【特急湘南26号 Vol.07】グッバイ、相鉄ローゼン
いつものように、午前8時11分藤沢駅発の特急湘南26号に乗って、渋谷へと向かう。僕の居場所は相変わらず3号車8番のA席。車内のいつメンたちとともに過ごしているのだが、知らないヒトたちなので今のところ交流は一切ない。
巨星墜つ…近所のローゼンが閉店へ
正直言って今日はぼーっとしていた。というのも、近所のスーパー「相鉄ローゼン」が改装のために閉店するからだ。
たかだか近所のスーパーが一時的に閉店するだけじゃん、しかもチェーン店だからほかにも店があるじゃんと思うかもしれないが、自分にとっては「巨星墜つ」くらいのインパクトだ。特急湘南をプッシュしておいて申し訳ないが、僕の湘南ライフは「相鉄ローゼン」から始まったのだ。僕のそばには特急湘南があり、相鉄ローゼンがあった。
100年間、神奈川を走り続けた電車が、初めて東京にやってくる
一応説明すると、相鉄ローゼンとは相鉄グループの一翼を担うスーパーである。ついでに告白すると、僕はコロナ禍に引っ越してきた人間だ。特急湘南の常連ぶっていたものの、実は新参者であることをまずこの場で謝罪したい。都内に住んでいたときはまったく馴染みがなかったのだが、相鉄線都心直通記念ムービーはとても印象に残っている。たぶん見たことある人も多いだろう。
これは「相鉄線は都心直通で、新宿まで15分短縮で行けるようになりました」という事実をPRするのではなく、「100年間、神奈川を走り続けた電車が、初めて東京にやってくる」と言い換えてワクワク感を演出した動画だ。
都心直通の利便性を伝える“広告”ではなく、初めて東京へ乗り入れることをテーマにした“コンテンツ”を作ったというとてつもなくチャレンジングな事例であり、初めて見たときは感動した。代理店の提案を受け入れる相鉄グループの懐の広さを感じたし、くるりとサカナクションのマッシュアップは直撃世代ということもあってとてもワクワクした。しかし、これが流れた2019年当時は相鉄線に乗ったことがなかったし、相鉄ローゼンも利用したことがなかった。
『人あざやかに』を高らかに歌う
そんな僕が湘南エリアに引っ越してからというもの、一番お世話になったスーパーが相鉄ローゼンだったのだ。特急湘南には申し訳ないが、もうひとりの相棒だ。店内に流れる「ローゼン、ローゼーン♫」というテーマソングもいつの間にか口ずさむようになっていた。オーケーストアでもヨークマートでも口ずさんでいたと思う。たぶん、藤沢駅からこの車両に乗り込んだメンツの大半は歌えるであろうこの歌。ややこしい話になってしまうが、特急湘南26号のテーマソングは相鉄ローゼンのテーマにしてもいいんじゃないかと思っている。
僕の家の近所の相鉄ローゼンは夜中の2時まで営業していた。それが途中から夜21時までの営業になり、「あれ、ちょっと元気ないのかな?」と心配していた。でも心のどこかで「あいつならまあ大丈夫だろう」と思っていた。そして、気づけば閉店。人間と同じだ。会いたいときは時すでに遅し。
自分でも不思議なのだが、いつもならこの車両で動画を見たり、マンガを読んだりしてエンジョイしているのに、今日は本当に何も手がつかない。心なしか、真横の席のサラリーマンも目に涙をためている気がする。わかるよ。わかる。あなたも同じ店のユーザーなんだね。僕も悲しくてしかたないよ。
明日からはちょっと遠くの相鉄ローゼンに通うことになるのだが、慣れるのには時間がかかるだろう。
気づけば大崎駅だった。僕は同じ車両のいつメンに聞こえるか聞こえないかくらいの音量で『人あざやかに』を流した。今日の鎮魂歌。聞こえてきた瞬間、自分でも信じられないくらい号泣した。映画『スパイゲーム』で「ディナー作戦」という言葉を聞いたときのブラピくらい号泣した。曲を流し終えたら渋谷駅に着いていた。泣いている姿を見られまいと、音も立てずに静かに下車した。こうして僕は明日も知らないヒトたちと一緒に渋谷を目指し、夜になると藤沢に帰るのだ。