日本食をもっと知りたい外国人と、答えられない日本人
ご存知のとおり、日本食はこのところ世界的に人気と言われています。
日本食の海外進出がいつごろから始まったのかは、定かではありません。
明治の文豪、森鴎外や夏目漱石がドイツやイギリスに留学していたころ、日本食をヨーロッパに届ける日本の会社がすでに存在していたという話です。
海外進出に熱心だった日本食関連企業の代表例といえば、なんといってもキッコーマンでしょう。
今日の世界的な日本食ブームの立役者として、欠かすことのできない存在です。
1960年代にロッキー青木氏がアメリカで立ち上げた鉄板焼きレストランのチェーン「ベニハナ」も、日本の食文化の魅力を世界に伝える役割を担っていたのかもしれません。
昭和の終わりごろ、つまりバブルのころには、世界のたいていの国に日本食の店ができていたように思います。
最初はもっぱら「寿司」「天ぷら」「すき焼き」でしたが、平成に入ると
日本の焼肉
串揚げ
日本のカレー
日本のラーメン
などの店も海外に出るようになりました。
そのころから、日本人でない人が「なんちゃって日本料理店」を開くことも増えました。
ある意味、安かろう悪かろう的な日本料理店です。
日本人の少ない国や地域ではこうした「なんちゃって日本料理店」でも客に困らなかったでしょう。
たとえば日本の袋麺の売れ残りをどこかから仕入れてきて、「なんちゃってラーメン」を出す店が、日本人の来ないようなド田舎で開店していたりします。
2006年だったと思いますが、日本の農林水産省が「なんちゃって日本料理店」に対抗するために「正統な日本食の認証制度」を始めようとしたところ、
「日本が寿司ポリスを世界に派遣しようとしている!」
と海外メディアで叩かれた事件もありました。
いっぽう、ニューヨークでは
「アメリカ人の有名シェフによる、アメリカ人のための本格高級日本料理店」
が人気を博すような出来事もありました。
前述の「なんちゃって日本料理店」の正反対の存在です。
正統な日本食を、日本人抜きで出せるようになりました。
海外で誕生した日本料理店が有名になり、日本に進出(開店)するという出来事もありました。
(俳優ロバート・デ・ニーロ氏がオーナーをしている日本料理店といえば、記憶している人もいるでしょう)
そうこうするうちに、2013年には日本食がユネスコの世界文化遺産になりました。
その後も日本食ブームは続いています。
たとえば
アメリカでは、いまや人口数万人の地方都市にさえラーメン専門店がふつうに存在しています。
2015年に開かれたミラノ万博では、日本のパビリオンが来場者のあいだでダントツで人気だったようです。
2021年にはドバイで万博が開かれているが、ここでも日本のパビリオンがダントツで人気のようでした。
ここ数年の「目立たないが大きな変化」といえば、魚のおいしい飲食店が世界的に増えたことかもしれません。
日本料理の話ではありません。
フランス料理、インド料理、ロシア料理、メキシコ料理、タイ料理などで、それぞれ魚料理がおいしくなっています。
日本の料理人が各国に散らばり、魚のさばきかたや臭みの取りかた、締めと血抜きの仕方などを現地で教えているのがその背景にあるといいます。
2019年、インバウンド(訪日観光客)は3200万人でした。
その後、世界中で人の往来が減り、当然、日本のインバウンドも「壊滅」状態になった。
しかし、もし再び人々の往来が活発になったら、決壊したダムみたいに、日本にはものすごい数の訪日観光客が来るのではないかと言われています。
(年間6,000万人が来るという予想もある)
なぜ今回はこんな話をしたかというと、それには事情があります。
ここ1、2年のことなのですが、海外に住んでいる日本人の方々から、相談を受けることが増えました。
相談には2種類あります。
1つは、
現地で手に入る食材を使って日本の料理を作りたいけどどうしたらいいか?
という相談。
もう1つは、
現地の人に日本食のことで質問されることが多い。
質問されてハッと気づいたのだが自分は日本食のことをあまり知らない。
質問してくる現地の人のほうがよほど日本食を勉強している。
彼らの質問に答えられない。
彼らに日本食のことをもっと教えてあげたいのに、それができない。
今から日本食を勉強する方法はないか?
という相談です。
コロナ禍で日本に行けなくなった「日本食マニア」の外国人が、ストレス解消のため(?)、近所にいる日本人を質問攻めにしている、そんな「場面」が目に浮かびます。
たとえば
「刺身に千切りされたダイコンがついてくるのはどうして?」
「ご飯はどうやって炊く?」
みたいな質問をされるといいます。
日本人ならみんな知っているだろう、と外国人は思うのでしょうが、肝心の現代日本人は、こうした知識を持ちません。
学校でも習わないし、家庭でも伝承されないからです。
コロナ前まで日本と海外をしばしば行き来していた日本料理の先生(※)に先日、この話をしたら、その先生のところにも似たような相談がよく来るといいます。
特に最近、相談が増えていると。
コロナ禍で日本に行けなくなった「日本食マニア」の外国人が、近所にいる日本人を質問攻めにし、質問攻めされた日本人が困り果てるという現象は、いま、世界各地で同時多発しているのかもしれません。
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