キボリノコンノさん1万字インタビュー(3)
「少年写真ニュース」2月8日号の取材で、今年も大活躍間違いなしのキボリノコンノさんにお話を伺いました。
3回目は「食べ物の作品が多い理由」をお届けします。
【食べ物の作品が多い理由】
──食べ物の作品が多いですが、やはり大好きだからでしょうか?
「食べるのが大好きだし、料理をするのも大好きで、食へのこだわりがめちゃくちゃ強いからです。食べ物がいちばん高まるんですよね、気持ちが。だから好きなものを彫っているだけです。幼稚園のころから、ごはんがちょっと冷めていたり、ちょっと水っぽくてゆるかったりすると許せなくて、食べられなかったんです。『ごはんはできたてがいちばん』っていう正解があって、そこからレベルが下がっていけば下がっていくほど食べたくなくなってしまうんですよね。だから、幼稚園のとき、お弁当の時間はお弁当は食べないで、一人で砂場で遊んでいました。お弁当は冷たいからいやなんですよね。食べられない」
──お母さんはたいへんじゃないですか?
「お母さんはお弁当を食べてこないのがわかっていて、それでも作ってくれるので、家に持って帰って電子レンジであたためて食べるんです。あたためれば食べられるんですよ。ある時、母親がお弁当が冷めているから食べないことに気づいて、サンドウイッチを作ってくれたんです。冷めていないから食べられる=それがサンドウイッチの正解だから。冷たいものが正解の食べ物だったら、お弁当でも全然食べられるんですよ。でも、あたたかかったものが冷めてしまうと食べられないんです」
──子どもながら、それはすごいこだわりですね!
「けっこう舌も敏感で。例えば新潟産のコシヒカリを家で食べているとします。それが一袋終わって、同じブランドのお米に買い替えたとします。そうしたら気づくんです。『お米、新しくなった?』って。母親が料理が上手で。めちゃくちゃゴージャスなお料理というよりは、肉じゃがみたいな家庭料理……みんなが食べる定番の料理をすごくていねいに作ってくれるんですよ。それで舌が肥えていて、いろいろ感じることができるようになったんだと思います」
──先ほども料理することが大好きとおっしゃっていましたが、やはり料理することへのこだわりも強い?
「料理するのもすごくこだわっていますね。焼き方や火の入れ加減だとか、いちばんおいしい状態にしたいから。いつも料理は自分がして、奥さんは食べる側です。自分でおいしく作りたいからやっています。食べに行くのも大好きですね」
──それだけこだわりが強いと、食べ物が作品に多いのも納得します。
「食へのこだわりが強いから、その分作品へのこだわりも高まっていったって感じはありますね。『絶対においしさを表現したい』って。フランスパンなら、『ここのパリパリの部分がいちばんおいしいから、ここをしっかり表現したい』とか、『このふくらみの感じとか、そこがおいしさにつながっているからしっかり表現したい』って」
──特にお菓子を作品にする際、選ぶ基準みたいなものはあるのですか?
「自分が好きなものを選ぶことがすごく多くて。あとは、彫ったらおもしろそうかどうかです。例えばパイ生地だとか、彫り甲斐があるものを探していますね」
──作品を作る際、実物は食べるんですか?
「まず実物を食べます。食べて観察する。で、実際に作るときは横に置いて、ずっと観察しながら作っていますね。食べ物を見ながら、木を少しずつ実物に近づけている感じです。木材は、ヒノキを今使うことが多いのですが、木の素材も食べ物によって変えますね。パンのふわふわ感を出すなら、ヒノキよりもやわらかい木を使います。題材に合う木の種類については、木彫をやり始めてから経験でなんとなくわかるという感じですね」
──道具は何を使うんですか?
「道具は、まず、のこぎりや電動糸のこで、それを使って、木材を必要な大きさにカットします。そのあと、ベルトサンダーという紙やすりが回転している機械に木を押し当てて、一気にけずって、大まかな形を作るんですよ。さらに、彫刻刀と、ミニルーターっていう歯医者さんが使うようなけずる道具を僕はいちばんよく使います。先端の形がいろいろあるので、上手に使いわけながら、質感を表現します」
──色もリアルな仕上がりですが、どのように塗っているのですか?
「アクリル絵具を使います。質感もアクリル絵の具で出します。塗るときには水分量に注意しています。水分量が多いと木にしみこんで、木の質感が残ったようなサラサラ感が出るです。水分量が少ないと結構べったりと木につくことになるのでしっとりした印象になります。木彫りの質感と絵の具の水分量を調節して、食べ物の質感を表現しています。塗るのも自己流ですね、完全に」
──とにかくすべては誰に教わるでもなく、ご自身で考えた結果、ということなんですね。
「YouTubeとかで、いくらでも作り方は見れると思うのですが、僕は多分見ちゃうと、性格上、それが答えになってしまうんですよ。ひとつが正解になってしまうと、広がりがないんですよね。逆に見なければ、正解は無限にあるじゃないですか。実はもう世の中にある技法かもしれないけれど、自分で探し出すのがすごく楽しいんですよね。で、失敗したことも、あとで技法につながったりとか。そこから無限のアイデアになっていくのが楽しくて。手探りでやっています」
──1つの作品を作るのにどれくらいの時間がかかりますか?
「作品ができあがるまでの時間は1〜2日です。ひらめいた瞬間からはじめて、ごはんを食べるのも忘れちゃうくらいで、ひたすら彫ることだけに集中して、無になっています。スポーツでいうところの『ゾーンに入った』っていう感覚なんですよ。自分の気持ちが冷めずにモチベーションを高く保てるのって、アイデアが浮かんだ瞬間なので。いそがしくなければ新作は1か月に4つとかは作れます。基本的には、好きなときに作っているだけです」
(4)に続く
(取材日:2023年11月12日/取材・編集「少年写真ニュース」編集部吉岡)
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