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子育て四訓

 昨年度まで児童養護施設の施設長であった私は、小・中学校の入学式と卒業式には、子どもたちの親代わりとして参列させていただいていた。どちらも、子どもたちの大切な通過儀礼であり、私自身も、主人公である子どもたちと感動を共有できる大切な「時間と空間」である。
 私が楽しみにしていたのは、中学校の校長先生の式辞である。これまで何度も素敵な式辞が語られたのだが、私にとって知ることができて良かったと最も実感できたのは、数年前の式辞で紹介された「子育て四訓」が印象的であった。入学生の父母向けに語られたものだが、すべての子育てにそのまま生かせる素晴らしい教訓である。高校や大学を卒業し、いずれ自立して社会に巣立っていく子どもと、物理的に離れていても常に心が通い合っている状態が、本当の子育て(児童養護施設で言えばアフターケア)なのだと改めて気づかせてくれる言葉だ。

 『子 育 て 四 訓』
    乳児はしっかり肌を離すな
    幼児は肌を離せ 手を離すな
    少年は手を離せ 目を離すな
    青年は目を離せ 心を離すな

 新入学生に向けられた校長先生の式辞も素敵だった。中日新聞の「発言ヤング」という欄に載ったこの中学校の生徒の投稿だ。中学2年生に進級した女子児童が投稿した文章が紹介された。タイトルは、「2日後には みんな友達」…以下に全文を紹介する。
 
 「ちょうど一年前、とても心配していたことがあった。それは、中学生になること。周りの友達はみんな、ワクワクした様子だったが、私はそういう気持ちにはなれなかった。何も知らない場所で、半分近くは知らない人たちと三年間もやっていけるか、不安でたまらなかったからだ。あのころは「中学生にはなりたくない」とばかり言っていたのを、今でもおぼえている。
 入学式の日、張り出された名簿を見たら、やはり知らない子の名前ばかりだった。一人、暗い気持ちで教室に入った。しかし、二日後には知らなかった子とも普通に話せていた。少し前に思っていたことも忘れて。その日から毎日、学校へ行くのが楽しくなった。日に日に仲間の良いところを見つけ、共に笑い、喜び合えるようになった。一年で築き上げた友情は、私の宝物になった。」

 小学校を卒業したばかりの新入学生が、心の中に期待よりも不安を膨らませて中学校の門をくぐった経験と、その不安がすぐに解消され、中学校生活がいかに楽しいかを伝えてくれる素晴らしい文章だ。

 その後、校長先生とお話をする機会があり、入学式で紹介された投稿記事についてうかがって驚いた。その中学校では、自主的に新聞社に記事を投稿する生徒さんが結構いて、年間7~8名の生徒さんの文章が掲載されるとのこと。先生方の教育力・指導力の賜物だと思われるが、その投稿を新聞から見つけ出し、登校した生徒さんの了解を得て、入学式の式辞という大切な場面で紹介する校長先生も素晴らしい。中学校において、いかに教育の好循環を創出しているのか、その実践を学べた入学式だった。
 今年から立場が変わり、中学校の入学式や卒業式には参列できなくなってしまったが、きっと今年も素敵な式辞が披露されたことだろう。

 後日、埼玉県の秩父神社には左甚五郎作の彫刻「子宝 子育ての虎」があり、その彫刻の下に「親の心得」という「子育て四訓」とほぼ同じ内容の看板があることを知った。

秩父神社・秩父観光協会のHPより


秩父神社・秩父観光協会のHPより

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