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童話の素晴らしさ②『うさぎとかめ』
イソップ物語の『うさぎとかめ』…誰もがそのストーリーを知っているのではないだろうかと思うほど、世に知られた物語である。念のため、簡単にあらすじを紹介しておく。
あるところに、足の速いウサギと、足の遅いカメがいました。ウサギに馬鹿にされてしまったカメは、山のふもとまでかけっこの勝負をすることを提案します。ウサギは、自分が負けるわけはないと笑い、いざかけっこを始めるとどんどん先へ進んでいきます。あっという間に引き離し、カメの姿が見えないところまでやって来ました。余裕で勝てると思ったウサギは、休憩がてら居眠りを始めます。一方のカメは、その間も着実に歩みを進めていました。そしてウサギが目を覚ますと、そこにはすでにゴールをしているカメの姿があったのです。
あまりにも有名な物語ので「うさぎとかめ」の教訓は一般的に、ウサギのように自分の能力を過信してしまっての油断大敵を戒めたり、カメのように一歩ずつ着実に前進することの大切さに集約される。コツコツと真面目にがんばっていれば、目標を達成することができる。相手に惑わされずに自分のゴールを見据えることが大切だということもわかる。
少し視点を変えてみてみると、かめははじめからウサギとレースをするつもりはなく、自分との闘いに勝利したと考えることができる。うさぎは「かめに勝つこと」を目標にし、かめは「自己ベストを尽くして走り切る」ことを目標にしたのだ。そのため、かめは競争の最中、一度も休まず、途中で寝ているうさぎも眼中になく、ひたすらゴールを目指した。このレースを通じてかめは成長したが、うさぎは仮に勝負に勝っていたとしても成長はできなかったと考えられる。
もう一つ視点を変えてみてみると、うさぎとかめがいったい何を見ていたかが問われる。うさぎは「かめは遅いし、大丈夫。昼寝して勝ったら、自分の力をさらに見せつけることができる」と考えているので、うさぎが見ているのはかめであり、他の動物たちからの賞賛であった。一方、かめは「かけっこは得意ではないけど、がんばってゴールを目指そう」と考えていたので、かけっこの相手のうさぎやほかの動物たちからの評価ではなく、目標に向かって走りぬくことだった。つまり、かめにとって大切だったのは、目標を明確にし、それだけを意識し、その目標に向かって最大限の努力をすることだったのだ。この物語は「人生のゴール」を明確にしないと「どんなに速く走れても、自分のゴールには永遠にたどり着けない」ことを暗示している、とも言える。
私たちが生きているこの社会はとかく不平等なものである。私たちがこの物語のうさぎのようにならないためには、とにかく「自分がどこに向かいたいのか? 何をしたいのか?」に集中し、その達成のために「今やるべきこと」に全集中するしかない。私たち人間は一人ひとり、育った国、置かれた環境、能力、容姿…生まれた時から何もかもが違うのだが、「自分のゴール」だけは自分で決められるはずだ。社会、環境、能力は一人ひとり違えども、自分が何に向かって生きていくのかは自分自身で決められる。「うさぎとかめ」はそんなことを考えさせてくれる、気づかせてくれる、素敵な寓話なのだ。
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