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当社は他社と違う? Fit to Standardを採用すべきか考えてみる

それぞれの会社には独自のプロセスがある

会社を経営するのに、どれほどユニークなモデルが必要なのでしょうか。

目指すものがユニークであれば経営モデルは標準的でいいのか、社内の組織やプロセスもユニークな方がいいのか、という問いの話です。


組織は戦略に従うのか、逆に戦略は実質的に組織に規定されてしまうのかという議論を紹介しました。これは表層的な組織構成に限らず、プロセスや風土も含めた話です。その意味ではこの問いは、目指すものがユニークであるときに、組織やプロセスを従属させるべきか、組織やプロセスは標準的でいいのか。あるいは目指すものは実は組織やプロセスから生じているのか、という話でもあります。


ところでガラパゴス島の生き物たちは、それぞれが独自の進化を遂げようと志向した訳ではありません。大陸と繋がったことのない隔絶された環境のなかで、気候や他の生物との関係から、結果的に独自の生態系が築かれただけです。有袋類の多いオーストラリアも似たようなものでしょう。外界と交流のない小世界において、ユニークな何かが生み出されるのは何も不思議なことではありません。それは結果的に外の世界から見たらユニークだっただけで、その中の世界では取り立てて変わったことではないからです。


ですから、ユニークたらんとして何か特殊な努力をするのは、クリエイティブさに憧れて奇抜な服装から始めるのに似て、順番が間違っているのです。内面に対して自然に振る舞ったときに結果的にユニークなファッションになるように、会社としてやりたいことを追求した結果、組織やプロセスが他社と異なるという話です。


他社のプロセスを真似するか迷う

さてここからが本題です。

世間に会社は無数に存在しますので、似たところを目指して競合することがあります。そのときに生物であれば、適者生存という形でどちらかが絶滅するか、あるいは別のニッチに移って併存するか、いずれにせよ闘争と偶然の結果論になります。しかし企業間の競争はそれとは異なり、自らを変革することができます。ここで、先の問いが浮上します。組織やプロセスは独自の方がいいのか、ユニークな方がいいのか、です。


一般に、似たところを目指している企業同士は、内部でも似たような活動をしています。ここでどちらかのパフォーマンスが良ければ、劣る方には、真似しようという気持ちが働くかもしれません。組織構成やビジネスプロセスを揃え、競合と伍しようというのです。

もちろん、その気持ちは分かります。一方で、これまで自社にとって自然なやり方をしてきたのに、他社に倣ったやり方にすると居心地が悪いというのもあるでしょう。本当にパフォーマンスが上がるかも分かりません。そもそも、似たようなところを目指す企業同士は、本当に組織やプロセスが似ている方がうまくいくのでしょうか。

考えてみるに、観点は3つほどありそうでした。「その業界は変化が速いのか」「その会社は業界のリーダーか」「そのプロセスは競争力の源泉か」です。


観点1. その業界は変化が速いのか

競争戦略にはいくつかの流派がありますが、ケイパビリティ戦略を考えると、プロセスの類似性という点では模倣不可能性 (Inimitability) の部分が気になってきます。ある企業に競争力があるのが、長い歴史や複雑で不可視なプロセスに拠っているという状況では、それを真似する方法がないからです。逆に優位な企業がプロセスを可視化し標準化していたとすると、確かに他社も真似できますが、模倣可能ということは競争力の源泉ではないという話になります。したがって、ケイパビリティ戦略からプロセスを標準化するという発想は出て来ないでしょう。

“Fit to Standard” という考え方は、企業間で似たプロセスを目指しましょうという話です。先行している海外の企業と同じITシステムを導入し、そのシステムに業務を合わせることで、自社のプロセスを国際標準に押し上げようという考え方です。それに加えて、各社でカスタマイズしないことによってシステムの共通部分が維持されれば、メンテナンスのコストを企業間でシェアしている形になりますし、共通の機能追加も安くつきます。またM&Aの際に、業務プロセスやソフトウェアが共通であればPMI (合併後の統合) もスムーズですし、一個人としても転職先が同じインタフェースであれば学習コストが低くなります。


しかし “Fit to Standard” は、実際には同一のソリューション (例えば会計系のソフトウェアなど) にしましょうということでもありますので、多くの企業が協力して、わざわざそのベンダーを利することになります。これは、ポジショニング戦略の観点からはサプライヤの競争力を高めることになりますし、取引コストの観点からはビジネス継続に欠かせない要素を外部に依存する構図になり、いずれもお勧めできないという結論になるでしょう。


この考えの違いは、時間軸にあります。ポジショニング戦略やケイパビリティ戦略は、基本的に、環境変化が小さいなかでどう持続的な競争優位を獲得するかという戦略立案のガイドになるものです。先ほどの議論では、"Fit to Standard" は伝統的な戦略論の観点からお勧めできないという流れになりました。しかし、環境変化の速い状況ではイノベーションやアジリティを重視するため、結論が異なってくる可能性があります。つまり、標準的なものを採用するという選択肢を検討しないといけないかもしれません。


観点2. その会社は業界のリーダーか

さて、この議論の流れで合っているのでしょうか? 変化の速いIT業界に君臨しているGAFAは、みな標準的なプロセスの組み合わせで仕事をしているのでしょうか。Spotifyの有名な組織体系は、ありものの組み合わせでできているのでしょうか。

もしかすると、ここまでの議論で欠けているのは、業界リーダーかどうかかもしれません。

個人的な観測範囲ですが、業界のリーダーは、競合の真似をしても更なる成長が望めないため、ビジネスモデルやプロセス、組織形態を探索する傾向にあります。また、新しいことに挑戦しようと思ったら、既存のものを買うだけでプロセスを実現できる訳ではないため、自社で作り上げる必要があります。その結果として、ビジネスプロセスや組織を含めて、独自の進化を遂げているのはないでしょうか。


つまり、業界のリーダーはユニークなプロセスを追求する傾向があります。一方でリーダーポジションではない企業は、先行企業のプロセスがベンダー経由でトリクルダウンしてきた、標準的なプロセスが有効なのかもしれません。

ただ、業界の定義は揺らいでいます。Airbnbはホテル業界なのかテック業界なのか。もしAirbnbが自らを弱小ホテル企業だと考え、標準的なプロセスを採用していたら、あのような急成長は望めなかったでしょう。

また注意しないといけないのは、自称ユニークなビジネスを行う凡庸な企業も山ほどあるということです。ですから話は単純ではありません。謙虚になって真似をすればいいというものでもなく、独自性を盲信して突き進めばいいという訳でもないのです。


観点3. そのプロセスは競争力の源泉か

もう少し小さな粒度を考えますと、企業内のビジネスプロセスには様々な位置付けがあります。競争力に資するもの、会社の運営には必要だが競争力とは無関係なものなどです。

その意味では、本稿はここまで競争力の観点で語ってきました。実際には、競争力に資することのないプロセスは標準的に、競争力の源泉はユニークにするのも一案でしょう。そう考えますと、例えば “Fit to Standard” が語られることの多い会計分野は、他社に劣後しなければ十分なプロセスなのかもしれません。

品質で他社を凌駕しているメーカーの場合に、製造プロセスを真似されてはいけませんが、購買や物流は標準的でいいと言われたら、当たり前に感じる方も多いでしょう。競争力のある企業といえども、全てがユニークである必要はないということです。


真似するのか、独自でいくのか。その判断の軸を持つ

とはいえ、これまでの議論が仮に正しいとしても、実際には難しい問題だと思います。

  • 変化が速い/遅い業界の閾値は何か。それはずっと変わらないのか

  • 業界の定義は何か。抽象的に大きく取るべきか、具体的に小さく取るべきか。ニッチトップ企業はリーダーなのかフォロワーなのか

  • 業界リーダーは必ず独自プロセスを追求すべきなのか。製品戦略やマーケティング戦略が優れていればビジネスプロセスは標準的でも問題ないのか

  • いまはフォロワーでも、大きな成長への夢を抱いているときに、いつからユニークなプロセスを追求すべきか

  • 自社の競争力の源泉であるユニークなプロセスと、無駄に独自なだけのプロセスを見分ける方法はあるのか

少なくともこういった論点を念頭に置きつつ、独自なプロセスを追い求めるか、標準的なプロセスを採用するかを判断すべきでしょう。簡単ではありませんが、流行りの標語に踊らされることのないように、判断の軸を持つことが重要だと思っています。

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