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想像力の働かせ方

弁護士に必要な資質として、想像力というものが良く挙げられます。想像力、重要です。

でも、こういう抽象的な言葉ってわかったような気になるので注意が必要です。想像力は具体的にどのように働かせるべきでしょうか。

<目次>
・ステップ1:目の前の相手の行動・気持ちを想像しきる
・ステップ2:相手の先にいる人にも想像力を働かせる
・結語

ステップ1:目の前の相手の行動・気持ちを想像しきる

まず、簡単な働かせ方は、目の前の相手の行動や気持ちを想像しきることです。

目の前の相手の性格やその周辺の環境をよく観察して、その人に何を提示すれば快適に行動に移してくれるかを想像しきる。その人になりきってその人の目線に立って想像する。

弁護士業務でいうと、目の前の依頼者が何を求めているか。どう伝えると上手く伝わるか。どう伝えれば行動に移してくれるか。依頼者は今決めたいのか、持ち帰って時間をかけて検討したいのか。背中を押してほしいのか、止めてほしいのか。ここでは書ききれないくらい様々なことを常に依頼者の目線にも立ちつつ、アドバイスを示します。たとえ同じ内容のアドバイスでも、一番最適な行動を導けるよう、依頼者ごとにアドバイスの方法を変えます。

少し面倒くさいように感じるかもしれませんが、私はこうやって想像力を働かせてアドバイスを構築するのがとても楽しく、弁護士の仕事の醍醐味の一つだと感じています。

働かせた想像力は必ずしも正しいわけではありませんが、ずれている場合にはそのずれの理由を都度検討し、次回以降に生かすようにしています。こうやって一つ一つのアドバイスを想像力を働かせながら構築していくと、だんだんと依頼者や相手の考え方や今後の行動をより精緻に予測できるようになっていきます。

ほかにも、訴訟の書面を書くときには、主任の裁判官がこちらの書面を手にとって、どう読むか。証拠をどうやってみるか。どんな文献を見るか。後で判決を書くときに、どうやって書面を読むか、判決書にどのように内容を盛り込むか。どういう記載があるとこちらに有利な判決を書くのに躊躇してしまうか。どういう記載があるとこちらに有利な判決を書くのに安心できるか。本当に様々なことを主任裁判官の目線に立って検討します。

ステップ2:相手の先にいる人にも想像力を働かせる

ここが想像力を働かせる最大の楽しさであると思うのですが、目の前の相手に想像力を働かせるだけではなく、その先の人にも想像力を働かせるようになると、予測の精度がグーンとアップします。相手が予想外の反応を見せてなんでだろうと思う場合は、大抵の場合、相手のその先にいる人に想像力が及んでいないことが原因として考えられます。

弁護士業務でいうと、例えば、依頼者の決裁権者は誰か。目の前の担当者が決裁権者にどのように説明するか。説明する際には、どのような資料があると便利か。どのような情報があり、又は欠けていると不安に思うか。どのような情報があると安心してゴーを出せるか。ありとあらゆることを考えます。目の前の相手とその先の人の雑談の内容まで想像することさえもあります。

そして、例えば依頼者にアドバイスのメールを出す際には、そのままプリントアウトして持って行ったり、転送することで、決裁権者に説明できるよう、文面を整えたりします。こうすれば、担当者が打ち直したりする手間も省けるうえに、担当者が打ち直す際にニュアンスが変わってしまうといった事態も避けられ、案件が円滑に進むようになります。

ほかにも、訴訟の書面を書くときには、主任裁判官にのみ想像力を働かせるのではなく、主任裁判官が裁判長とどのように協議し、どの部分についてより深く注目し、悩むかなどにも想像力を働かせます。例えば、判断に関与する人が増えると悩むポイントでは慎重な判断がなされる傾向にあるため、簡単に処理してもらっては困る部分は、しっかりと悩んでもらえるよう書面づくりを工夫したりします。

こういう想像は本当に楽しく、想像したことがカチッとハマるとこの上ない喜びを感じます。

結語

いかがでしたでしょうか、想像力の働かせ方。相手のその先を想像するなどは、ビジネスの現場でも有用なのではないでしょうか。いわゆるロジ回し・根回しには想像力は本当に必要なものだと思います。是非意識してみてください。

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弁護士 加茂翔太郎
法律書よりビジネス書が好きな弁護士。弁護士業務や弁護士になるまでに培った経験をなるべく言語化して共有したいと考えております。皆様からサポート・リアクションをいただき本当に感謝しております。励みになります。