食品ロス・食品廃棄がもたらす地球沸騰化
国連環境計画(UNEP)は「食品廃棄指標報告2024年版」を発表し、世界で1日10億食以上が廃棄されている一方で、およそ8億人が飢えに苦しんでいると指摘した。それによると、2022年に世界で廃棄された食品は10億5千万トン。家庭や飲食店、小売店などで食品の約5分の1が廃棄されている計算になる。加えて、世界の食品の13%は農場から食卓へ行く途中で廃棄される。合計すると食品の約3分の1が製造過程で捨てられている。
対照的に、世界の人口のおよそ3分の1は食料不安に直面し、7億8千3百万人が飢えに苦しんでいる。同報告書は、食品「廃棄」を家庭や飲食店、小売店などで捨てられる食品と定義する一方、畑で腐った野菜や冷蔵せずに傷んだ食肉など、サプライチェーン(供給網)の早い段階で捨てられる場合は食品「ロス」と呼んで区別している。
2022年に家庭で廃棄された食品は6億3千1百万トンで全体の60%を占め、飲食サービス業界の廃棄は28%、小売店は12%だった。1人あたりの年間廃棄量は79キロ。つまり、食べられる食品が1日あたり10億食以上、家庭で廃棄されていることになる。報告書によると、食品ロスや食品廃棄から排出される温室効果ガスは8~10%を占め、航空業界の排出量のほぼ5倍に当たる。それにもかかわらず、食品ロスや食品廃棄を国の気候変動対策に盛り込んでいる国は21カ国にとどまる。気候変動対策ではガス排出規制に注目が集まる一方で、食品廃棄という日常的な問題は見過ごされる傾向があるとしている。食べられるのに捨てられる食品ロス(food waste)は、食品が作られるまでに使われたコストがすべて失われるということだ。食品ロスの廃棄は、世界経済に打撃を与え続けているす。さらに、気候変動や自然資源の喪失、環境汚染を助長している。
世界では7億8,300万人が飢餓の影響を受け、地球上の人類の3分の1が食料不安に直面している。コロナ禍、そしてロシアによるウクライナ軍事侵攻により、食料不安や飢餓の人口は増え続けている。国連WFP(世界食料計画)は、2023年、3億3300万人が高いレベルの食料不安に直面すると推定していた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以前と比較すると、この数は2億人も増加している。日本では1日約4800万食相当の食品が捨てられたとみられ、UNEPは「多くの人が飢餓に直面する中で起きている世界的な悲劇だ」と警告している。
各国統計や学術論文を分析した推定では、2022年に世界の家庭から出た食品廃棄物は6億3100万トンで、1人当たり79キロ。報告書作成に携わった英国の環境非政府組織(NGO)が各国の一般的な食事から算出した1食の平均量を基に、失われた食事数を計算した。堆肥や飼料として再利用する農村部に比べて廃棄が多い都市部での対策が課題だとして、フードパンクなどの取り組みを進める必要があると強調した。高所得国と中所得国で廃棄量に大きな差はなかったという。
日本については家庭の廃棄が2008年から2019年にかけ約30%減少したといい、「長年の削減活動の成果が出ている」と評価。一方で、依然として年約740万トンが無駄になっているとも言及した。2021年に発表した最初の報告書の2倍近い93カ国で得たデータを解析しており、「廃棄は環境負荷が高く、各国が優先度を上げて対応すれば解決できる問題だ」と訴えている。
『食品廃棄指標報告』から、平均気温と食料廃棄水準との間に、直接的な相関関係があることが分かっている。気温が高い国ほど、家庭での1人当たりの食料廃棄量が多いとみられており、これには、可食部の少ない生鮮食品の消費量の増加と、しっかりとした冷蔵・保存対策の不足が要因となっている可能性がある。季節的な気温上昇、猛暑、干ばつによって、食料を安全に貯蔵、加工、輸送、販売することがますます困難になり、大量の食料廃棄や食品ロスにつながることが多くなっている。食品ロスや食料廃棄は世界の温室効果ガス排出量の最大1割を占めている。これは、平均気温の上昇と食料廃棄の増加が相乗効果を起こし、いまや地球沸騰化をものすごい勢いで進行させていく可能性があるのだ。