MOTTAINAIを世界共通語にしたケニア女性:ワンガリ・マータイさん
日本語の「もったいない」を環境を守るための世界共通語として提唱したのはワンガリ・マータイさん。マータイさんは、環境分野で初めてノーベル平和賞を受賞したケニア人女性だ。
マータイさんが、2005年の来日の際に感銘を受けたのが 「もったいない」という日本語だった。Reduce(ゴミ削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)という 環境活動の3Rをたった一言で表せるだけでなく、かけがえのない地球資源に対する Respect(尊敬の念)が込められている言葉「もったいない」。日本の美徳の真髄ともいえるこの言葉を世界に通じる環境標準語にと考えた。この言葉と精神が、ケニアのみならず世界に広まれば、地球環境問題の改善に役立つばかりでなく、資源の分配が平等になり、テロや戦争の抑止にもつながると力説した。
日本古来の「もったいない」という考え方は、いわゆる収支や損得を考えた「ケチ」や「経済的」とは異質なものだ。例えば、昔から食べ物を粗末にすることや、食べ物を残すことによく使われた。これは、その食べ物を作った農家の方々、また家庭に届くまでに関わってきた人々、そして料理を行った人への「気持ち」が込められている。そして何より「大地や太陽・水」など「自然の恵み」への感謝の気持ちがある。まだ使える物を捨ててしまう場合にも使われる。これもその物を作った方や、関わってきた方々への感謝の気持ちが込められているのだ。物は何度でも使える限り修理して大切に使い、また、使えなくなったとしても、役割を代えて別の用途で使用してきた。「もったいない」という日本語の根底には“ありがたい”という感謝の気持ちがあるのだ。
マータイさんは次のように言っている。「この3RにRespectを加えたア4Rこそ、次の世代へとつなぐ健全で美しい世界を作ることに欠かせないのです。」
マータイさんのおかげで世界共通語となった「MOTTAINAI」は、いまから10年前の2013年にドキュメンタリー映画「もったいない!」につながる。この映画では、食料廃棄の驚くべき真実を伝えている。毎年EUでは9000万トン、日本では1800万トンもの食料が人の口に入らずに廃棄されている。世界で餓えに苦しむ人々は10億人以上に達し、子供の死者は年間6000万人。1日あたり1万7000人が死亡しており、5秒に1人の割合で餓死しているというのに…。この映画は、廃棄された食料が食料の価格を高騰させ、市場を不安定にし、間接的に世界の飢餓を招いていることも示した。
日本の食品の半分以上は世界から輸入したものだ。私たちは年間5600万トンもの食糧を輸入しながら、その3分の1(1800万トン)を捨てている。食糧の廃棄率では、世界一の消費大国アメリカを上回り、廃棄量は世界の食料援助総量740万トンをはるかに上回り、3000万人分(途上国の5000万人分)の年間食料に匹敵している。しかも、日本の食品廃棄の実に半分以上にあたる1000万トンが一般家庭から捨てられている。この家庭からでる残飯の総額は、日本全体で年間11兆円…さらにその処理費用で、2兆円も使われている。日本の食料自給率はカロリーベースで39%と先進国の中では最低の水準…日本は食糧の半分以上を輸入しながら、世界一の残飯大国でもある。
映画の中での印象的なシーン。
曲がったキュウリは店頭に並ぶことはない。出荷用の箱にきれいに入らないからだ。葉が1枚萎れたレタス、形の悪いジャガイモ、少しだけ小さなリンゴ…味や品質に合った区問題がなくても、形が、色が、大きさが揃わないだけで出荷時点で廃棄される。最終的には収穫した作物の40~50%がそのまま畑に捨てられる。
ベーカリーに並ぶすべてのパンは、夕方遅くまで出来立てでなければならない。豊富の品揃えのパンを常に焼き立てて提供することを消費者に求められる現代のパン屋さんでは、大量のパンの廃棄が常態化している。廃棄していたパンを木質ペレットと混ぜて燃料としてリサイクルすることにしたドイツのベーカリーのオーナーは語る。「ドイツ中のパン屋が廃棄するパンを燃料として使用すれば、原発を一つ閉鎖できるよ。」
MOTTAINAIキャンペーンの創始者であったワンガリ・マータイさんは2011年にこの世を去るが、亡くなる3週間前に日本の新聞社のインタビューに次のように答えていた。
「私たちが呼吸する空気、飲み水、食べ物、すべて、自然からの預かり物です。これこそがMOTTAINAI精神の最も大切な価値なのです」
マータイさんの遺言に基づき、葬儀に用いられた棺は環境に配慮して木材を使わず、骨組みは竹、材質はヒアシンスとパピルスの茎で編みこまれたとのこと…最期までMOTTAINAI精神を貫いた偉大な人だ。