【300字小説】 束の間の安堵
いつまでこのルールの中で戦い続けるんだろうな。そう思うまでに十年もかからなかった。追う、追われる、取り返す。その枠から抜ける勇気もなく、勝ち続ける力もない。やっと金曜だと思ったらすぐ日曜の夜になっている。
後輩の送別会は一次会で抜けた。近所の和食屋に入る。テレビ画面に目をやると胴上げ映像が映っている。ああ、首位取り戻したのか。
「王座奪還ですね」インタビュアーがマイクを向ける。地響きのような歓声が上がる。
お待ちどう、と目の前にうどんが置かれる。束の間の安堵といったところだろうな。画面の中の笑顔を横目に一味唐辛子に手を伸ばす。