キャロルクリスチャンポエルという変態が作る洋服のかっこよさ
初めて会う方や、初めて一緒に仕事をする方に必ず言われることがある。
「今年は何が流行るの?」
そう言われると僕は丁寧に今年の流行を教える。
でも最後に必ず付け加える言葉がある。
「でも、結局好きな洋服を着ればいいんですよ」
「まあ、そうだよね」そんな言葉で締めくくられる。
『今年は何が流行るの?』と聞いてくるのはだいたい会話の繋ぎで僕が伝えたことなんてその日の夕食を食べているときには、もうすでに忘れているに違いない。
ファッションの流行は国際流行色委員会がまずカラーを決める。
来年の2月に20a/wのコレクションが発表されるが、だいたい一年半以上前、なので去年17年の夏過ぎには20a/wのカラーは決まっていることになる。
それを受けトレンドを発信する会社が例えば『ワイドパンツだ!』という風に発信するのがだいたい一年前くらい。
そこからテキスタイルメーカーが最新のテキスタイルの見本市を行う。とくに有名なのはフランスの『プルミエール・ヴィジョン』後はミラノの『ミラノ・ウニカ』、上海の『インターテキスタイル上海』だろう。
この見本市がコレクションの半年前くらいに行われ、ここでやっとアパレルメーカーに渡る。
そして、パリ・ミラノ・東京・ニューヨーク等のコレクションで全世界に発信され、有名なモデルを広告塔に起用してメディアが発信して流行は作られる。
コレクションのテキスタイルやアイテムが似ているのはこういった経緯を踏まえているからです。
キャロルクリスチャンポエル(以下ポエル)はそのようなコレクションまでのプロセスの影響を受けないブランドの一つ
まずパリ等のコレクションを行うブランドは大量生産を目的として(プレタポルテと呼ばれるコレクション)いるわけだが(オートクチュールのコレクションは別として)ポエルはそうではない。
大量生産品ではなく職人が素材の質や加工方法、パターンやカッティング、縫製、染色など一から全て自ら作り出している。このようなブランドをアルチザン系という。(アルチザンとはフランス語で職人という意味)
ポエル以外にもアルチザン系の有名ブランドでいえば、イタリアで120年以上続く老舗のタンナーであるグイディや、m.a+(エムエークロス)、レーベルアンダーコンストラクションなどある。
日本で言えば橋本淳さんが立ち上げたwjk、和製ポエルとも呼ばれるアンリアレイジでしょうか。(アンリアレイジはアルチザン系とは言わないかもしれないですが)
ポエルの魅力
ポエルのファンは世界中にいます。ブラッド・ピットやジュード・ロウが私服で着ているところはよくパパラッチされていますし、日本ではチバユウスケや宮本浩次、吉井和哉が着ている。
そんなポエルの服作りのゴールは洋服を第二の肌に昇華させること。
ここからポエルのデザインが始まります。
その一つがスパイラル
ポエルでよく見られるスパイラルですが、身体の腕、足など棒状になっているところでよく見られるデザインです。数年前にこういったオーバーロックデザインのものが巷でもよく見られましたが、実はオーバーロックはポエルが始めた技術の一つです。
オーバーロックとは簡単に説明すると縫い目、ほつれ目の部分は普段見えない場所でロック(ほつれないように)するが、それを表に出しているデザイン。
スパイラルによって体にまとわりつくような着心地、と細身のシルエットができ、ステッチが入ることによって、動く際に生地が完全に伸びきってしまうことを防いでます。
まだスパイラルはブーツにも見られます。
テーピング処理
シームの部分にテーピング処理をすることで一番摩擦が起こる部分をサポートしています。過去の作品ではロックを一切使わずにテーピング処理だけというシーズンもありましたが、いまではロックとテーピングを一緒がスタンダードになってきています。
医療用ゴムバンドの使用
硬くなく、それでいて耐久性、伸縮性の優れている医療用ゴムを使用することによって重いブーツをストレスなく足にフィットさせることができます。
股下を一枚のパターンで作る
これはポエルのパンツの代名詞ともいえます。股下を一枚のパターンで作ることによってパンツで一番摩擦の起こる股下に繋ぎめをなくしています。
普通デニムの場合は股下にリベットを打ったり、カンヌキと呼ばれる厚いステッチで補強しますがそれでも縫い目がどうしても発生してしまうので股下に縫い目がないは最強です。
そして画像を見てわかると思いますが、ポエルのパンツはボタンフライを全て外して開くと下部のとウエスト部分が真っ直ぐになります。
これはポエルならでは、他のパンツでは絶対になりません。
画像はありませんが、数年前のシーズンでパンツをワンピースで作るという変態さも見せてくれました。
普通パンツは右と左の前と後ろ、4つのピースで作ります。
ワンピースのパンツはウエストが全て繋がっている変態の作る究極のパンツです。
縁がありワンピースパンツのパターンを見ましたが、もうよくわからない。
もちろん、どこから縫えば正解なのかもわからないし、ただ呆然と見ていました。
ポエルは1995年にコレクションデビューして、2000年にコレクションをやめました。商業的なコレクションに嫌気がさしたそうで、その年から展示会に変わりました。
また普段、s/ sやa/wと発表するアパレル業界ですが、ポエルは一年に一度の発表。ここも彼のこだわりでもあります。
一つ一つ手作業で作ることで膨大な時間がかかりますし、旗屋でテキスタイルの制作から自ら行うので、一年に作れる洋服も限りがあります。
なので彼の作った洋服やブーツにはナンバリングがされています。
購入した際にそのナンバリングを見ることによって、そのアイテムが何番目に作られたのか確認するのも、購入した楽しみでもあります。
アルチザン系のブランドは調べれば調べるほど面白く、深みにハマっていく魅力があります。
ただ、女性受けは皆無です。 女性の方も男性受けは皆無です。
ただ、好きな人は好きなので、そんなコアな方にのみ受け入れられるのがポエルを始めアルチザン系と呼ばれる変態が作るブランドでしょう。
川の上流からモデルごと流して見たり、ビルの二階からカーテンで降りてきて見たり、廃病院のベッドで頭まですっぽり隠れるパンツをモデルに着せてずっと寝かせて見たり。展示やコレクションをしていた時期のやり方などもやっぱり変態です。
今回は下半身メインでしたが、ポエルの魅力を語り出すと止まらなくなりますのでこれくらいで。数枚ルックブック貼っておきます。
変態が作るかっこよさです。ブーツはカナヅチで叩いて履くものではありません。