BathHausを閉店した話。
2022年12月30日(金)をもってBathHausを閉店しました。
「BathHaus」は地下にコワーキングスペースを備え、1階に小さなお風呂とクラフトビールが飲めるバーが併設された、2019年に作られた「ハイパー銭湯」という新たな価値観を体現した施設でした。
「仕事してひとっ風呂浴びてビール飲めるって最高でしょ!」というコンセプトで建てられ、今でこそ「銭湯 × クラフトビール」「銭湯 × コワーキング」は業界ではよく見かける価値観となりましたが、当時それをわかりやすく伝えたのが「BathHaus」だったと認識しています。(もっと前からやっていたよ!という施設もあるかもしれませんが。)
故に「銭湯」の歴史の中では結構重要な施設だったのではないかと考えています。
当時の個人的な想いとしては、うまくいかない運営状況だったとしても、それでも既に常連さんがいたり、親子での入浴客がいたりと銭湯らしさが垣間見れていたので、そんなお客さんのためにも引き継いで施設の存続をしたいなと思い、2020年からデザイン会社DSCL(デスケル)で運営を引き継ぐことになりました。
デザイン会社で運営しようと考えたのは、当時は「東京銭湯 - TOKYO SENTO -」の活動を通して、銭湯を活用したPRイベントやブランディングなどの、「銭湯 × クリエイティブ」によるソリューション事業を展開していたので、そういった事業開発した仕組みを使ってデザイン会社の方で新たな収益構造を作る意図がありました。
それにより「BathHaus」を継続事業として成り立たせながら地域のために根差した銭湯をやっていきたいという考えがありました。
しかし、その後これまでの3年間は頑張って存続させてきましたが、結果としては力及ばずに閉店という形になってしまい、お客さんにも会社にも申し訳ないなぁという気持ちです。
ですが、とても難しい3年間ではありましたが、逆にとても楽しかった3年間でもありました。
そこで簡単にですが、これまで「BathHaus」を3年運営してみて気づいた凄かった点や、逆に難しかった点を振り返りながら閉店の経緯を書こうと思いました。
そしてこのnoteの最後で、関わってくれた多くの方々に対して感謝の気持ちをお伝えできればと思います。
まずは「BathHaus」の凄かったトコロ!
0→1の凄さ。新しい価値観を生み出した施設!
まずは、「BathHaus」は前経営者の発想力で生み出された創造性の高い施設であることです。
「コワーキング & 銭湯 & クラフトビール」という組み合わせは、今となってはコンテンツ自体に真新しさを感じないかもしれませんが、当時はそれらを流行りかけてた「チル」というコンセプトが覆い、その上に立脚したブランドを作り込んでいました。
銭湯に「チル」という記号が紐づくことによって銭湯自体の価値観がアップデートされた気がしました。
そのような施設は銭湯に限らず世の中にまだなかったと思ったので、出てきた当時はとても新規性のある革新的な施設だなと捉えていました。
新しい価値観で作られたコンセプトや、しっかりとしたブランドがある「BathHaus」は、各種メディアから取り上げられやすいという副次的な効果がありました。
なぜかというと、差別化要因がはっきりしているので他とは違った特徴のある取り上げ方がしやすく、人を惹きつける面白い情報として発信しやすくなるからです。
引き継いだ後も毎年様々な取材を受けさせてもらい、それによる集客効果はだいぶあったと思います。
「新しい価値観を生み出した施設」ということが「BathHaus」の最大の特徴だったなと考えています。
イベントに特化すると強い!
コロナ禍が長く続いたため、人が集まるイベントは実施がしづらかったのですが、運営後期は数回ですが「BathHaus」でイベントを開催することができました。
通常のイベントスペースと違って「お風呂」と「飲食」を提供できるので、他とは違った体験企画を提案できることが「BathHaus」の強みでした。
東京の離島「御蔵島」のPRイベントでは特産品である柑橘「かぶつ」を「お風呂」と「飲食」で楽しんでもらう体験づくりができたことは、「BathHaus」ならではの提供できる価値となりました。
2021年からは地下のスペース(元コワーキングスペース)も借りるようになったので(最初の引き継ぎでは1階部分だけだった)、仲の良い常連さんと地下のスペースを使い、周辺地域へ向けてフリマイベントやマルシェイベントを企画して開催し、地域交流を促進するような活動も少しだけできました。
イベントを開催すると通常営業時の3〜4倍の売り上げが確保できたため、そこも凄かった点です。
良いものがなんでも集まる「BathHaus」!
メディア取材がたくさん集まったこともそうですが、お客さんをはじめスタッフや企画など色々な良いコト、モノ、人が引き寄せられる場所だったなと思います。
「代々木上原」という元々ハイセンス(?)な人が多く集まる場所ということもあり、「BathHaus」に集まってくるデザイナーやクリエイター、アーティストの方々との交流は面白かったです。
僕が「BathHaus」でやってみた自主イベント企画は全て常連の設計士の方と元スタイリストの方と一緒に企画していたのですが、業種は違えどそれぞれの持ち味を生かして共鳴し、遊びながら、自主イベント企画とは思えないクオリティで毎回開催できたことが、最も楽しかったことだったかもしれません。
銭湯を介した地域交流が「代々木上原」だと従来の銭湯らしく無い、やたらクオリティの高く、また違ったアウトプットになることが面白いポイントでした。
銭湯が存在する地域性と、そこにどういうつながりを持つのか、どんな人達が集まるのか、どんなブランディングを仕掛けるのかで、それぞれの銭湯に全く別の変化を付けることができるということは、また学びにもなった点です。
逆に「BathHaus」の難しかったトコロ!
全てのレベルが高い「代々木上原」!
「BathHaus」がある「代々木上原」は雑貨店や飲食店など、とにかくクオリティの高いコンテンツが多く、更には生活様式も一般的にはオシャレでハイソ(死語?)な地域だと考えています。
「BathHaus」は銭湯とクラフトビールが主な商品でしたが、ある程度食事の提供も、と考えると相当に高いパフォーマンスが求められるのではないかとうプレッシャーが少なからずありました。
「銭湯運営」に関してはさほど問題はなかったのですが(設備劣化対応などは大変だった)、飲食事業に関しては初めてで、僕含めデスケル自体があまり「代々木上原」ナラティブがなかったのこともあり、地域ニーズを叶えることにかなり苦戦した部分でした。
コンセプトを引き継ぐことの難しさ!
「BathHaus」は店のコンセプトがしっかりしていて、それに紐づいたブランディングも素晴らしかったのですが、それを引き継ぐことはメリットもあればデメリットもありました。
メリットは前段でも書いた通りですが、デメリットは、コンセプトを引き継ぐと何かを変えようとする時に変えづらい判断材料になるという部分です。
そこに加えて今までのお客さんに対する配慮もあり、なるべくコンセプトは大きく変えずにアップデートをする形で引き継いだのですが、それでも臨機応変に新たな商材やサービスを入れていきたいと考えた時に、それが難しい場合もありました。
引き継いだ他人の強いコンセプトは、それに引っ張られると可変が効かずに行き詰まるので、それを振り切ってある程度マーケティングに立脚した上でブランディングを組み立て直さないと、いくら良いものを作り込んでも継続事業としてなり得ないという現実はあるな、と思い知らされました。
しかし、そうなると革新性のあるものは生まれづらくなるジレンマもあり、デザイナーとして今後考えていく必要のある課題だと思いました。
新規事業を回していく運営体制の構築ができなかった!
他にも施設状況など、様々な難しい部分はあったのですが、結局全ては健全な運営体制の構築ができなかったことに尽きるかなと思います。
何かというと、デスケルはデザイン会社なので、本業のデザインの仕事をしながら半分マンパワーを割いて「BathHaus」のマネジメントをしようとしても、必要なPDCAのサイクル速度は分割された1/2しか発揮できなくなるので、適切なタイミングで適切な対処を、スピード感をもって展開しずらいということです。
ゆくゆくはしっかりと専任の店舗マネージャーを配置したかったのですが、収益が上がっていかないと当然それは叶わない話でした。
課題があれば解決していけばいい。わかっていてもそれができませんでした。
そして会社全体の組織開発を考えていくと、デザイン業務とのシナジー合わせが難しいという側面もありました。
もちろん、そのアンマッチングな事業形態からお客さんに「デスケルさん、面白いことをやっていますね」と言ってくれたりと、面白い効果もたくさんありましたが、コロナ禍という難しいタイミングでの運営になってしまったこともあり、会社事業としてやるには様々見通しが甘かったなと思っており、しっかりと反省点として受け止めなければならない部分です。
振り返って今思うこと。
ここまで簡単に(?)振り返りを書いてきましたが、今の気持ちとしては、閉店はしましたが、寂しさよりかは「よく頑張った!難しい中、3年間は存続できた!」という晴れやかな(?)気持ちの方が大きいです。
そして関わってくれた皆さんに対して、ただただ労いの気持ちと感謝の言葉しかありません。
最後に伝えたい色々な感謝。
「BathHaus」への感謝。
リニューアルオープンの1ヶ月後にはコロナによる緊急事態宣言で休業となるような大変なスタートでしたが、コロナ禍でテレワが進む中、「BathHaus」で社員が現場スタッフとして手伝う機会ができたことで当時不足していた対面での交流の総数を増やしてくれたという面がまずあったと思います。
「BathHaus」でランチを食べたり、飲み会をしたりと社食の役割も果たしてくれました。
コロナ禍で大変でしたが、逆にコロナ禍だからこそ集まる意義を持たせてくれたのは案外存在としてデカかったなと思います。
そして、デザイン会社での運営ということもあり各種グッズなどのクリエイティブを社内で作れたことも良かったこの1つです。
Tシャツやステッカーとしてたくさん売れた、家が風呂に入る「バスハウスくん」や、
インスタにアップするとやたら反応が良い「クラフトビールと銭湯と」電灯看板など、色々作れました。
普段はブランディングやUI / UXのデザインの仕事をしていますが、toCと直接的な接点を持つことは常ではないので、「BathHaus」というサービスの運営会社として、コミュニケーションやクリエイティブを直接届けるシーンを作れたのは、デザイン会社としては貴重な体験となったのではないかと思っています。
歴代店長とスタッフに感謝。会社のみんなもありがとう。
この3年間はずっと難しい運営でしたが、歴代店長をはじめ現場スタッフの皆さん、頑張ってくれて本当にありがとうございました。
特に一代目の店長マリリンとは2年間二人三脚状態だったのでグングン成長していく姿が見て取れてとても頼もしかったですし、そんな姿を見て僕も色々と勉強になりました。
マネジメント能力がしっかりとあり良きマネージャーでした。
二代目のタムケンは料理付きから自分で考えた限定メニューを開発して提供してくれたり、良い距離感での接客でお客さんに愛されていることが見て取れて良い空間を提供してくれたなと思います。
現場スタッフもみんな「BathHaus」が好きで入って来てくれて、それぞれに能力を持った良い子たちばかりでとても助かりました!
会社のみんなも現場手伝いやグッズなどのデザインの手伝いの他にも、定休日の風呂掃除を一緒にやったり、イベントを企画してくれたりと色々と参加してくれてありがとう!
「Chipper`s」がめちゃくちゃ美味しかった!ありがとう。
「BathHaus」を引き継ぐ前からのスタッフで誰よりも「BathHaus」を知っているチャンさんが、「Chipper`s」という屋号として毎週特別なメニューとして提供してくれたサンドがめちゃくちゃ美味しかったです!
売り上げを作ることが難しい月・火曜日においてとても貢献してくれました。
人柄も最高でChipper(ゴキゲン)な人です。
「Chipper’s」はバーや飲食店など、色々なところへ出張でサンドを提供しているので、ご興味ある店舗さんは是非お誘いしてみてはいかがでしょうか!
「BathHaus」で食べれなくなる分、僕も食べに行きたいので!
お客さんにもお犬さまにも恵まれました!ありがとう。
そして何より今まで「BathHaus」を利用いただいた皆さんありがとうございました!
特にリニューアル後もずっと支えてくれた常連の皆さんには感謝しかありません。
暇な営業の時には逆にスタッフと絡んでくれてありがとうございました!
そして代々木公園などが近くにある土地柄、「ワンちゃん」連れのお客さんが多く、「ワンちゃん」がひとたび大集合すれば、とても賑やかで癒される空間となり、「BathHaus」のブランドづくりに大きく関わってくれました!
他にもブルワリーの皆さんやイベントに出展してくれた方々、レシピ開発に協力してくれた友人、照明設計をしてくれた友人など、本来なら1人1人にお礼を言いたいのですが、このnoteでのご挨拶とさせてもらえればと思います。
皆さん、本当にありがとうございました!!
閉店した「BathHaus」の今後は?
さて、最後に今後の「BathHaus」に関してですが、現契約が3月中まで残ってはいるのですが、今回は残念ながら譲渡などによる存続は難しそうで、3月中に解体工事が始まり「BathHaus」は無くなる予定です。
個人的には貴重な施設だと思っているので勿体なさはあるのですが、飲食店などと同様にテナントとして入っていたのでしょうがないなという状況です。
そして、店は閉めましたがグッズはまだオンラインで半額セールをしていますので、記念にどうぞ。
長い記事になってしまい、すみません!!!
最後に、皆さま改めてありがとうございました!!!!!!!!!