映画感想『容疑者 室井慎次』
rhythm and police とlove somebodyが流れなさそうなので観るか悩みましたが、ここまできたら進むしかないと覚悟を決めました。
1 室井さんが何もしない
正確には、決定的なことを何もしません。わりと自分が危険な状態にいるにも関わらず、それを解決しようとはせず、彼はただ自分の事件の解決をひたすらに目指していきます。
自分が容疑者になったら、一応反論はするものの、本気でそこを出たい素振りは見せず、いつもの顰めっ面で座っています。
事件を解決しようと思うも、警察としての権限を取り上げられて何をするかと思いきや、警察手帳を持たないまま捜査をいつも通り行います。それができるなら警察手帳を取り上げられる意味がないですよね。
彼が唯一意味のありそうな行動をとったのは、クライマックス。容疑者に向かって頭を下げたことです。ですが、結局それは特に誰かに影響を与えることはなく、いわば自己完結で終わり、事件は何にも進展しません。
2 では誰が物語を動かすのか。
室井さんが動かない分、周りの人が頑張るしかありません。新城や沖田が、ライバルというか、完全な仲間ではないはずなのに、自分の立場を危険に晒すような覚悟で室井さんを助けます。
警察嫌いと公言した小原が、しかし何故か室井さんのために奮起し、あらゆる場面で室井さんを救います。クライマックスでも、頭を下げただけで何もしない室井さんをよそに、偶然の手助けはありましたが、実質的解決に導いたのは彼女です。
現場では工藤とその仲間たちが必死に仕事を続けます。警察権力を剥奪された室井さんに、こちらもどういうわけか、非常に従順に従います。
3 でも室井さんが良かった
室井さんははっきり言って無能でした。困ったことがあったら黙り、頬を膨らませ、時々怒るだけでした。彼を窮地から救ったのは周囲の人間です。
しかし不思議だったのは、室井さんをそれでも信じ続けたくなることです。この気分こそが、周りのキャラクターを動かしていた要素そのものなのかもしれません。
例えばどれだけ大きな恩がなかろうと、仲良しエピソードがなかろうと、室井さんの馬鹿みたいに真面目で直線運動しかできない姿が、どこかで真っ直ぐ生きたいと思いつつもできていない大抵の人間の心を掴むのです。
つまり室井さんは作中最悪最強で、自分が原因で事件が起き、自分が原因で事が大きくなっていっても、渋い顔をして真っ直ぐ歩いていれば、大体解決してしまうのです。なんという怪物的なキャラでしょうか。
そして結局そこが好きなのです。確かに観ている時は、室井さんが何もしないことと、室井さんに特別何かしてもらったわけではないのに必死に頑張る周りの人が不満要素でしたが、室井さんという人間を自分の中で改めて咀嚼した今は、そこが笑えるポイントとなり、なんだか面白く感じてきました。
喋らず動かない室井さんを主人公にすると、こんな変な感じの映画になるのかと、改めて青島の熱血狂気さが踊るの雰囲気を担保していたのだと気がつきました。