見出し画像

短編小説『部分泥棒』

 世の中には質の悪い泥棒がたくさんいる。
 部分泥棒は、ものの一部分だけを華麗に盗む。
「私は雨が降ってきたので傘をさそうと思ったら、ビニール傘のビニールだけが盗まれていました」
「僕なんか、ちょっと目を離した隙に、食べてたハンバーガーのハンバーグだけ抜かれたんですよ!」
 コンビニで買ったおにぎりから具だけを抜き取り、スマホから画面防護シートだけをさらっていく。
 小さいものだけではない。
 車から窓ガラスだけを盗んだり、映画館からポップコーンだけを盗んだりもする。
 今日もまた、現金でお金を払おうとした人間が財布を見て絶叫した。
 入っていた千円札から野口英雄の絵だけが綺麗に切り取られていた。
「いっそ盗んでくれよ!」
 この言葉を遠くから聞くことが、部分泥棒の至極の楽しみだそうだ。

いいなと思ったら応援しよう!