失踪癖のある父親を被写体にした写真集『father』の作者・金川晋吾による、『father』ができる過程とその後をつづった本。
『father』はパラパラとめくったことがある程度だけれど、「失踪癖のある父親をずっと写真に撮っているひと」ということで、金川晋吾という名前はずっと気になっていた。
他の本を探しているときに偶然本屋で見かけ、衝動買い。
読み始めたら、おもしろくてびっくりした。
パラパラ見ただけなので勘違いかもしれないが、『father』という写真集からは、どんよりした閉塞感とか、初老男性の加齢臭とか、そんなようなものを感じ取っていた。
『いなくなっていない父』にもそんな感じのものを期待しているところが少しあったが、読んでみると、そのイメージを大きく裏切られた。
まず文章がものすごく乾いていて、じめっとしていない。
そして、著者の父親が、こちらの勝手なイメージを見事に覆すひとで、なんとも魅力的。
失踪癖がある、ということで、セルフネグレクトみたいな状況を勝手に想像してしまうが、冷蔵庫には自作のぬか漬けがあったりする。
若いころはスポーツ万能で、少年サッカーチームのコーチをやっていたこともあったり。
でも、消費者金融にかなりの借金があったりもする。
何なんだ、このひと。明るい謎、みたいな感じ?
でも、ひとってそんなに一貫性なんてないし、誰しも一筋縄ではいかないよなあ、と思う。
あと、著者が、自分と父親とをきちんと切り離して捉えられていることにただただ関心した。
親との関係に悩むひとへのアドバイスとして「自分と親との間に境界線を引きましょう」とか、「親は親、自分は自分と思いましょう」とか、よく言われて、それはそうなんだろうとは思うけれど、私はそれが多分全然できていない。
だから、やや過剰と思えるほどに父親を突き放して見ている著者のありように感動するようなところがあった。
読めてよかった。
何回か読み返したい。