布施(ダーナ)の世界を広げるアートプロジェクト・fuwatari を開始します
こんにちは、芸術家の祥敬(しょうけい)です。
創作する人をサポートしながら、自ら創作活動を中心にした生活を送っています。今回のNoteでは現在手がけている”布施”をテーマにしたアートプロジェクト「fuwatari」を紹介させてください!
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近年、「贈与」に興味を持っている方が増えているのではないでしょうか?
たとえば、近内悠太さんの『世界は贈与でできている』は人文学に興味を持つ方々を中心に話題になりました。
資本主義社会で優先されるのは「等価交換」の原理です。商品やサービスなどの価値を提供して対価を頂くという構造の中を生きる方法を採用して生きている方が主流ではないでしょうか。
一方で「贈与」や「ギフト」の視点から「等価交換」の視点を捉え直しながら生きている人たちもいます。強いて言えば、私の今回の取り組みもその流れに属しているものです。
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私は出自の影響から、仏教の世界に関わる機会に恵まれてきました。仏教や宗教の世界にも贈与の実践があります。その一つの例が「お布施」です。
お布施というと、みなさんは何を想像しますか?
これまでたくさんの方に聞いてみました。
一番よく出てくるのは「お寺の葬儀や法事の時にお坊さんへ差し出すもの」というイメージでした。
特に今の世の中では、”お布施”は封筒に入った現金であるという前提に立って考えている人が多いようです。
語源を振り返ってみると、布施はもともとダーナという言葉に由来しています。旦那とか、ドナーとかの語源にもなっています。寄付の意味のドネーションの語源にもなっています。布施と寄付は兄弟みたいなものですね。
仏教文化を参照すると、布施には大きく仏法を施す「法施」、金品を施す「財施」、そして怖れを取り除く「無畏施」の三種類があります。
さらにお金がなくとも実施できる「無財の七施」というものもあります。そちらについては天台宗のサイトにまとまっていましたので、そちらをご覧ください。
「お布施」は僧侶も僧侶に関わる人も行うものであり、等価の見返りを期待して行うものというよりも、むしろ執着を手放して行うものです。
オルタナティブな布施を実験する
私は布施のあり方や人類学の贈与論に大きな影響を受けました。その知識を背景にして、2021年7月7日から全国を歩いたりやカラアゲを贈与しながら自らは頂いた布施で生きることをやってみました。
この”巡礼生活”を開始した時には「お遍路さんの『お接待』のような現象が四国以外でも生じうるか?」ということにも興味を向けていました。
「お接待」とは「歩いて巡礼を行うお遍路さんに地元の人々が飲み物や食べ物を振る舞ったり、時には寝床を無料で提供したりする行為」のことです。
この行為もお金をもらった対価として提供するサービスやおもてなしといったものではありません。布施のようなものとして考えることができます。
実際、全国を巡る中で、多くの方々に現金のお布施を頂いたり、泊めて頂いたり、さまざまな布施の流れを頂くことで、単なる憶測ではなく「お接待のような現象は起こる」という実感に変わっていきました。
生きている実感の深化へ
たくさんの方々との出会いに支えられた生活を象徴していたのが先ほどの巡礼の服です。
たくさんの布施を受け取りながらの生活。苦しいことも楽しいこともたくさん起こりました。生活が深まっていくにつれて不思議なことに段々と「生かされている実感」が生じるようになりました。私の場合は主に人との関わりの中で生じてきましたが、関わりの背後の動植物を始めとした”あらゆる命の関わり”に生かされていることを実感するようになっていきました。
その後、多くの鶏さんの命を殺めてしまう形での空揚げを布施する活動をやめ、一度、自分自身のベースを調えるために2023年7月7日に巡礼生活をリセットすることにしました。パートナーの森紗都子さんと一緒に熊本南部にアトリエを借り、滞在と旅を往還して生きてきました。
流れを終わらせていく一方、始めたこともあります。始めたのは創作を中心にする生活です。7月7日に創作出家宣言を出しました。
要約すると、「創作していくよ!」ということや「システムに従うのではなく、システム外で人間として生きていきたい」という想いについて書いています。
私が抱くようになった実感は、お金や数値に変換することが難しいものです。ほんの一部を切り出して商品・サービス化してお金にすることはできますが、もう少し違う形で表出させることはできないか?ということを考え始めました。
生かされている実感の表現へ
月日は流れ、少しずつ創作の時間を増やしています。23年の10月に布の作品制作をするようになり、23年の12月にドローイングを描くようになりました。
この布の作品づくりが、今回のアートプロジェクトの「fuwatari」のことです。
このアートプロジェクトでは、大きな一枚布をつくっていきます。
その素材は頂いた布とそれを解いて生じてきた糸です。
素材の収集は日本のみならず、全世界で行い、様々な人種の方々から受け渡される布でその一枚布をつくっていきたいと思っています。
自分自身の覚悟を確かめるために2023年10月〜24年7月まで作品を1人で作ってきましたが、無事、日々の習慣となり継続していくことができそうなので、参加したい方が参加できるように流れを整えていく段階に入ろうと思います。
なぜやるのか?
今一度、アートプロジェクトをおこなう動機を共有させてください。
私は生かされている実感と生きている実感を伴いながら生きていく人が増やてほしいと思っています。私自身にとって、この作品づくりは私自身の実感を深めていくことであり、これを介して出会っていく方々にもその方々なりの生きている実感を深めていくきっかけを作っていけたらと思っています。
また、このプロジェクトを行う動機はもう一つあります。
私はこの布の作品が国家、宗教、文化、経済、人種、地域などのさまざまな垣根をそよ風のようにやさしく通り抜けていってほしいと思っています。
この布の作品づくりは仏教や芸術のプロジェクトではなく、人類のプロジェクトとして実行していくことにしました。表面的に布施、芸術、アートというラベルを付けていますが、その奥には人類の垣根をゆるやかにほぐしていきたいという想いがあります。
大学生の時、私はカナダのケベック州の大学に交換留学生として滞在していた時期がありました。その時、世界中(5大陸)からやってきていた方々やカナダのローカルの方々とカフェテリアでよく話をしていました。各国の話、その人たちの生い立ちの話を聞くのが好きでした。
そのときに芽生えた感覚が、「私たちは地球人であり、地球をシェアして生きているという実感」です。
現在、たとえば戦争が起こり、経済の発展による貧富の格差は深刻化し、共に生きているという感覚を削いでしまうような出来事が多発しています。その渦中では綺麗事なんて言ってられないのが正直なところだと思います。
しかし、私はそれに一石ならぬ一布を投じてみたいです。多人種の方々に布を頂き、時に一緒に作品づくりをしながら、関わる方々同士でそれぞれに対する無関心、無理解を解していきたいです。作品が国境を越え、さまざまな文化圏で展示されていきながら、単なる布の寄せ集めがみんなの一枚布になっていく様を想像しています。私はその景色を見てみたいと思っています。
それを行うためには、多くの皆さんのお力添えが必要となります。私とこれから出会う方々との共同制作の様子をぜひ見守って下さると嬉しいです。次世代にこんなチャレンジをしてもいいんだと思ってもらえるような流れになっていくように、私がまず頑張っていこうと思います!
贈与経営
ここから先はプロジェクトの経営の仕方についてご紹介します。
プロジェクトを展開しながら常に経営の仕方も変化していくと思いますが、今の構想を書いておこうと思います。
まずは「私が食べること」について書きます。
私は別のアートプロジェクトとして「幽玄会社テンプル」を経営していくのですが、そちらのテンプルに食べさせて頂こうと思っています。こちらのプロジェクトではパトロネージュして下さる方々との関わりをつくり、お金の一部(上限10万円)を給料として頂き、自分自身の食べ物を確保します。
そして、私自身はプロジェクトから対価を得ることを気にせず、自分自身のエネルギーを fuwatari のプロジェクトに投じていきます。具体的には、縫い物を行う作品制作や展示場所との関係構築などに尽力していきます。
贈与経営は主に入ってくる流れと出ていく流れで成立していきます。
入ってくる流れでは、作品が育っていく上で必要な布を受け入れていきますし、作品を共に作って下さる人も受け入れていきます。お金はプロジェクトの流れに快く(無理なく)パトロネージュして頂けるように関係作りをしていけたらと思います。
※ こちらのパトロネージュは幽玄会社でのパトロネージュとは別でプロジェクトごとにお金の流れは独立させます。
出ていく流れでは、作品の展示のための運搬費・移動費などが生じます。あと、特に重要だと思っているのですが、fuwatari の流れを共にする方々とは一緒にご飯を食べながら仲を深めていきたいです。そちらの経費もプロジェクトの経済と紐づけていきます。
これからの流れ
実行しながら少しずつ形にしていきます。以下のように進んでいきます。
First Wave(第一段階)
(1)布の収集
全国を赴きながら、布を収集していきます。お金はかかりますが、実際にお会いして布をお預かりしていきたいと思っています。収集の旅に行くのは不定期です。逆に私がいるところに会いに来て下さるのも嬉しいです。
(2)部分布の制作
大きな一枚布の一部となっていく正方形の布を塗っていきます。(1)で収集した布を加工してつくります。
(3)一枚布への縫合
つくった正方形の布を背景の布と合わせて縫い合わせていきます。
(4)関係づくり
パトロネージュ下さる方々
パトロネージュを通してプロジェクトを支えて下さる方々を増やすことができるように努めていきます。(無理にパトロネージュをするように強要することは絶対にしません)
展示空間をともに作って下さる方々
今後、美術館やギャラリーなどの美術界隈、お寺などの仏教界隈の方々と関わりを増やしていきたいと思っています。展示の仕方は基本的に無形です。それぞれの展示の場で変化し続けると思います。
Second Wave
(5)世界中での一枚布の展示
現時点で、25年にひとつの場所で展示することが決まっています。
25年7月
Tentofu(兵庫・高砂)
Tentofuとのご縁は全国を巡礼し始めた初期の2021年から始まりました。知り合いの方が 「Tentofu を営んでらっしゃる衣笠さんご夫妻、素敵だよー」と教えてくれて、いろいろあってたどり着きました。私が滞在した時には、現代美術家の山村幸則が Tentofuに滞在しながら『高砂生活』をしていたタイミングでした。この時に衣笠さんたちの”なんとも言い難いもの(説明しがたいもの)”を面白がる力に驚いたのを覚えています。
一枚布の展示場所を探し始めます!という投稿をFacebookにした際にいち早く「Tentofu」でやりませんか?と声をかけて下さいました。好きな場所で展示を行うことができるのが楽しみです!
25年未定
布の巡礼 アフリカ編
また、25年の前半、どこかの時期にアフリカに行こうと思っています。アフリカに生まれた人類が、世界中に拡散していった人類最大の旅路を、イギリス人の考古学者ブライアン・M・フェイガンは「グレートジャーニー」と名付けましたが、そのグレートジャーニーのことを思うと、布の巡礼もアフリカから始めてみたくなりました。
1回目の訪問では無理に展示場所を作っていくのではなく、布の収集と作品展示候補になる場所との関係作りに注力したいと思っています。
Third Wave
一枚布の解体については10年くらい先に実施しますので、今後活動を展開していく中で言葉にしていけたらと思います。
それでは皆さんにどこかでお会いできますように!