『時間は逆戻りするのか』感想!
今回は、『時間は逆戻りするのか(高水 裕一 )』の感想を紹介します(※本のネタバレにならない感想です)。
※本書の対象:物理に興味があり、時間について知りたい!という人(専門知識はほとんどなくてOK)
まず、このタイトルに違和感を持つ人が多いはずです。というのも、時間が過去から未来に進むというのは、疑いようもないことのように思えるからです。
本書もそうした疑問提起から始まります。けれど、実は、「時間」という対象は、ここ100年ほどの間、科学界においてかなりホットなテーマであり、最近も話題に上がっています。
前提知識
では、本書の内容に入る前に、かなりざっくりと「時間」について説明します。本当はいろいろと触れる必要があるのですが、ここでは、「相対性理論」のみをピックアップしてみます!
というのも、なぜ時間が100年ほど前からホットなテーマなのかと言えば、アインシュタインの「相対性理論」が大成されたのが理由だからです。非常に難解な理論なのですが、時間について重要な点は(やや語弊がありますが)、できるだけ簡潔に説明してみます。
POINT:速度が速いほど、あるいは重力が強いほど、「時間が遅くなる」
私たちの感覚では理解しがたいですよね。しかし、それも当然です。というのも、地球の私たちには、時間が遅くなるほどの状況に遭遇できないからです。
しかし、実は、超高速で飛び交う小さい粒子は私たちよりも時間が遅く流れているし、ブラックホールの周囲でも極端に時間が遅くながれています。
たとえば、光の80%の速さで移動すれば、止まっている状態の6割のスピードになります。つまり、止まっている状態で100分経っても、そのスピードで動いていれば60分しか経たないということです。
厳密には地球の重力や、飛行機の速さでも時間の流れには影響しますが、その違いは私たちにはとうてい感知できません。
※厳密には、「時間が遅い」とは感じません。あくまでも、時間が遅くなっていない場所と「比べてみると(相対的に)」時間が遅くなっているということです。他にも「特殊or一般相対性理論」「光とは」「時空とは」など、相対性理論は複雑かつとても深いので、興味ある方は調べてみてください!
感想
つまり、相対性理論によると、時間というのは、(過去や未来に飛んでいくことはないが)縮むことができるということです。時間というのは、絶対的なものではなく、相対的なものなのです。
しかし、本書の帯にあるように、ミクロの世界での研究では、実質的に時間の逆行が観測されました(「エントロピー」や「マクスウェルの悪魔」という難しい話になるので、その説明は本書をご参照ください!)。
とはいえ、たとえば、素粒子が逆行しているのが見えたというわけではなく(そもそも素粒子は観測できない)、計算上で現れたというものです。(本書では、「量子論」「エントロピー」に触れたうえで、その話に触れます)
本書は、かのホーキングにも師事した方が書いているのですが、かなりかみ砕いて書いています。おそらく、今まであらゆる人たち(子供たちを含む)に講演をしてきたことが生きているのだと思います。
物理学を専門にしている人には、たとえば、リサ・ランドールの本もかみ砕いていると言えますが、本書は、そのレベルではなく、本当に入門のイメージです。とても読みやすく書かれています(一部はかなり難しいけれど)。逆に言えば、「厳格な書き方をしてほしい」「基礎知識はあるので、本題からスタートしてほしい」といった人には向かないかもしれません。(たとえば、個人的には、素粒子について「人」や「レゴ」でたとえるのは逆に混乱しました。けれど、「クォーク」「中性子」「電荷」といった用語になじみがなければ、イメージしやすいと思います)
また、それと相まって科学者としての客観的な記述から離れていると思う部分も散見されました。特に「科学者は、程度の差はあれ神を信じている」といったことが書かれていたり、そんなことを匂わせる書き方がされたりしていることは、個人的には強い違和感がありました。
他にも「一次元の生物はイモムシみたいなかっこうになる」(そもそもその次元では生物は生まれようがない)「二次元の恋愛が流行っているように、次元が2つなら、感情も動かせる」といった、明らかに科学的でないことも書かれているように感じました。そこが、とても不思議です。科学者というよりも、哲学者、あるいは物語好きな部分が強く感じられました。
同じようにして、最後の話では、あまりにも哲学、というより妄想ぎみな路線に行きすぎな気もするかもしれません...。
...とはいえ、そうした記述は、およそ話がそれているときやたとえ話に限られます。もしくは断りが入れられています。科学的な書籍においてこうした部分が強く気になる人にはあまりお勧めできませんが、読みやすさを重視していて、時間について、相対性理論や量子論なども(ほとんど知らないけれど)学んでみたい!という方には合いそうです。
また、ちらほら踏み入った話もあり、同じほんとは思えないくらい、難しい部分とかみくだいた部分の差が激しいのですが、あらゆる人に楽しめる本ではあるかもしれません。
個人的には、後半のほうが特に面白く、たとえば「空間も時間も素粒子でできているかもしれない」「ブラックホールの内部では時間と空間の区別さえ崩壊しているかもしれない」といった一言には立ち止まって考えさせられました。
また、他にも良い意味で期待を裏切られたのはやはり後半からでした。イメージしていたのは、「ごく限られた条件下で時間の逆行のようなものが計算上観測された」というのを1冊書いたものだったのですが、実際には、相対性理論はもちろん、量子論や量子重力理論、そして、エントロピーや虚数時間など、振り返ってみればなかなかのボリュームでした。
結論
結論を言えば、「読んでよかった!」と思いました。
僕は本を4冊書いていますが、個人的な「良い本」に重要な要素は
①メッセージ性:伝えたいことが明確で、強い想いがある
②根拠:内容の正確さを示せている
③生産性:正しさだけではなく、読者への好ましい変化を与えられる文面になっている
という3つだと思っています!
この順番は僕の思う重要な順番でもあって、どれほど性格でも、メッセージ性のない本は、読んでいてかなりきついです。その点、本書は読みやすいだけでなく、著者の想いが伝わりました。
②については少し気になる点はちらほらありましたが、それでも、本書の良さが無くなるわけではありません。
③については、好奇心が満たされるという点では、僕はとても満足できました。
それでは、最大の問い、「時間は逆戻りするのか」...。
結論は、「わからない」というところです。しかし、ミクロの研究においては一応観測されており、また、マクロ(大きなスケール)でも、理論上は、ありえなくはないということです。
そうした理論の1つとしては、「宇宙が膨張と収縮を繰り返す(サイクリック宇宙)」があります。それによれば、宇宙がある程度膨張したら、今度は収縮に転じて、その際に、時間が逆行していることになるということです。
本書では、他の可能性も提示しています。また、宇宙論に詳しい人なら、よくある相対性理論の話やエントロピーの超基本的な説明にとどまらず、著者の妄想も楽しめるかもしれません!
では、なぜそもそも物理学者たちは、「時間が逆行するのか」という問いを出すのか? それは、「空間は3次元」であるし、さらに、時間と空間はお互いに切り離せない存在なので(相対性理論が説明するように、一緒に影響しあう)、「時間だけが1次元(一方向にしか進まない)」という、非対称性に強い違和感があるということです。
こうした「時間とは?」という問いについてあらゆる角度から説明してくれる本書は、とても面白かったです!
以上、『時間は逆戻りするのか』の感想でした!
【推薦】
「時間」という観点では、以下も推薦
・『時間は存在しない』…タイトル通り、「時間は存在しない」という説を提唱した第一人者による著書です。
・『時間はどこから来て、なぜ流れるのか?』...物理学について関心があって詳しい人にはこちらを推薦します。脱線も少なく、著者はとても科学的に書く方だからです。
・『時間とは何か』...ビジュアル的にもわかりやすいのは、やっぱりNewton。あらゆる人にお勧めできる。
・『タイム・トラベラー』...「亡くなった父に会うためにタイムマシンを作る」というSFのようなことを志したとある物理学者の壮絶な人生を綴った1冊。
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【加藤の詳細について】
―加藤将馬:著者、講演家、幸福学&ビッグヒストリー研究家
・加藤将馬のウェブサイトはこちら
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【著書の紹介】
WILL ―ビッグヒストリーで語る 宇宙のはじまりから人間の未来―
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また、できる限り正確な情報に基づいて書くことにも尽力しました。本書では日本語も英語も問わず、数多くの書籍や論文や信頼のおけるサイトからの情報を参照しました。注釈の数は130を超えます。以下のウェブサイトに載せているので、詳細を知りたい場合や、事実確認をしたい場合にぜひご参考にしていただければと思います。
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