【特急湘南26号 Vol.08】”仕事プレイ”と”ゲンコツのガープ”
いつものように、午前8時11分藤沢駅発の特急湘南26号に乗って、渋谷へと向かう。僕の居場所は相変わらず3号車8番のA席。車内のいつメンたちとともに過ごしているのだが、知らないヒトたちなので今のところ交流は一切ない。
エクセルが見えるが仕事はしていない問題
反対側の窓際の席に座っている男性は50代くらいだろうか。スーツ姿で横に新聞を置きながら、PCの画面を凝視している。遠目からでもエクセルの画面が見えるくらいオープンマインドで作業している。はたしてセキュリティ面は問題ないのだろうか。あるいは彼の立場で考えてみると、この車両にいるメンバーを信用しすぎている可能性も高い。あるいは、エクセルで仕事をしているわけではないという可能性もある。
エクセルでアニメーションを作っている可能性も無きにしもあらずなので、一概に「お前の会社の情報セキュリティ教育は一体どうなってるんだ!」と憤慨するのはまだ早い。
ドラクエ3を再現している可能性がある問題
エクセルでドラクエ3を再現しようとしている可能性もある。となると、彼はビジネスマンではなく”遊び人”だろう。
特急湘南26号は仕事に最適な空間だ。全席指定席だからほとんどの確率で隣の席は空いているし(わざわざ誰かの隣に座る人はいない)、大崎や渋谷に勤めている人にとって特急湘南26号の約40分間は集中力が研ぎ澄まされる環境だ。自分はほぼアニメや映画やマンガを見て過ごしているのだが、スーツ姿の人のほとんどはPCに向かっている。
あなたの上司、本当に仕事してますか?
ただ、ここで考えたいのはPCに向かっているからといって仕事をしているとは限らないということだ。たとえエクセルの画面が見えても、Wordの画面が見えても、仕事中とは限らない。仕事プレイの可能性もある。”客観性を疑う”、”相手の立場になって物事を考える”という人としての基本中の基本に朝から立ち返ることができた。
最近、「客観性はあるんですか?」「それってエビデンスはなに?」「それって個人の感想ですよね?」と言う人が多すぎやしないだろうか。そんな昨今の風潮に疑問を持っている方にはこの本をオススメする。
エクセルの画面が見えていたとて、仕事をしているとは限らない。イヤホンから流れてくる『芸人お試しラジオ 永野の「デドコロ」』のポッドキャストを聴いているだけかもしれない。それはオフィスであなたの隣で仕事をしている上司にも当てはまるはず。人には人の事情がある。仕事をしているフリして”仕事プレイ”している可能性がある。
おじさんと”ゲンコツのガープ”
もうすぐ渋谷に着きそうだ。ふと横に目を向けると50代くらいの男性はスマホでマンガを読んでいた。彼は「とりあえず電車でPCを広げてみる」という”仕事プレイ”をしていたんだな。もし読んでいるのが『ONE PIECE』の最新刊(107巻)だったら、一緒に”ゲンコツのガープ”について語りたいと思ったのだが、それはいつか仲良くなってからにしよう。僕はいつだってスマホじゃなく単行本で購入して堂々と車内で読んでいるので、話しかけられるのはもちろんウェルカムだ。まさかこの年齢になっても『ONE PIECE』を車内で読む人間になるだなんて、中学生だったあの頃の自分も想像していなかっただろう。そして、ここまで『ONE PIECE』が続くことも、107巻が白ひげとの頂上決戦くらい熱い展開となっていることもあの頃の自分はもちろん知らない。
こうして僕は明日も知らないヒトたちと一緒に渋谷を目指し、夜になると藤沢に帰るのだ。
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