PIM (Product Information Management) が欲しい話
最近PIMが気になっています。
ここでいうPIMは、Product Information Managementで、商品の情報が一元管理されるシステムのことです。
※よく似た名前にPIMS (Plant/Process Information Management System) という工場で使うシステムがありますが、そちらのことではありません。
自社の製品・サービス情報は、実は整理されていない
DXにはいくつかの側面がありますが、そのひとつに顧客中心が挙げられます。もし顧客中心を掲げるなら、顧客のどんな状況に対して何が提供できるのか、自社のできることを知っておく必要があります。
ところが、自社に何ができるのか、ちゃんと知るのは意外と困難です。例えば製品ラインナップを考えても、何万・何十万もある企業は決して少なくないでしょう。それに付随するノウハウやサービスもあれば、顧客から頂いたフィードバック情報、利用している材料の情報などもあります。最近なら、公式にSNSで発信した情報や、ユーザが意外な使い方を紹介している動画などもあるかもしれません。
顧客には固有の問題があり、対応する解決策がある
顧客は、それぞれ固有の問題を抱えています。例えば木材に穴を開けたいと思っているとして、正確に穴が開けばいいのか、自分で電気ドリルを使う感覚を楽しみたいのか、本当は穴なんて開けなくても固定できればいいのか。この、本当に顧客が片づけたい問題にたどり着かないといけません。
そして、真の問題が特定できた後に、解決策を探します。それぞれの状況に応じて相応しい製品やサービスは異なるため、単なるキーワード検索では足りません。正確に穴が開けばいいならホームセンターの職人に頼む方が確実ですし、自分でやりたいなら見た目も格好いいドリルの方が気分がいいでしょう。固定だけできればいいなら接着剤も選択肢に入りますし、あるいは簡易な組み立てキットのような製品も検討の余地があります。
顧客の問題を解決するためのSSOT
この状況を打開しようとするなら、いわゆるコンサルティングが必要になります。
しかし、情報がないのです。
製品に関する特性を自由自在に検索でき、ユースケースが集められ、それを補う他の製品やサービスが網羅されている情報が、整備されていません。社内に残る都市伝説のような経験談をかき集め、社外のインフルエンサーの動画を片端からチェックしているうちに、つい先日行われた上司の社外講演の資料にたどり着いて、徒労に膝から崩れそうになる。そんな状態で、顧客の問題を速やかに十分に解決できるはずがないのです。
ですから、顧客にとって有用な情報を集めておく必要があるのではないか、ということです。したがってここでPIMと言ったときに、DAM (Digital Asset Management) を含むのではとか、サービスを含めるなら名称はPXM (Product Experience Management) ではないかといった、細かな違いを論じるつもりはありません。重要なのは、IT用語でいうSSOT (Single Source of Truth)、ここを見れば確かで最新の情報があるという唯一の場所が存在し、周知されていることです。
似た概念に、MDM (Master Data Management) があります。表記ゆれやバージョン違いなどを吸収できるようなマスターを用意し、様々なデータベースに散在するデータを統一的に扱えるようにする活動です。
筆者は情報システムにはそこまで詳しくないため誤っているかもしれませんが、PIMは、概念上はMDMに含まれます。一方で実際には、MDMは顧客情報や製造情報などの名寄せに用いられており、顧客中心というより自社観点でのデータ管理を志向しているように思います。いずれにせよ、MDMに加えてPIMも必要なのかという話をするつもりはありません。顧客視点で整理された情報マネジメントが必要だという主張です。
営業職は激減している
ところで、最近の顧客は、人間の営業に必ずしも会いたいと思っていないようです。
2012年(!)の調査結果によれば、BtoB企業の購買プロセスの57%は、顧客が営業に会う前に既に完了しているといいますし、2014年(!)の別の調査では、購買の検討・決定の段階で人間の営業に会いたい担当者は12%しかいません。
例えば個人として家電を買う状況を想像してください。もしも事前に調べておいて、ある程度の目星がついているなら、店に訪れたとしても販売員とは最終的な確認をするだけでしょう。eコマースで買うなら、人間との交流は全くありません。これと同じことが、ビジネスでも起こっているのです。データでも見ても、営業職は激減しています。
ビジネスの場合には、個人の買い物よりも、圧倒的に客観性が求められます。製品の性能、サポート条件、他社製品との比較、契約条件、財務状態などは、営業担当者に会わなくても得られる純粋な情報です。この観点からすると、フラットな情報提供に加え、質疑と簡単な交渉ができれば、対面で会うどころか人間が介在する必要すらありません。そもそも、人と人との信頼関係は居心地がいいし尊いものですが、その信頼関係というのが、実際にはビジネス上の無理な条件や不自然な優遇を実現するために使われるのであれば、実は必ずしも健全なものではないのではないでしょうか。
顧客中心のサービスにせよ、AI化にせよ、重要なのはデータ
全ての条件を完全に理解し、不測の事態を見通すのが難しいという意味で、信頼関係を構築しておき、いざとなったときに備えるのは非常に重要です。しかしそれは、AIの性能向上と共に変化すると思っています。膨大な情報を読み込み、無数の条件分岐をシミュレーションする能力なら、コンピュータが人間を凌駕する姿は想像に難くありません。営業AIと顧客AIが情報交換することで、瞬時にwin-winの最適解に至る未来は決して遠くないでしょう。
そのAIの実現のために最も重要なのは、データです。顧客の問い合わせに関して、データが整備されていないAIでは、ほとんど何も答えられません。何を聞かれても同じ台詞を返す、初期のRPGの村人のようになってしまいます。それでは、高度化された質問に即時に答えることが要求される近い将来において、ビジネスチャンスを失うのは明白です。
ですから、いまコンサルティング営業を行うにしても、AIが発展する将来を見据えるにしても、顧客中心のデータ整備は欠くことのできない要素です。
本当は、最近PIMが気になるなどと悠長なことを言っている場合ではないのかもしれません。しかし、SFA/CRMやERPの整備が途上なのであれば、後回しにされるのは仕方ないとも思います。もしすぐ着手できないのであれば、いましておくべき最低限のことは、顧客中心志向とそれを実現する全体像を持っておくことであり、粘り強く発信しておくことではないだろうかと感じています。