「朔と新」いとうみく著 ~ブラインドマラソンと兄弟の絆~
前職のお仕事の関係で読むきっかけができた作品なので、noteで感想を書いてみようと思う。「朔と新」、ある兄弟の複雑なお話…といえばそうかもしれないし、兄弟愛といっても間違いではない。作者は数多くの児童書とYA小説を手掛ける「いとうみく」さん。元々保育関連の雑誌のライターをされている経歴をお持ちの方で、個人的に読み物というものがあまり得意ではないのだけれど…(コロコロコミックとテレビゲームブームの弊害…/笑)そういう人間でも非常に読みやすいと感じるのは、不特定多数に向けた記事を作成するお仕事に携わっていたからではないのかと思う。
あらすじとしては…祖父母の家に向かう際に乗った、高速バスの大事故に巻き込まれて視力を失った兄の「朔」と、自身が一番熱心に取り組んでいた陸上の都合に付き合ってくれてバスに乗ることになった兄の視力を奪うことになり、熱心に取り組んでいた陸上を辞めて普通の高校生として悶々とした日々を過ごす弟の「新(あき)」が、兄の「ブラインドマラソン」への挑戦を通じて新しいスタートを切る…
端的に言えば、外的要因による「絶望」から立ち上がろうとする「朔」と、内的要因による「挫折と罪悪感」を抱えたまま生きる「新」の対比的物語だと思う。そこにブラインドマラソンという、現時点で一般的にはあまり知られていないであろうスポーツを交えて物語が展開していく感じ…だけれども、
単にブラインドマラソンに奮闘する日々を描くだけでなく、対象的な困難に直面している兄弟に対し、それぞれ複雑な思いを抱く母親との関係性であったり、朔の恋人との関係や新の思春期の反発であったり…1つの作品としては非常に様々なストーリーが交錯する形なので、単に児童書あるいはYA小説としてではなく、一つのドキュメンタリーとして楽しめる作品になっていると感じた。
個人的には内的要因からの挫折が多い身としては「新」に対しての共感が強いけど、万が一大きな事故等に巻き込まれて大変な困難に遭遇した場合の糧になるのは「朔」であると思う。実際に「光」や「他者からの表情」を失う感覚は想像を絶するが、同時に失う中で人との交流や暖かいサポートに彼が触れていくことで、どのようにそうしたものを自分の中で新しい形で「取り戻す」のかも描かれている気がして…
ただ、唯一気になった点があって…実は、エンディングに向かっての2人の会話というか、告白が…ちょっと、気になったんだよなぁ。あれでこの物語の本当の結末や意味合いが変わってくると思うんだけど、個人的には…あそこで展開を変化させてしまうのは、物語的には複雑な感情を抱くものとして興味深いものにはなるけど、一方でちょっと違和感を感じてしまったんだよね…。
それに、ある意味ラストの告白的などんでん返しって、物語の方向性をガラっと変えてしまうこともあるから、なんだろう…自分は少しそうしたことを感じてしまったというか、少し煮え切らない形で物語が終わってしまうような気もして…ごめんなさい(笑)とはいえ、この展開は作者の方の希望なのか、あるいは出版社側からの要望なのか…意外とそういうこともあったりするらしいので…。
前職でYA小説(ティーン向け)というものを知ることになったけど、実は結構興味深い作品が多いと感じたので、時間を作って色々読んでいきたいなとは思ってる。
余談ですが、ヘッダー画像に使わせて頂いた絵が非常に印象的…。
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