円運動に関する公式を導出する
「円運動の向心加速度の大きさってどう表せるんだっけ……」と思ったことはありませんか? 私は高校生に物理を教えているときに、たまにそういうことがありました。そういうときのために、円運動に関する公式を 0 から導出できるようにしておきましょう。たくさんの公式を暗記しているよりも、公式をすでに自分が手にしている他の知識から導出できるようになっている方が、理解度は高いと個人的には思います。
では、円運動の公式の導出。まずは円運動の中心を原点とする xy 平面を考えましょう。そして、円運動の半径を r 、角速度を ω として、t 秒後の x 座標と y 座標を表す式を考えます。ここでは三角関数を理解していることが大切です。
次はこれを t で微分して、速度 v の x 成分と y 成分を求めます。ここでは三角関数の微分を理解していることが大切です。
次に、これをさらに t で微分して、加速度 a の x 成分と y 成分を求めます。先ほどの手順と同様です。
ここまでで準備は完了です。あとは v の x 成分 と y 成分から v を、a の x 成分と y 成分から a を合成によって求めるだけです。それぞれ x 成分と y 成分なのですから、三平方の定理で簡単に合成できます。加速度の合成というのはあまりやったことがないかもしれませんが、力の合成はしょっちゅうしていると思います。力が合成できるのだから、運動方程式より F = ma で、質量で割っただけの加速度 a だって合成できると考えるのは自然なことだと思います。では、v と a を求めてみましょう。 ここでも三角関数の理解が大切です。
せっかくなので、加速度 a について ω を消去した式も導出しておきましょう。(2) を (3) に代入します。
どうでしょうか。三角関数とその微分さえしっかりと理解していれば、円運動の公式を暗記している必要がないことが実感できたでしょうか。
「三角関数とその微分を理解すること」と「円運動の公式を暗記すること」を天秤にかけて、「円運動の公式を暗記すること」の方が楽だから「公式を暗記しよう!」となる人もいるでしょう。その人にとって問題がないのであれば、それでもよいと思います。ただ、個人的にはそれで物理を理解しているとは言えないと思うのです。
米国の哲学者ジョン・サールは「中国語の部屋」という思考実験を提案しました。この思考実験は、ごく簡単に説明すると、「中国語の知識がまったくない人でも、その人が理解している言語で書かれた中国語マニュアルのようなものがあれば、それに従って中国語を理解しているように振る舞うことができてしまう」というものです。私は「公式を暗記すること」にこの「中国語の部屋」という思考実験の「中国語マニュアル」のようなものを連想してしまいます。中国語の部屋のなかの人に中国語の知識があるとは言えないのと同じように、ただ「公式を暗記している」だけの人に、物理の知識があるとはあまり大手を振っては言えないのではないでしょうか(中国語の部屋の思考実験とは違って、公式を覚えている分だけ物理の知識があると言えますが)。「中国語マニュアル」などなくても自由に中国語を使ってコミュニケーションをとることができる、「暗記した公式」などなくても自由に物体の運動について考察することができる、せっかく時間や労力やときにお金までかけて何かを学ぶなら、そちらを目指すべきではないでしょうか。