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【特急湘南26号 Vol.05】無人島に不時着したのにずっと体型を維持し続けたハーリー

いつものように、午前8時11分藤沢駅発の特急湘南26号に乗って、渋谷へと向かう。僕の居場所は相変わらず3号車8番のA席。車内のいつメンたちとともに過ごしているのだが、知らないヒトたちなので今のところ交流は一切ない。


『LOST』のハーリーはワンダーだ

僕は『LOST』というドラマが大好きだった。
飛行機が無人島に不時着するというストーリー。久しぶりに見ようと思って8番A席に着くなりアマプラにアクセスしたものの、どうやら無料で見ることができないらしい。ネトフリにもアクセスしたがリストにはない。もはやお手上げだ。

僕は『LOST』に登場するキャラだと、ウィーザーのアルバム『ハーリー』のジャケットにも起用されているハーリー(ホルヘ・ガルシア)が大好きだった。遭難したにもかかわらず、なぜかずっとデブだったハーリーが大好きだった。さまざまなワンダーが盛りだくさんのこの作品のなかで、一番のワンダーは彼が痩せないことだった。とにかく『LOST』が見たかったが、仕方ない。今度ディズニー+に加入するか。

ふと思った。特急湘南がこのまま無人島に行き着いたらどうなるのだろうかと。まだまだ渋谷までは時間があるので、まず不時着した場合の人数を計算してみよう。「特急湘南が無人島に不時着」というシチュエーションに関しては、概念だと思ってあまり気にしないでいただきたい。

もし列車ごと無人島に不時着したら…

全9号車あるうち、グリーン車を抜かすとだいたい1号車あたりに28人ほど乗っている(A列とD列すべて埋まっていると計算。B列とC列は空いてる)。28×8で224人。グリーン車に5人乗っていたと計算すると約230名が無人島に不時着する計算だ。かなりの人数である。『LOST』で無人島に不時着した生存者が48名だったから、それと比べるとだいぶ多い。ていうか改めて計算してみると3号車に28人も乗っていたっけ?という感じではある。これだけの人数で無人島に不時着した場合、当然のことながらいくつかのグループに分かれるだろう。

グリーン車の5名は藤沢駅→渋谷駅間で920円のところを1690円も払っている大富豪なので、彼らは世界政府のメンバー。五老星だ。そう思ってグリーン車を覗いてみると、全員が黒いスーツを着用した顔がめちゃくちゃ小さいおじいさんに見えてくるから不思議だ。となると、3号車の海賊たちは麦わら海賊団と認識したいところだが、いささか人数が多すぎる。全体の人数を鑑みて、特急湘南は白ひげ海賊団といったところか。モビーディック号はなんとしても3号車が名乗りたいところ。僕はあわてて白ひげっぽい人を探した。

白ひげっぽいやつを探してみる

いつも前のほうに座っているめっちゃでかい男(体重100キロくらい)。彼は白ひげというよりはヌリカベみたいだな。一番うしろの座席をキープしていつも化粧をしている中年女性はたぶん、ねこ娘みたいにあの長い爪で引っ掻いて戦ってくれるだろう。その横にいるおじさんは小さいから目玉おやじ。その3つ前の席に座っている男性は細身だからいったんもめんだな。おっといけない。また『ゲゲゲの鬼太郎』のメンバーだと勘違いしてしまった。ていうか、いつのまにか話が『ONE PIECE』に寄っているみたいだ。

気を取り直して、白ひげ(エドワード・ニューゲート)っぽいやつを探そう。白ひげは文字通り白いヒゲを生やしている。よく見るとヒゲっていうか象牙みたいな感じだ(わからない人はググって欲しい)。車両内を見た感じ、どうやらあのタイプのヒゲを生やしている人はいなそうだ。背丈はどうだろうか。調べたところ、白ひげは身長666センチほどらしい。うーん、残念ながらそのようなサイズの人間はこの車両にはいないようだ。そうだ、白ひげは大酒飲みだ。しかし見たところ、朝から酒を飲んでいる輩はいないようだ。どう見てもみんな出勤前に見える。マジメそうだ。

そういうことではない。

白ひげスペックの人間がこの車両にいるわけがない。もっと本質的なところを見ないといけない。白ひげがなぜ世界最強と呼ばれていたか。白ひげは家族を大事にしている。配下の海賊団を「家族」として大切にしていて、彼らを息子と呼んでいた。そんな想いをこの車両のメンバーに抱いている人こそ白ひげだ。ただ、そんなやついるわけがないだろう。

……いた!

一度も喋ったことがないのにこの号車のメンバーたちの心配をしている僕が白ひげなのでは!? あくまでも仮説だけど。

グララララ!!!!

軽く車両が揺れた。まさか、僕以外に白ひげがいるのか?

いや、よくある緊急停車だった。
いつもより15分遅れて、渋谷駅に到着した。結論は出ないままだ。ただ、3号車を大切にしたいという想いだけはこの先も忘れずに持ち続けたい。こうして僕は明日も知らないヒトたちと一緒に渋谷を目指し、夜になると藤沢に帰るのだ。

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