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32_みんなでつくり、みんなで食べる

子どもたちは今ここで暮らしている。周囲の影響を受けながら、楽しんだり悩んだり、選択を重ねて育っていく。
通える(通いたい)高校が近くにない子どもは、中学校を卒業すると親元を離れて下宿しながら高校に通う。
中学校では「コンビニで栄養バランスの良い食事を選ぶには?」というテーマで授業が行われている。
寮で暮らしている15歳の学生が、毎日毎食寮の食事は大満足だけど、やっぱり実家の食事が一番だ、と話す。
積極的に体験機会を設けて食育に力を入れている自治体の職員は、お腹を満たすだけで手一杯(余裕があるわけではない)市民の状況を想像しながら関わらねば、と話す。
わたしたちができることって、なんでしょうねー

毎日つくる中高生

自由学園(東京都東久留米市)は、自分たちの食事を自分たちで作っている学校。私が伺った時(2018年)には女子部(中等・高等部)が毎日交代で自分たちの食事を作っていた*。薪をくべてご飯を炊くので、お焦げが多くなったり芯が残ったりすることもある。それが毎日作って食べる日常なのだと話していた先生の姿を思い出す。

いただいたお食事

年間を通じて調理の難易度が上がっていくように献立が組まれ、レシピはすべてファイリングされていた。ファイルの分厚さが歴史を物語っている。これほど「食」に関わる時間が大切に扱われている学校は他にないだろうと思いながら、「生活即教育」という言葉に納得。(*2024年度から共学)

自由学園高等部3年生の生徒さんのドイツ留学のレポートの中にこんな考察を見つけた。

ドイツの高校生は、『SDGs』という言葉をほとんど知らなかったんです(アンケート結果で「知っている」は12.8%、「知らない」が87.5%)。そして、同じ調査を帰国後に学園のクラスで実施したら、真逆の結果になりました(「知っている」が98.6%、「知らない」は0%)。

とはいえ、ドイツの高校生は環境への意識が高く、何らかの行動をしている人がかなり多いです。実際、同級生との会話には、デモへの参加や日常生活の工夫など環境への具体的なアクションがよく登場していました。そう考えると、日本は言葉だけが先行していて、内容理解や行動にはつながっていない現状があるんだなと、実感しました。


収穫して調理する中学生

徳島県神山町の話に戻す。
中学校の「ふるさと学習」農業・林業編の授業。昨年、すだち(柑橘)の収穫+調理+農家のレクチャーというセットが好評だったので、今年も同じ流れで企画した。

すだちの収穫は、町内の農業高校で実施。

選果(神山校)

調理とレクチャーは永野裕介さん(NPO法人里山みらい)にお願いした。
永野さんは9月後半からイタリア、南フランスを巡ってシェフやパティシエにすだちを届け、PRして日本に帰ってきたばかり。その様子も子どもたちに聞かせてくれた。

今や外国まで旅するようになったすだちも、栽培の歴史はここ60年くらいのこと。神山町の農家が仕掛けた試みが県内全域、全国に広がる一大産業になった。すっかり生活に溶け込んでいるすだちにそんな壮大なストーリーがあることは、徳島県民にもあまり知られていない。

変化するローカルスーパーの商品棚

永野さんが作る「すだちミルクプリン」がめちゃくちゃおいしいと噂に聞いて中学生と一緒に作ったのが昨年。今年も自分たちで収穫したすだちを使ってプリンを作ることにした。

「みんなが神山校ですだちを収穫して、それを使ってプリンを作る、というのもスローフードの考え方」
イタリアのトリノで開かれていたTerra Madre(テッラマードレ:スローフード協会が主催する世界生産者会議)の話をしながら永野さんはそう伝えてくれた。

植物性の素材を使うと全員が食べられる(動物性NGの生徒がいる)、と先生から聞き、今年は植物性の食材だけで調理実習を行えるようにレシピを再構成した。

牛乳は豆乳へ。ゼラチンは寒天へ。生クリームは植物性クリームに換えて試してみたけれど、最終的にクリームは使用せず。もともとのこっくりリッチな風味に似せようとするよりも、植物性のらしさを生かしたレシピの方がよい。そう思い直したときに、我らが白崎先生のレシピは本当に心強い味方になった。

このレシピ本の発刊が2014年。わたしが徳島にUターンした2016年当時、このレシピを再現しようとしても一部の食材(例えばクセの少ない豆乳、粉末寒天、粉末てんさい糖)は近場のお店では揃わなかった。今はわたしが行ける範囲のお店ですべての材料が揃う。

スーパーの棚の構成がその地域の暮らしなのだとすると、10年の変化は感慨深い。棚の構成が変わっていくのだから。

・動物性の食材不使用
・調理実習の食材費に見合うコスト
・家庭科室にある調理器具や用具でできる
・時間内(100分)で作って固めて食べられる
などを考慮しながら、レシピを決めた。

キラキラのすだちジュレ

当日。
最初のデモンストレーションで豆乳を焦がしたわたしの姿を見て、「こうすると失敗する」がよく理解できたのだと思う。中学生はまったく失敗せずになめらか豆乳プリンを完成させた。

「豆腐っぽい」「豆乳、苦手だった(初めて口にした)」「最高です!」「すだちがうまい」などなど。豆乳は大豆からできてるし、寒天は天草という海藻からできる。そんなやり取りをして、牛乳は牛から。じゃゼラチンてなに?は回答出てこず。調べてみてねと言い残した。

今回のことだけでなく、子どもたちが地域の大人に出会うことが、さまざまな見方や考え方に触れる機会になるといいなと思う。


エシカル消費を実践…?

少し前に県が主催する講座にお招きいただいて話をする機会があった。テーマはエシカル消費。たっぷり2時間枠をいただいたので、旬のすだちの食べ方をいろいろと紹介しつつ、すだちを使ったドリンクづくりを一緒に。

すだちを切り、絞って炭酸水に入れ、お好みで蜂蜜(メープルシロップ/アガベシロップ)を加える。すだちスカッシュの完成。
参加されていたご婦人方に「お客さんが来た時に出してみる」とか「さっぱりしてておいしいわ〜」とか言ってもらって、なかなかいい時間だった。

少し手をかけるだけで、自分と食材との関係は近づく。そして体験することでしか得られない感覚は確かにある。だから、みんなで作ったり、みんなで食べたりする場を大切に育んでいきたい。

この日は帰り際に「これからもすだちのPR頑張ってくださいね!」とにこやかに励まされたりして、すだち大使みたいに思われたのかも。
すだちスカッシュ作る前に70分くらい食農教育の取り組みを話したんだけどな。

体験って、やっぱりすごい。