従業員の幸せは会社の幸せ? 実現手段はある?
社員が幸福だと会社も嬉しい。
これは気持ちの問題だけではなく、会社の利益のためでもあります。
従業員が幸せだと業績が上がる
たぶん最も有名なのは、ちょうど30年前(!)の1994年に発表されたこの絵でしょう。サービス業において、従業員満足度は離職率の低下と生産性の向上に寄与し、顧客満足度に繋がって会社の利益になるという構図です。
もう少し一般的な話として、幸福な従業員は平均して生産性が31%高く、売上が37%高く、創造性が3倍高いという研究結果があります。これは225もの研究から導き出された結果ですので、かなり信憑性が高いと言えます。
また、自分が幸せなことだけが重要なのではありません。仕事の過程で他人を気遣ったり助けたりするスコアが最も高い社員は、最も低いスコアの人に比べて、翌年に昇進する確率が40%高く、仕事に対する満足度が著しく高く、仕事に10倍没頭していると感じているという研究結果もあります。他人を幸せにすることもまた、仕事のパフォーマンスを向上させるのです。
日本でも検証したデータがあります。自社の社員の幸福度やモチベーションとパフォーマンスの関係を解析し、幸福度が高いほどパフォーマンスが高いというシンプルな関係を見出しています。
ウェルビーイングとは何か。幸せとは何か
ではそもそもウェルビーイングとは何なのでしょうか。「私たちがうまくやっていて、人生に概ね満足しているなら、ウェルビーイングは良好」「状態のよいこと,いい感じで過ごしていること,うまくいっている状態,幸福な状態,充実した状態等」という感じで、ざっくりと言えば人生が良好な状態を指すようです。その中でも主観的ウェルビーイング (Subjective well-being) というのは、自分自身の状態を評価したもので、幸福感と言い換えてもいいと思います。
ウェルビーイングに至るには様々な要素がありますが、世界的な第一人者であるマーティン・セリグマンはPERMAを提唱しています。
PERMAとはPositive emotion (ポジティブな感情)、Engagement (物事へ没頭する積極的な関わり)、Relationship (他者とのよい関係)、Meaning (人生の意味や意義)、Accomplishment (達成感) の略ですが、これら全てが必須という訳ではありません。どれかを備えているとウェルビーイングが良好になりやすく、また失ったときの復活 (レジリエンス) がしやすいと論じています。
日本でいえば、最も著名な幸福論の研究者は慶應大学の前野隆司でしょう。
前野は日本人のデータを解析し、幸せには個人の在り方として「やってみよう」「なんとかなる」「ありのままに」、関係性として「ありがとう」の計4因子があるとしています。
働く幸せは向上できるのか
さて、仕事における幸福の重要性とは何か、幸福とは何かに関して紹介してきましたが、では実際に社員の幸福度を上げるにはどうすればいいのでしょうか。これも前野の研究をご紹介しましょう。
この図は、横軸に幸せの増加、縦軸に不幸せの減少をプロットしたものです。赤は人事施策、緑は上司のマネジメントで、黄色が組織の風土です。
こう見ると、従業員の幸福にとって最も効果的なのは「肯定的で公正なフィードバック」と「組織目標の落とし込み」であることが分かります。一方で幸福に負の影響を及ぼすのは「異動・転勤の多さ」「成果主義・競争」「ハラスメント」ということになります。また、右上の施策の大半が人事施策と組織風土によるもので、上司単独の努力ではいかんともしがたいということも読み取れます。
興味深いのは、目標を明確にするのは幸福にプラスな一方で、成果主義はマイナスなことでしょう。OKR (Objectives and Key Results) という仕組みはここをよく理解しており、MBO (Management By Objective) とは異なり報酬と連動させないので、成果主義のマイナス面を排除しつつ目標の明確化と公正なフィードバックができるのです。
ウェルビーイングと従業員体験
最後に、社員の幸福と類似の概念として従業員体験 (Employee Experience) にも触れておきたいと思います。
従業員体験は、従業員のウェルビーイング、エンゲージメントと深く関わっています。ウェルビーイングを従業員体験の中に含めるのか、並列させるのかはともかく、非常に大きなトピックになっています。
従業員体験を高めるアプローチも提案されていますので、ご興味があればそちらも調べてみてください。
DXはサービスを介して従業員体験を向上できる
DXを論じるこのコーナーで、どうして幸福論なのかと訝しむ方もいらっしゃったかもしれません。ですがお分かり頂けたように、社員を大切にするという変革は会社に大きな利益をもたらします。ですから、DXは社員の幸福や従業員体験にも適用できないのか、真剣に考える価値があります。
デジタルとサービス業の相性がいい話を以前に紹介しました。
顧客の場で価値を生じるために挙げられたこれらの特徴は、ほとんどそのまま従業員体験やウェルビーイングにも適用できます。つまり、社外向けであろうと社内向けであろうと、サービスが登場するときにはデジタルを考えてみて損はないのです。