ディスレクシアって知っていますか②
昨日アップした記事の第2弾。発達性ディスレクシアの研修で様々なことを学び、自身でもディスレクシアについての知識をさらに深めてみた。
これはディスレクシアを抱えた方の小学生時代からの辛い体験談だ。
小学生のころから文字の読み書きが苦手な方で、中学では不登校になってしまった経験がある方だ。
彼が小学生のころは、「ディスレクシア」という障害のことは、学校の先生を含め、ほとんど知られていなかった。彼自身もなぜ自分が読めないのかがわからず、配慮や支援をしてもらおうといった考えは浮かばなかった。とにかく、責めないで欲しい、読み書きができないからといって価値のない人間だというレッテルを貼らないで欲しい、と切実に願う日々だったそうだ。それでも、音読ができない彼に対して、「ふざけているんだろう」「怠けているからだ」「こんなこともできないなんて、人間の出来損ないだ」「学校に来るな」といった容赦ない言葉があびせられたのだ。
中学生のときは、教科書の単語の間に赤ペンで斜線を入れて、少しでも読みやすくなるよう工夫をしたという。しかし、先生に「教科書を粗末にするな!」「大事な教科書に落書きをするからできないんだ!ふざけるな!」と怒られ、読めないのは単なる努力不足だと責められてしまう。
彼は高校卒業後に入隊した自衛隊で、文字を使わない実技中心の指導を受けるなかで自尊心を取り戻していく。そして、新隊員の教育係を務めるうちに、自分には人に教えることが向いているのではないかと思い始める。成人式のタイミングで、それまでの20年を振り返って今後どう生きるかを考えたとき、頭に浮かんだのは音読でつらい思いをしていた小学校時代のことだった。こんな苦しい思いをする子どもは、自分で最後になって欲しい。そう思って教師になることを決意。夜間の短大に通い、教員免許を取得した。彼がが通った夜間短大では、学生の年齢層にも幅があり、昼間の仕事もさまざまで多様なクラスメイトで構成されていた。そんな学生たちが学ぶ場では黒板をカメラで撮影することや、講義を録音することが許される「合理的配慮」がなされていたため、とても助かったという。免許取得後は、中学校の技術の教師として赴任。その後、特別支援学級の担当となり、現在は特別支援学校に勤務している。
これまで担当した生徒のなかで、ディスレクシアの子は少なくとも5人いたそうだ。そういう生徒を担当したときは、自分のやり方を基本として、その子に合うかたちにカスタマイズして読み書きを教えるようにしてきた。一つ気をつけているのは、原因探しをしないことだという。読めない原因を探ると、「自分がだめだから」とか「親や先生のせい」という方向に気持ちに向かいやすくなるからだ。そうではなく、症状は症状として受け入れて、そのうえでどうしたら生きやすくなるのかを一緒に模索していく。ディスレクシアではない人は文字の連なりを見ると、それが文章であることが瞬時にわかる。しかし彼は、文字を見たときにまず、「これは図か?いや、図じゃない、字だ」と認識し、さらに縦書きか横書きかを確認。それからやっと、なんと書いてあるのかを読み始める。そのため、駅名の標示板やお店のメニュー看板などをパッと読むことができず、苦労している。フォントによっては、漢字が文字に見えず、地図だと思ってしまうことがある。つまり、文字を文字としてうまく認識できない。特に明朝体でそれが起こりがちだ。逆にメイリオ(コシック体の一種)などのフォントは読みやすく感じるそうだ。現在は「UDデジタル教科書体」がディスレクシアの方にとっては一番読みやすいフォントだと聞いている。
では、彼が文字を読んでいるとき、頭のなかではどういうことが起こっているのだろうか。彼さんにとっては、文字は第一言語ではないという。むしろ、図形やイラストが第一言語だと自覚しているそうだ。たとえば、「ringo」という音を聞いて頭に浮かぶのは、「りんご」という文字ではなく、りんごのイラストや写真、匂い、味などだ。「願書」という文字を見たら、まず「ガンショ」という音が響くのではなく、顔写真が貼ってある書類のイメージがパッと浮かぶ。「学校」と見たら校舎や教室、生徒などのイメージ、「出願」とあったら提出する行動のイメージと、イメージをつなぎ合わせて意味を理解していくのだ。そのためか、図を描くのは得意で、図工はよくできたそうでだ。また、文字を見て単語や意味のまとまりをパッと認識できないため、小学校で先生が黒板に「たいことばちをもってきて(太鼓とバチを持ってきて)」と書いたときは、「鯛・言葉・血(たい・ことば・ち)を持ってきて」だと認識してしまったことがあるそうだ。
ディスレクシアのある子どもが学校で困ることがないようにするためには、「合理的配慮」が不可欠だ。
家庭だけで全ての対策をすることは難しいので、担任教師やスクールソーシャルワーカー、カウンセラーと以下のような対策が可能か相談してみる必要があるし、学校側としても合理的配慮をする義務がある。定期試験などへの配慮も必要だ。
・初めて見る文章の音読
・漢字の書き取り
・黒板の文字をうつす
・メモを取る
・プリントなどは拡大コピーする
・読むときに虫眼鏡を使わせてもらう
・授業などで音読をする必要がある場合は事前にルビを振る手伝いをし、一度読み聞かせたり、家で練習できるように配慮する
・黒板の文字を書き写す代わりに、黒板の写真を撮ることを許可する
・別室で受験させる
・問題用紙を拡大したり、事前に漢字にルビを振るなどする
最後に、ディスレクシア協会名古屋のホームページに「合理的配慮」についての文章が載っていたので、引用させていただく。