
子ども向け生成AIワークショップ @ こども科学博2024
1. はじめに
2024年8月2日から4日にかけて、京都市勧業館 みやこめっせにて稲盛財団主催「こども科学博2024」が開催されました。今年のテーマは「テクノロジーのチカラ」。

その中で私は、NHKエデュケーショナルさまよりご依頼をいただき、”子ども向けワークショップ実行委員会”として、「君とAIのミライ工房」と題したワークショップを企画・実施しました。
やり切りました。
— しょーてぃー (@shoty_k2) August 18, 2024
8/2~4の3日間"子ども向け生成AIワークショップ@こども科学博2024"をNHKエデュケーショナルさまのご依頼を受け、実施しました!応募数 約1,700組もあり心臓がバクバクしてましたが、子どもたちの目の輝きや反応が忘れられない夏に。
詳細👉https://t.co/2IiZlwKv5O pic.twitter.com/TJdr0Pn2bb

このワークショップでは、生成AIを活用して未来の学校行事、移動手段、ファッションをテーマにした創作活動を行いました。
ここでは、ワークショップの内容や設計方法を公開します!
対象:小学3年生〜6年生(推奨)
時間:60分のセッションを1日5回、3日間で計15回実施
定員:各回 最大32組

ちなみに、私達のブースは事前申し込み制で合計約1,700組の応募がございました!(心臓ばくばく)
私たちの実行委員会は、以下で構成されています:
統括
川村将太(しょーてぃー)
メンバー
サガワさん(AIエンジニア、プログラマー)
白川さん(子どもの生きる力 研究者)
佐藤さん(デザインマネージャー、3児の母)
京都周辺の大学からの心強いアルバイトのサポートメンバー 13名

多様な専門性を持つメンバーや柔軟性高いアルバイトメンバーがチームとなり、技術と教育の両面から子どもたちにとって良質な体験をデザインすることができました。

2. 企画の背景と目的
近年、生成AIの急速な発展により、「つくる」という行為が大きく変化しています。これからの時代、AIを前提とした創造性の育成が教育においても重要になってくると考えられます。
一方で、現在の教育現場ではいくつかの課題が見られます:
知識の暗記や正解を出すことに重点が置かれがち
ゆえに子どもたちは失敗を恐れる傾向がある
テストの点数が重視され、個々の学習者の特性や成長過程が軽視されがち
教育カリキュラムの更新が外部環境の変化に追いつかない
これらの背景を踏まえ、私たちは以下の目的を持ってワークショップを企画しました:
生成AIを活用した新しい「つくる」体験を通して、子どもたちの創造力と探究心を刺激する
アナログとデジタルを行き来する中で、AIの可能性と限界を体験的に実感する機会を提供する
子どもたちがAIと創造的に関わる姿勢を養い、同時に保護者のAIへの理解・サポートを深める一助とする
正解のない問題に取り組む力、創造性、批判的思考力、そして新しいテクノロジーと共存する能力を育む
これらの目的を達成するため、私たちは綿密な体験設計を行いました。
3. ワークショップの体験設計
ワークショップを考えるにあたり実は多くの関係者がおり、それぞれの要求を実現する「四方良し」の体験設計が必要でした。(すごい難易度高かった…)

ここでは、特に”参加者”への体験設計にフォーカスしてお伝えします。
ワークショップの設計にあたり、私たちが最も重視したのは
「子どもと生成AI」の最初の出会い、
つまり"First Contact"を
ポジティブなものにすることでした。
多くの参加者のお子さんは生成AIを意識して使うのがはじめでした。つまり、この体験によって場合によってはネガティブな印象や敬遠してしまう可能性もあり、私はこどもの未来に大きな責任を感じていました。
そのために、以下のようなポジティブサイクルを設計しました。
WOW体験:生成AIの能力を体感
基礎とルールを知る:AIの特性や使用上の注意点を学ぶ
トライ:実際にAIを使って創作にチャレンジ
難しさとわくわくとの対峙:AIとの対話で生じる様々な経験と向き合う
AIと共創:AIの出力を活かしながら、自分のアイデアと融合させて創造する
リフレクション:体験を振り返り、気づきを言語化
ポジティブリコール:作品や体験の良かった点を思い出し、次へのモチベーションを高める
新たなトライ:得た知識と経験を活かして再挑戦

このサイクルは、3から5のステップが短期間で何度も繰り返されることを想定しています。子どもたちは試行錯誤を重ねながら、AIとの対話を深め、より創造的な成果物を生み出していきます。
また大切な点は、このサイクルはワークショップ内だけでなく、その後の家庭での継続的なAI体験も視野に入れていることだ。

ほとんどの生成AIサービスは保護者の適切な監督下での利用が必要となることや、それらを利用できるデバイス等の環境に関してはその過程の親御さんに依存することになる。
つまり、どんなに子供がまた生成AIを使いたくとも使えない可能性があるのだ。だからこそ、このワークショップでは保護者を参加必須にさせていただいた。
4. ワークショップの内容と流れ

ここで、本ワークショップの具体的な内容を簡単に説明しておきましょう!
このワークショップでは、子どもたちが20年後の「未来の学校行事」「未来の移動手段」「未来のファッション」のいずれかをテーマに手で絵を描き、その絵をAIと対話しながらデジタルアート化し、さらに動画化します。そして最後に、体験のふり返りをAIと一緒に行うといったプロセスです。
全体で60分のセッションの中で、子どもたちはAIとの共創を通じて、自分のアイデアを発展させていきます。
実際のワークショップは、以下の流れで進行しました:
WOW体験

このステップでは、生成AIを使って短時間で作成した動画のデモをまずお披露目。子どもたちに生成AIの可能性を印象的に示し、「すごい!」「面白そう!」「でもちょっと変なところもありそう。」という感動と興味を引き出しました。
学級崩壊しないように、最初に心を掴むこと。
これは大切です。

そして、実際にAIのチャットボットに声で話しかけてもらい、反応をもらいました!

タイピングがまだ苦手な子も多い中で、音声入力が精度高くできるようなっているので、どんどん話しかけていました。

🤞技術ポイント
言語モデルはOpenAI GPT-4o最新モデル (開催当時)。
音声入力には「Whisper」というAIの音声認識モデルを利用しているよ!
AIチャットの性格や振る舞いを規定するカスタムインストラクションは、たぶん200回以上書き直していました。
基礎とルールを知る

本格的につかってもらう前にかならず、生成AIサービスを利用する前に必ず抑えておいてほしいことをインタラクティブに共有しました!
AIの紹介と安全な利用のためのクイズ
AIに対する印象は?
AIや生成AIとは?
AIの安全な使い方を学ぶためのスピードクイズ
著作権や情報の正確性についての注意点を学習


例えば、「生成AIが作った情報は、全部正しい?」「じゃー、全部正しくないのはなんでなんだろう?」
「生成AIを使って、アニメキャラクターの絵を描いてもらい、ネットに投稿してもいい?」といった問いを通じて、AIの特性や使用上の注意点を楽しみながら学んでもらいました。

ポイントは、子どもの集中力の限界を考えてスピードクイズにしながら楽しんで学ぶことです!
実践!
ここでは「トライ」、「難しさとわくわくとの対峙」、「AIとの共創」のサイクルを高速に何度も体験してもらいます。

未来を描こう!手書きで絵を描こう
ここからは実際に作品をつくってもらうフェーズです。未来の学校行事、移動手段、ファッションのいずれかを選び、紙に絵を描いてもらいました。

アナログとデジタルの両方の体験を織り交ぜることで、参加者の作品に対する介入性や創造性を高めます。
ポイントは、「絵は雑でOK!失敗してもOK!」と伝え、あえて厳しい時間制限を設けることで頭の中のイメージが凝り固まる前に、次のAIとの共同作業にはいることです。

まずは率先して自分の”ひどい画力”を披露することがおすすめです笑

AIと対話してデジタルアートを作成
実際に書いた絵を生成AIに参照させて対話しながらミライをつくっていきます。子どもたちを見ていると画像が表示されたときに体がぴっくと動いたり、親と声をあげてびっくりしたりと、心が大きく動いていました!(嬉しい..!)

ただAIが生成した絵は、必ずしも自分のイメージ通りになるとは限りません。むしろ、予想外の表現が出てくることもあります。戸惑いや不満を感じることもあります。
その違いを「間違い」と捉えるのではなく、その一部を「面白い表現・発見」と捉え、AIとの共同制作を楽しむことがポイントです。
しばらくすると、予想外の面白い結果に驚き、わくわくするようになっていました。

AIが生成した画像をもとに、子どもたちは自分のアイデアとAIの出力を融合させていきます。まさに、AIが生成した予想外の要素を取り入れて、自分のアイデアを発展させていくのです。
まるで正解がないけど、人と協力してその人の長所や意見を認め、あらたなものに昇華していくように。

例えば上の画像では、”竜巻で移動するときにせっかくならゴミも回収してくれたほうがエコだね!”って思い、それをしっかり伝えたからこそ表現できた絵です。
参加者の作品を一部紹介すると、ある女の子は花で移動する乗り物をAIといっしょに考えてくれました。

AIをたんなる道具ではなく「アイデアの一緒につくりあげる助っ人」としてとらえることで、こどもたちはAIにわかるように具体的に説明する大切さも一緒に学んでいました。
🤞技術メモ
構造を維持したi2i(image to image)とStyle Transfer(ステイル転送・転移)を自然言語のやり取りで利用できるようにEasy-Peasy.AIの社長兼開発者と連携しました。彼とはシンガポールで一度ご飯を食べた仲です笑
おそらく、開催時点ではここまでできるのは国内初だと思われます。
Special Thanks:開発者のアカウント
Whoa, hold onto your hashtags! 🚀
— Marky @ Easy-Peasy.AI (@easy_peasy_ai) July 16, 2024
Claude 3.5 Sonnet just dropped a token bomb - now spitting out a whopping 8192 tokens!
That's like, 6000 words of pure AI brilliance.
Time to supercharge those tweets, folks!
P.S. This tweet was generated by Claude 3.5 Sonnet :-) pic.twitter.com/XTh3Antlg2
AIと対話して動画を作成
そしてこのあとは、映画監督になりきって作成した画像から4-5秒の動画を生成AIとつくってもらいました。
もちろんこれもAIと相談しながらイメージを膨らませます。


動いた瞬間、こどもたちは「すごー!」「かわいい♥」、「ぐにゃぐにゃする」などたくさん反応していました!
リフレクション

ただ、「楽しかった!」で終わるだけではもったいない。
多くのワークショップに対して、声を大にして伝えたい。
子どもにとって非常に大切なのは、リフレクションのフェーズです。
ここでは、生成AIを活用した独自の振り返りツールを使用します。リフレクションの主な目的は以下の通りです:
ワークショップを通じての学びや気づきを整理する
AIとの創造プロセスにおける気づきを言語化する
今後の活動や学びに活かせるポイントを見出す
ただ、大人でもそうだがリフレクションとは非常に難しいもので
そのアプローチを知っている人も少なければ、限られた時間内で行うことはより難易度があがります。
そこで、今回はいくつかの簡単な問いに答えていくと生成AIが動的に「振り返りのアドバイス」をおこなってくれるようにしました。

参加者には、このアドバイスも参考にしてもらいながらワークショップを通じて
気がついたこと
疑問におもったこと
発見したことや驚いたこと
などなど….を最後に書いてもらいました。
とてもすてきな何百ものキヅキを見ることができました。
以下、一部抜粋
優しいわかやすいことばで、しっかりお話することが大事だとおもった
AIは困っている人をたすける救助につかえると思った
AIはすごい。それを使うのは私たちだからたくさん考えないといけないとおもった。
AIをもっと発展させたい。AI作るときにもっと詳しくさせたい。そして、すごいのを作りたい。AIを使って次は暮らしに重要なものをつくりたい。AIはたくさんのことができた。
人間よりもはるかにかに知能をもっているように感じた。だからもっと発展した楽しい未来にしたい。
…未来のAI開発者や!しかもポジティブ。
FYI 他の展示ブースを体験してそれぞれ”キヅキ”を書くこともでき、それが中央のキヅキの木に集まっていきます。
みんなのキヅキが集まると...? -めか #こども科学博 pic.twitter.com/WiRO0lCW58
— 稲盛財団 (@InamoriNews) August 4, 2024
財団やNHKエデュケーショナルの方々からも、短時間で良質なキヅキが多く出ていると非常に高い評価をいただきました(テヘペロ!嬉しい!
ポジティブ・リコール

ポジティブ・リコールとは、子どもたちがAIと一緒に作った作品や、その制作過程での体験の中で特に良かった点、面白かった点を家族と思い出すことです。
そのきっかけをつくることが、ワークショップ設計者の腕の見せ所です。
「またやってみたい!」、「次は生成AIをつかて、○○にチャレンジしてみたい!」といった次への意欲を喚起することも、このステップの重要な役割です。
そのために必要なのは以下3つです。
作品
生成AI利用ガイド
生成AIツール
1.子どもたちがつくってくれた動画作品をクラウド上にアップロードして、保護者のスマホやPCからダウンロード・閲覧できるようにしました。また、最初に紙に書いた手書きの絵と照らし合わせて、思い出を振り返ることができます。
2,3.子どもおよび保護者向けにご自宅で利用するさいに最低限抑えてほしいことガイドをチラシでまた、ワークショップ中に利用したツールやその他の代替ツールをデジタルで配布しています。

ご自宅でも生成AIをつかってなにかしてみようという想いを大切に繋いでいくことが、私の強い想いです。

課題

私は「5-10分ちょっと生成AI体験をさせてみた」のようなワークショップを、生成AIに初めて触れるお子さんに提供するのは、おすすめする自信がない。
なぜなら適切なファーストコンタクトを演出する難易度が高いからだ。
だから今回のようなワークショップ機会はたくさん提供したい。
それに伴い、現状の大きな問題点は人材だ。
・適切な問をデザインする能力や対子どもへのファシリテーション能力、生成AIへの一定の知識・理解といった専門性をもった人材は希少
・小学生以下の場合はスタッフ1名に対して、子ども4名をサポートがいいところ
一方で、生成AIサービス自体が各年齢や理解度に応じてパーソナライズした対話体験を提供するため満足度は非常に高い。
例えば今回も英語で体験したいというお子さんがいらっしゃり、英語でAIと対話してもらった。
おわりに

「AIネイティブの世代の彼らに、我々大人ができることは何だろうか。」
この問いに対して、2年間答えはでない。
ただ言えることは
今回のワークショップで生まれた小さな火種が、やがて大きな炎となって、子どもたちの未来をちょっとでも照らし出すといいなと願っていることだ。
そして、その炎が周りの大人たちにも広がり、世代を超えて新しいテクノロジーと共生する社会実装にどんなに小さくてもいいから影響があると嬉しいな。
ある参加者のお子さんに「生成AIとお話してみてどうだった?」と聞くと、私にこんなことを言った。
「んー、これからがもっと楽しくなるかも!」
その言葉を聞いて、私は胸が熱くなった。
京都の炎天下を一時忘れさせてくれた。
まだまだ、私も色々やれることは多そうだ。

最後に、このワークショップの実現に携わってくださった全ての方々に心からの感謝を申し上げます。
まず、稲盛財団さまおよび、NHKエデュケーショナルの皆様、貴重な機会を与えてくださり、ありがとうございました。
他のブースは企業や大学ばかりなのに、個人の自分も参加することができ非常に楽しかったです。
子ども向けワークショップ実行委員会のメンバーの、サガワさん、白川さん、佐藤さん、そして13名のサポートメンバーの皆様、それぞれの熱意と温かい心に支えられました。
ツールの追加開発を受けてくれたDmytroさん、展示デモ動画を寄稿してくれたいついさん、ありがとうございます。
そして何より、好奇心旺盛に参加してくれた子どもたち、そして彼らをサポートしてくださった保護者の皆様に深く感謝いたします。
問い合わせ窓口
子ども向けの企画についての取材、メディア掲載、講演、その他お仕事に関する相談は以下でお受けてしております!(知り合いはXやFacebookでも!)
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やり切りました。
— しょーてぃー (@shoty_k2) August 18, 2024
8/2~4の3日間"子ども向け生成AIワークショップ@こども科学博2024"をNHKエデュケーショナルさまのご依頼を受け、実施しました!応募数 約1,700組もあり心臓がバクバクしてましたが、子どもたちの目の輝きや反応が忘れられない夏に。
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