155日目。【短編】視線と目。
なんですか?私の方をずっと見て。
いいえ、あなたを見ているのではありませんよ。そもそもあなたは誰です?知らない人をじっと見続けるような質の悪い性格ではありません。
あら。嘘ね。私のことをずっと見てらしたじゃない。だから私は気になってあなたの方に視線を向けたの。私からあなたを見ることはないわ。
知りません知りません。よしてください。本当に見ていないんです。もしかしたらあなたの周辺をぼんやり見ていたのかもしれませんね。だとしたら怖い思いをさせました。申し訳ない。
いいえ。私のことを見ていました。私は視線に敏感なんです。何を見ていたんですか?
ああ。そうですか。白状します。私はあなたのお顔を拝見していました。初めて見かけたのはさっきですが、どうにも目が離せなくなりました。
やっぱり。そうだと思っていました。なぜそんなことをしたのですか。そもそも、なぜ嘘をついたのですか。
咄嗟についてしまったのです。見ず知らずの人間から視線を浴びるのは怖いでしょう。だからしらを切ったのです。しかし見透かされてしまいました。なぜそんなことをしたのかって?理由などありませんよ。強いて言えば目に吸い込まれただけです。その目は何を見ているのですか。
私の目ですか。大きくて美しいですもの。見惚れてしまうのも仕方ありませんね。特に何も見ていませんよ。あなたも見ていません。
そうですか。ならば僕を見てもらうにはどうすればよろしいですか。
ふふ。僕を見てもらうには、と考える方を見る気にはなりません。私の視界に入るようなお人になってくださいまし。
そう言って彼女は、白杖を突きながら電車を降りた。
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