改良湯の新暖簾デザインの話。
渋谷の改良湯が2度目のリニューアルをして1ヶ月以上が経ちました。
男湯のサウナを拡張し外気浴まで作り、改良湯は最強のサウナホスピタリティを備えました。
それでも最初は「お客さんに喜んでもらえるかな…」とオーナーさんは心配していましたが、ここ1ヶ月は時間が経つのも忘れるほど忙しく、それはリニューアルでしっかりとまた多くの改良湯ファンが増えているようで良かったなと思いました。
改良湯の新暖簾のデザインをすることになった
改良湯のオーナーさんに「リニューアルに合わせて別パターンの暖簾が欲しい。イベントの時などに雰囲気を変えられるような特別な暖簾のデザインをしてくれないか」と言われたのが去年の9月頃。
当時ちょうど改良湯でTempalayのイベントをさせてもらっていた時のことでした。
よく改良湯でイベントをさせてもらっていたけど、まさかリニューアルに合わせた新暖簾のデザインをさせてもらえるとは思わなかったので、「僕で良いんですか??」と聞いたところ、「信頼していなければ頼まないです。」と言われて俄然やる気が出たのを覚えています。
「ととのい」を現すキーワードは「浮遊感」「宇宙」
改良湯といえば壁のクジラの絵がとても象徴的です。
なので、ある程度ブランディングは合わせた方が良いだろう、ということでクジラと「深海」の世界観でグラフィックを起こすことを考えていました。
しかしオーナーさんから企画途中に「深海より宇宙みたいなイメージが良いかも」と提案され、リファレンスとして、空でクジラが泳いでいるイラストなどを見せてもらいました。
ー「ととのう」ことは「体が浮いていって無になる感覚」。それが表現された暖簾になれば。ー
確かにその通りだなと思ったのと、「クジラ」「宇宙」「銭湯」という組み合わせが面白過ぎるなと思いました。
そこでクジラを使うことは変えずに、背景を宇宙に変えて、クジラが浮遊しているかのような構成にしようと考えました。
更に「渋谷の銭湯」「オシャレな改良湯」「都会的」など、既に改良湯にあるイメージを表現するためにクジラの写真を参考に無数の三角を引いて3Dポリゴン風のクジラにし、周りに星を散りばめたグラフィックをラフに作っていきました。
初期のグラフィックラフです。ここから、「密度が足りないから星雲的なの模様を入れてみよう」「ただの宇宙になると面白くないから幾何学模様も入れて、都会感や、渋谷の最先端感を引き立たせてみよう」など試行錯誤をしてグラフィックを作っていきました。
めちゃ端折りますがオーナーさんにはいくつかパターンでのデザイン提案もさせてもらって、最終的にはこのようなグラフィックになりました。
背景の星も被りをなくしたりして配置バランスが気持ち良くなるよう、ミリ単位で調整つしていくという、誰にも気づいてもらえないような作業をしています(笑)。
普段はあまりグラフィックデザインをする機会が少ないですが、こういう没入ができる作業はいつでも楽しいものです。
親しみやすい可愛さと、都会的な格好良さを兼ね備えた書き文字ロゴ
グラフィック制作と同時に新暖簾に合わせたロゴも作っていきます。
これまでもいくつか銭湯系のロゴデザインはしてきましたが、理系脳なのでいずれも整数で制御しやすい直線で構成されたロゴを作ってきました。
なので改良湯のロゴは元々とても好みなんです!
自分も作りたかった!!
ゆえに既存の暖簾との差別化を図るためにも、今回は曲線を取り入れた書き文字ロゴを開発することにしました。しかし全体を曲線でデザインしていくと可愛さに振り過ぎてしまって改良湯のイメージから離れてしまう恐れもあるので、直線も取り入れる形でデザインしようと考えました。
最初はiPadで手書きで発想
僕が書き文字ロゴを作る時は、最初はiPadで手書きで文字を描き、それをイラレに貼ってトレースして形を整えていくという作業をしています。
東京銭湯 - TOKYO SENTO - グッズもそんな流れで最初は描いてからデザインしています。
今回も同じ手法でまず、曲線と直線のミックスを意識しながらラフに文字を描いていきました。そして、最終的にイメージに近いのがこの2つの書き文字ラフでした。
今回の改良湯ロゴの大元はこれです!字が汚い!(笑)
僕は字を書くことが下手で、字が汚いと、整える作業でだいぶ時間をロスしてしまいます。
書き文字ロゴは字が綺麗な人が描いた方が最初の解像度が高く、最終稿までの到達が早く仕上げられる気がします。
というわけで、ここからはイラレの作業です。まずは、この書き文字ラフをイラレに貼ってトレースしていきます。
左から右へ向かってディティールを上げていったりパターンを作ってみたりしていきます。
最終的には暗い空間に浮かび上がるロゴのイメージだったので途中から暗い背景を敷きながらデザインしました。
曲線のディティールを上げる主な作業は、線の先を細らせて「エレガント」なイメージを出す作業をしました。
直線は、線が繋がるところに丸みを足したりと直線部分にも曲線のニュアンスを出してきました。
こうして曲線と直線がミックスされたメリハリのあるロゴデザインにしていきました。
他にもディティールを詰めながらバランス調整などをし、初稿が完成。
一見バランスよく見えたのですが、俯瞰で見ると1文字ずつだとバランスが良いのですが、縦に積むとバランスが悪い気がしてきました。
そして色や、周りの星のしつらえも相まってイケてるホテル(?)ぽくなってしまいちょっと銭湯らしい柔らかさが足りない気がしました。
そこで文字の組み方を変えてみます。
すると横置きにした方が重心が安定してバランスが良い。
そして「改」「良」それぞれの下の曲線が隣の文字の星マークに繋がる感じが文字同士の連帯を生む。
線もちょっと太くして更に安定感が増し、少しだけ柔らかいニュアンスも増えました。
最終的にロゴをグラッフィックに載せても違和感が出ないように色を調整して完成です。
手書きで字を書くのが下手でも頑張ればなんとかなるもんです!!
更にこの感じで改良湯内の男女の各暖簾と…
2階のコインランドリーの壁も一緒にデザインさせてもらいました。
男女の各暖簾は「今どき女が赤で、男が青なのはどうなんだろう?」というオーナーさんのお話もあり、大まかには一般化している赤青で表現しつつも紫色を挟んだグラデーションと、2枚の暖簾が繋がって見えるデザインにすることでなるべく隔たりを感じさせないようにしました。
コインランドリーの壁は、デザインをはめる枠が窓枠のように見えたので、窓の外を見ると夕暮れにクジラが空と宇宙の境目を泳いでいるような景色が見え、エモさ感じてもらいながら洗濯物が乾くのを待って欲しいなと思い、デザインしました。
オーナーさんの「信頼していなければ頼まないです。」という言葉からのモチベーションで、細部にまでこだわったものが作れました。
そして、今回のデザインの設計の中で1つ嬉しい誤算だったことがあります。
それは、夜になると入り口の暖簾の発色が、照明に照らされて一段とカッコ良く見えることです。昼と夜とで表情が変わる入り口の暖簾。照明の効果って素晴らしい!
というわけで、改良湯の新しい暖簾のデザインのコンセプトと、表現したかったことを書かせてもらいました。
今回何をやったかと言うと、オーナーさんの求めたイメージを具体的に表現しただけ、という感覚でした。
それはデザインをしたとも言えるけど、あまりデザイン的なロジックは使わずに、一緒にアート作品を作らせてもらった感覚です。
新しい暖簾のデザインを通して、今回の改良湯のリニューアルに微力ながら関われたことは銭湯好きとしては嬉しい経験でした。
色々グッズも作ったので買ってね!
今回は色々なグッズデザインも一緒にさせてもらいました。まずは既に改良湯店頭で販売されているステッカー!
そして更にTシャツとロンTも作りました。オーバーサイズのボディで作ったので緩く着て欲しいです。
バックプリントに暖簾のグラフィックを載せて、表の胸部分に今回作ったロゴの刺繍がされているデザインです。
改良湯に行った際には入浴を楽しむと共に、暖簾など改良湯の新たなデザイン達にも目を向けてもらえると嬉しいです!