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社会を動かす faith -信仰- の力

9月26日に開催された「G20 Global land initiative (G20 地球環境に関するセクション)」に参加するため、NYを訪問した。滞在中、創価学会インタナショナル国連事務所(SGI Office for UN Affairs)のHiro Sakuraiさんにお会いして、お話を伺う機会をいただいた。


Sakuraiさんは、語学留学で米国に滞在していた時期に現地で学会に入会し、現在はSGI国連事務所の所長として活動されている。創価学会は、1960年にアメリカ支部を結成後、1975年に創価学会インタナショナル(SGI)を発足。1981年に創価学会が国連広報局NGOとして登録された後、1983年にはSGIが国連NGO(国連経済社会理事会との協議資格をもつ非営利組織)に登録され、以来、核兵器廃絶運動を主軸に取り組んでいる。


近年、国連において「信仰を基盤とした組織」(Faith-Based Organization; FBO)が存在感を増しているそうだ。

FBOの示すFaith(信仰)とは、いわゆる宗教的(Religious)な信仰に限定されず、より広義での信仰的営みを意味している。世界の約80%の市民が何らかの信仰をもつ状況を踏まえ、国連環境計画(UNEP)は2017年、「Faith for Earth initiative(地球への信仰イニシアティブ)」を打ち出した。地球規模の課題に対応するため、信仰や精神性に基づく連帯やパートナーシップを深めようという取り組みだ。パートナーシップを組む相手には、いわゆる宗教組織やその指導者も含まれる。

かつては、宗教組織や聖職者は、学者や研究者、政策実施機関等の専門職員に比べると、ステークホルダーの一員としての参画に留まりがちだったものの、最近では、政策立案や実施の場面において、より不可欠な存在として認識されつつあるという。実際、これまで多くの人道支援や開発協力等の草の根的取り組みが、宗教的背景のある組織やそのネットワークの力によって行われてきた歴史もある。

余談になるが、ここで「信仰を基盤とした組織」(Faith-Based Organization; FBO)という表現について、こちらの論考を参考まで共有したい。

「ちなみに、白波瀬(2015)は、Faith-Basedという言葉のニュアンスが日本の状況にはあまり合わないとして、「宗教と結びつきのある組織(Faith-Related Organization; FRO)」という概念を提唱している。その理由として、「日本の場合、宗教団体を母体とする組織がないわけではないが、社会福祉や公共政策の領域におけるプレゼンスは欧米のように大きくない。むしろ日本では特定の宗教をもつ者がそうでない者とコラボレーションをするなかで事業が展開されていたり、宗教団体が公的機関との協働を展開するために便宜的に世俗的な法人として活動をおこなったりするケースが目立つ」と説明している。」

引用:一般社団法人 平和政策研究所

確かに、日本社会では、宗教組織が団体として広く社会活動を展開することは限定的だ。宗教組織であることで、不本意なバイアスを纏ってしまい、社会的な活動の妨げになることもある。同時に、決まった宗教組織に属する人は一部であって、「信仰」ベースとなると応答が難しい人も多いだろう。属さぬままに、内なる信仰心とつながるコミュニティに参画している人は増えている。いずれにしても、Faith-Relatedであれば、より多くの人にとって馴染む概念になりそうだ。

現在、FBOはアジア太平洋、南米カリブ、アフリカの3つの地域で、それぞれに自然発生的にユニークなネットワークが生まれ、持続可能な開発目標(SDGs)の実現を目指して、お互いに連携し合っているという。その構成は伝統的な宗教組織から、宗教的背景をもつ活動母体まで様々あって、日本で知られるところでは、キリスト教精神に基づく国際NGO「ワールド・ビジョン」や、「世界宗教者平和会議」、越宗派の仏教国際ネットワーク「アーユス」等が挙げられる。

よりよい世界をつくろうと課題解決に向けた取り組みは、個人から国レベルまで、日々世界各地で行われている。しかし、限られたリソースで継続することは難しく、何かを犠牲に成り立てば、歪みの集積は、いずれ本来向かう道を阻む障壁ともなるだろう。そうした意味でリソースの確保は重要で、宗教組織に安定した資金力があることは、活動を継続させる基盤の一つとなる。同時に、創価学会を例に挙げれば、池田大作氏が平和活動に力を入れていたからこそ、SGIがここまで発展したように、固有性に応じた対応から、組織全体の方向性や取り組みまで、安定したコミットメントを得られる引力があることも、宗教団体ならではの組織力だろうと話してくれた。

今では、国連でNGOとして登録されている創価学会も、ゼロからの歩みを手探りのなか続けてきたわけだが、国連本部というよりむしろ、意思決定をもつ加盟国や、カリブ共同体のような地域グループに向けての働きかけや関係性づくりの意義を感じているそうだ。話を聞きあえる仲があってこそ、連帯は力になっていくということだろう。

現在、創価学会インタナショナルがNY事務所をおく「The Church Center for the United Nations(国連チャーチセンター)」は、国連本部の向かいにある。"国連"と名付けられているものの国連の組織ではなく、キリスト教系メソジスト教会によって設立・運営されている民間の建物だ。センターの目的は「人権、開発、平和のために活動する他の宗教コミュニティや非政府組織に国連へのアクセスを提供するためのもの」(Sung-ok Lee)とされ、創価学会のように、宗教・宗派を超えて国際的に活動する多様な宗教組織やNGO等が入居している。

世界のFBOは物理的にも寄り合い、世界情勢と国連の議論を注視しながら、国連の発言や決議に対して、時に意見を述べ、時に歩調を合わせ、信仰に基づく自身の活動を続けている。

その過程で、協力や協働をはたらきかける時、相手が個人にせよ組織にせよ、話を聞いてもらう力になるのは、目先の利害を超えた姿勢だという。宗教組織の資金力は確かに継続する力になるが、信仰に支えられた深くおおきな動機や姿勢は、お金では得られないRespect(敬意)を生む。FBOが特別な力を持ち得るとすれば、要はそこにあるのだろう。互いの間に生まれるRespectから、互いの声を聞く耳がひらかれる。

一つ一つを重ねる先に積み上がるものを手掛かりに、次の一歩へ。
オープンマインドで話をしてくれたSakuraiさんと、ぜひ、これからも話をしていきたい。

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