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「オリエント工業」という企業をご存じでしょうか? 女性よりは男性方に有名な会社だとは思いますが、「ラブドール」のメーカーとして知られています。「リアルな人体」を再現・製作するという観点においては、世界でもトップレベル。他の追随を許さない技術と品質を有するメーカーと言えます。

そんな高度な技術を持つ企業に、他の業界が注目しないわけもなく、一般には知られていませんが、その卓越した技術は医療・介護の分野にも応用されています。

そもそもオリエント工業とは、いかなる企業なのか?

私が若い頃は「ダッチワイフ」と言われていましたが、人体としての再現性、クオリティが上がるにつれて、「ラブドール」と称されるようになってきました。いわゆるアダルトグッズですが、この会社を起こした人物は、もともとは東京の上野や浅草で、こうした製品を販売するショップを経営していました。
かつては、こうした製品は質が悪く、実用性も低いものでした。その根本的な改良に乗り出したのが、起業のキッカケだったと言います。

ある時、当時親交のあった脳神経外科医から、こんな話が持ち込まれます。
「障がい者が実際の性行為を行うこともままならぬ状況におかれながらも、その性を処理することができず、また、風俗にも行けない、行っても相手にされないなど、非常に難儀をしている」と…。
こうした実情を知り、優れたダッチワイフの必要性を痛感したのだそうです。

障がい者については、性処理相談や割引制度などで支援。そもそも開業当時は障がい者への販売しか行っておらず、通信販売時にも障がい者手帳のコピーの提示を必要としていたと言います。それがいつしか「高齢者なら」、「独身男性なら」、「既婚者でも単身赴任中なら」と、徐々にハードルが下がっていったのだそうです。

製品があまりにリアルであることから、ショールームへの搬入時に「本物の死体」と間違われ、警察に踏み込まれたことも何度かあるそうです。

歯科実習用患者ロボット「昭和花子2」

2010年、歯学部生の訓練用として、昭和大学歯学部とロボットメーカーである株式会社テムザックが共同開発した歯科実習用患者ロボット「昭和花子」の軟部組織の再現に技術協力。現在は「昭和花子2」がリリースされ、よりリアリティや機能性、使いやすさが追求されています。
今回の「昭和花子2」の最大の特徴は、オリエント工業によるシリコン製の皮膚組織と口腔粘膜の再現。加えて、より自然な動作が可能になっています。

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治療中につい舌を動かしてしまう。咳き込んでしまう。むせてしまう。くしゃみをしてしまう。
こうした患者がついやりがちな反応を実装。

長時間にわたって口を開けっ放しにしていると、開口疲労で口が閉じ気味になりますし、のどの方まで器具を入れると、つい顔を背けたり、嘔吐反射を起こしたりもします。
雑に扱うと、時には顔をしかめて「痛いです」としゃべったり、「今日はどうしましたか?」と聞くと、ちゃんと症状を細かく訴えたりもします。

オリエント工業が貢献しているのは、単なる皮膚組織や口腔粘膜の再現ということだけでなく、本当の人間を相手にしているような「リアルさ」の再現。患者の「リアルな反応」だけでなく、「見た目のリアルさ」も非常に重要なのだそうです。

キーワードは「心理的な影響」。ドクターや学生たちが「生身の人間」と対峙したときと同じような緊張感や臨場感を持って実践的な練習ができるかどうか、それは非常に大きいファクターであり、そのためにはオリエント工業の技術がもたらす「ここまでのリアルさ」は得難いものなのだそうです。

老人介護練習用ドール「とめさん」

この老人介護練習用ドール「とめさん」は、ドール内部の骨格によって人間と同じように関節を動かすことができ、また人間に近いリアルな重量があるため、抱えて車椅子に乗せる、段差を越えて移動させるなど、実際の介護に近いシミュレーションができるようになっています。

また、高い耐水性能を備えており、入浴介助の実習などでも実際の石鹸を使用することも可能。排泄機構までも実装しているため、汚物の洗浄、オムツ交換などの練習でも活用できます。

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「昭和花子2」でも「とめさん」でも、共通するのは、やはり水が内部に漏れ出したり、浸透すれば機械部に影響を及ぼすこともあるということ。ここでも、高い一体成形技術が発揮されています。

私はつい最近まで、「技術はすごいにせよアダルト商品のメーカー」くらいにしか思っておりませんでした。
それも正解ではありますが、「それ以上」だと、考えを改めるに至った次第です。


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