デモ参加者の需要に応えたコンテンツは何か 「#検察庁法改正案」ハッシュタグの分析
先日、「#検察庁法改正案ハッシュタグ」がトレンドに浮上した件について、ハフポストの記事にデータ分析の面で協力しました。その際に、記事で扱ったものとは別に、個人的に興味のある事象を調べたものを遅まきながらまとめました。
個人的に興味のある事象というのは、私が普段Webメディアの方と話す機会が多いということもあり、「この事象に対してどんなメディアのどんなコンテンツが、渦中の人々に届いていたのか」です。
分析を通して見えてきたのは、動画やUGC(User Generated Content)が、検察庁改正法案のような政治に関する報道でも商業メディアに匹敵する影響力を持っていた、言い換えると、動画やUGCの方がWebメディアよりも人々に対してより価値を提供していたことです。
ツイート数は5月10日13時が盛り上がりのピーク
最初にTwitterデモと呼べるような規模になった抗議活動の推移を確認します。
今回の分析に用いたデータの収集期間は、5月8日夜に最初のハッシュタグが投稿されてから、5月15日午前までのおよそ1週間。
また、こちらの素晴らしい分析記事により、リツイート数の半分以上は2%のアカウントによって占められていることが分かっていたので、リツイートは除外して、以下に該当するハッシュタグを含むツイートのみを収集しました。
#検察庁法改正案に抗議します
#検察庁法改正法案に抗議します
#検察庁法改正案の強行採決反対
#検察庁法改正案に抗議しません
#検察庁法改正に賛成します
#検察庁法改正に反対します
#検察庁法改正の強行採決に反対します
大雑把ではありますが、抗議活動の当事者のツイートを拾えたのではないかと思います。
合計ツイート数は637,673件、合計ユーザー数は493,731人でした。
この64万件近いツイートのうち、何らかのURLを引用したツイートは149,644件(51,277人)ありました。
上記の集計には引用リツイートも含まれています。引用リツイートを除いて、Twitter外部のURLに限定すると、63,861件でした。つまり、ハッシュタグ付きツイートのおよそ1割が何らかの情報源をソースとして抗議活動をしていたと言えます。この記事では、この時にどんな情報源を参照していたのかというニッチな分析をしていきます。
YouTubeがYahoo!ニュースに迫るほど拡散
さて、上記の引用つきツイートの中で、頻繁に参照されていたドメインはどこだったのでしょうか?
当然Twitterの引用リツイートが最も引用回数が多いですが、2位がYahoo!ニュース、3位がYouTubeでした。
個人的に感覚の修正が必要だなーと思ったのは、エンタメでもスポーツでもなく、政治に関する事象なのに、YouTubeの引用がYahooニュースに迫っていたことです。テレビだけでなくWebでも、ニュースを動画で摂取する体験がじわりじわりと増えつつあるのではないかと感じました。
最も引用されたYouTubeは有志の映像プロジェクト
どんな動画が引用されていたか気になりますね。引用数の上位10動画を並べてみました。
最もよく引用されていたのは、Choose Life Project(注)のライブ動画でした。また、2位のTBS NEWSの他は、時事問題を扱うYouTuberが目立っています。
(注)Choose Life Projectは、テレビの報道番組や映画、ドキュメンタリーを制作している有志で始めた映像プロジェクト
ニュースを動画で見せる・わかりやすく伝えることに関しては、テレビ局が圧倒的にノウハウを持っていると思いますが、まだWebに最適化してコンテンツを作る局は少ないのでしょう。しかし、上で見たように報道番組等を制作している有志集団の動画が注目を集めていたように、YouTubeでニュースを見る需要が今後大きくなっていくかもしれません。
スピード感と専門性を両立した個人ブログが上位に
前項で動画についてのランキングを出しましたが、テキスト記事についてはどうでしょうか。
こちらも同様に引用数の上位10記事を並べてみます。
NHKや朝日新聞、毎日新聞といったマスメディアと並んで、個人の専門家によるブログが4件も入っていました。スピーディーに専門的な内容を発信する、という点ではメディアよりも個人の専門家の方が有利でしょう。例えば、徐東輝弁護士のnoteは、5月10日というかなり早いタイミングで公開されました。
問題を解説してくれる記事の需要は、10日の盛り上がりのピークの段階でかなり高かったのだろうと思います。実際に4番目のNHKの特集記事は、3月25日に公開されたものですが非常に多く引用されています。
「三権分立」が話題になったのは最初だけ?
専門的内容でも解説記事を出すスピード感が大事であることは、データからも読み取れます。
下記は1週間の1日ごとにハッシュタグデモ参加者のツイート内容を分類し、TF-IDFというシンプルかつ強力なアルゴリズムでその日のツイート本文に特徴的な単語を抽出したものです。
これを見ると、8日・9日は「三権分立」に、10日は「Twitter」や「トレンド」から盛り上がりそれ自体にも関心が集まっていたことが想像できます。11日以降は「検察庁法」「定年延長」などが上位に来て、関心が法案の内容に向いたこと、採決が予定されていた25日にかけて反対運動がまた大きくなったことがわかります。
このように1日単位で注目が移ろっていく事象に対して、スピード感を持って読者の期待に応えられる解説記事を出せるかどうかという点で、今回は商業メディアよりも個人の専門家の方が大きな役割を演じていたように思えます。
まとめ
Twitterデモが起きてからの1週間で、ハッシュタグ をつけたツイートで、URLを引用した6万ツイートのWebメディア向けの分析...というとてもニッチな振り返りにお付き合いいただきありがとうございました。YouTubeでニュースを摂取する体験が思いの外広がっていること、スピーディーに専門的な内容を発信する個人が、大手Webメディアに匹敵する影響力を持っていたことが確認できたのは面白かったです。
メディアへの信頼感や認知度、閲読意向を高めるコンテンツ作りに少しでも参考にしていただければと思います。
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