つけて、その有様を描いたものと言われています。
「マジ?」と思いましたが、「マジ!」だそうです。別に誇張されたものではなく、ほんとにこんなになるんだそうです。厄介なのは、特に痛かったりするわけではなく、ただただ邪魔で鬱陶しいだけのもののようで、だからこそ、放置されがちで、こんなになっちゃうんだそうです。ただただおそろしい。


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