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ダークツーリズムとジョン・レノン

 8月11日、愛知県半田市で開催された「オール知多ピースフェスティバル」にて「戦争遺跡から学ぶ旅『ダークツーリズム』」という講演を聴く機会に恵まれた。椙山女学園大学の現代マネジメント学部准教授の水野先生とゼミの女子大学生の皆さんによる発表だった。<字数:2413文字:上記写真は半田赤レンガ倉庫(筆者撮影)>

 「ダークツーリズム」とは、災害被災跡地、戦争跡地など、人類の死や悲しみを対象にした観光を意味する。ダークツーリズムの基本的な目的として、その悲惨さを後世に伝えていくために関連施設を保存することと、現地を訪れることで災害や戦争の悲惨さを追体験することが挙げられる。一般的に観光は娯楽性のあるレジャーであるが、ダークツーリズムにおいては学びの手段として捉えられる。関連施設の周辺は宿泊施設や土産店などが立ち並ぶ観光スポットになりがちなため、被害者や遺族の悲しみをビジネスに利用しているに過ぎないとするダークツーリズムへの批判もある。また、訪問者の無理解や倫理観の欠如により、当事者に対して心無い言葉が投げかけられる事案も発生している。特に心の傷が癒えてない人々が存在する場合には注意を要する。

 ダークツーリズムの対象となる場所はいろいろある。日本でいえば、戦争遺跡である広島の原爆ドーム、沖縄のひめゆりの塔、鹿児島の知覧特攻平和会館、長野の松代大本営、愛知県でいえば半田赤レンガ建物などだ。ハンセン病の国立療養所長島愛生園や東京都立第五福竜丸展示館も挙げられる。阪神淡路大震災や東日本大震災の遺構も挙げられる。海外でいえば、ポーランドのアウシュビッツや、旧日本軍が加害行為をした侵華日軍731部隊罪証陳列館や侵華日軍南京大屠殺遭難同胞紀念館、カンボジアのキリングフィールドやトゥールスレン虐殺犯罪博物館などもそうだ。

 ダークツーリズムは、戦争や災害の被害に遭った現地を訪れることでその悲惨さを体感し、その悲劇を再び繰り返さないためには何をすべきかを学ぶ機会となり、通常の娯楽目的の観光とは異なる意義を持つ。しかしながら、日本ではダークツーリズムの対象となる遺跡や施設は多いが、あまり積極的に活用されていないのが実情だ。その課題としては、教育旅行者や私のようなダークツーリズムに強い関心がある人以外の訪問者が少ないことが挙げられる。しかも、第二次世界大戦から80年が経過したことにより、戦争遺跡の保存や維持管理が困難となっている。
 水野准教授による「ダークツーリズム存続の危機」は、ハードウェアである遺構の危機と、ソフトウェアである語り部である戦争経験者の激減にある。

 そこで、水野准教授と水野ゼミの学生さんたちが提案しているのが「明るいダークツーリズム」だ。戦争や災害という暗いテーマだけでなく、他の楽しいテーマと組み合わせることが「明るいダークツーリズム」であり、他の観光資源と合わせることで訪問者を増やし、経済波及効果を大きくして維持管理のための費用を捻出という考え方だ。これは観光経済学を学ぶ学生さんが2022年、水野准教授に提案したのがきっかけになっているという。学生さんたちは、自分たちが通う椙山女学園の生徒や先生18名が、勤労動員で働いていた愛知航空機工場で空襲の犠牲になったことを知り、戦争が遠い昔の話ではなく「自分ゴト」として認識したという。

 学生さんたちが提案した知多半島を巡る「明るいダークツーリズム」の提案内容が素晴らしい。
 ①半田赤レンガ建物⇒②新美南吉記念館⇒③ミツカンミュージアム⇒④國盛酒の文化館⇒⑤半田運河⇒⑥河和海軍航空隊⇒⑦中之院⇒⑧食と健康の館⇒⑨野間灯台⇒⑩えびせんパーク本店…という内容だ。
 半田赤レンガ建物にはアメリカ軍による戦闘機からの弾丸によってできた銃撃痕がたくさん遺されているが、中にはカブトビールやランチが楽しめるレストランや企業によるワークショップが開催されている。私の好きな戦争遺跡の一つである。新美南吉記念館は新美南吉の童話が楽しめる一方、南吉の平和の思いを感じ取れる場所である。河和海軍航空隊水上飛行機基地跡には飛行機が飛び立った滑走路の遺構がある。大慈山岩屋寺中之院には、もともと千種区の覚王山付近にあった軍人像が92体もある。昭和12年に上海上陸作戦で亡くなった兵士たちの遺族が建立したもので、大半が当時では珍しいコンクリートの立像で、作者は、岐阜県中津川市出身の造形作家浅野祥雲氏(1891~1978)。1938年初頭、名古屋市千種区の覚王山にあった大日寺(現在は廃寺)に完成。その後、遺族が遺族一時金を持ち寄り、我が子の慰霊のために像の制作を依頼した。43年ごろまでに少なくとも108体が建立されたという。軍人像の制作が追いつかず、浅野氏は寺の小屋で寝泊まりして制作するほどだったという。92体の軍人像は、大日寺の廃寺に伴い、平成7年、岩屋寺の中之院に移転されたそうだ。

 椙山女学園大学水野ゼミの学生さんたちが考案した「明るいダークツーリズム」のツアーは楽しさと学びが織りなすステキな旅になっている。素晴らしいの一言だ。

 ところで、私自身は大学の卒業論文にて、THE BEATLESのリーダーであったJOHN LENNONの生い立ちとその心理社会的影響が楽曲にどのように表れたかをまとめた。今回、ダークツーリズムについて調べていて、とても驚いたことがある。
 「ダークツーリズムの概念は、1996年ににグラスゴー・カレドニアン大学のの教授、ジョン・レノンとマルコム・フォーリーによって『人類の悲しみの場をめぐる旅』として提唱された」という記述を見つけたからだ。
 これにはとても驚いた。しかしながら、私が大好きなビートルズのジョン・レノンは1980年12月8日に狂信的なファンの銃弾を受け、40歳で亡くなっている。同姓同名のJOHN LENNONが私の好きなダークツーリズムの名付け親だとはなんという偶然なのだろう。

私の記事を読んでくださり、心から感謝申し上げます。とても励みになります。いただいたサポートは私の創作活動の一助として大切に使わせていただくつもりです。 これからも応援よろしくお願いいたします。