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156日目。【短編】たおやかな。

私、右手の薬指が誰よりも美しいの。この世界の誰よりも。この指だけは一等自信を持っているの。誰にも負けないって。

へえ。それなら見せてくださいや。どんなもんか。

良いですよ。ほら。見て。私の右手の薬指。この曲線と長さがとても美しいでしょう。ああ綺麗。見惚れてしまう。

そこまで違いが判りませんね。左手の薬指だって同じようなもんじゃないですか。どっちも綺麗だとは思いますがね。

失礼な。何を言うんです。右手と左手、全く違うでしょう??右手の方が気品があるわ。あなたにはそれがわからないのね。がっかりした。その目で生きていったら良いわ。

はあ。女性ならではの繊細な違いがあるんですね。よくわかりませんね。

よくわからなくて結構です。女性ならでは、なんて言う方には一生分からないでしょうね。この美しさの違いが。私は自信を持っているの。この美しさに。

へえ。怒らせてしまいましたか。大変申し訳ねえ。ただ、自分はあなたの指がどちらも美しいと言いたかっただけで。他意はないんです。

他意があるかないかなんてどうでもいいの。私は、ただあなたがこの美しさを分かってくれなかったのが残念。私にとって、この指は特別なの。美しくて、気品があって、誰にも引けを取らないの。私はこの指があるから生きていられると言っても過言ではないわ。唯一無二なの。わかる?

はあ。なんとなく。

もういいわ。それでいい。あなたの見える世界の解像度が低いのがわかった。それに合わせるわね。ごめんなさい。むしろ、見えない物の話をして悪かったわ。


そう言って、女は自分の左手薬指に指輪をはめた。

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