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『追憶の烏』阿部智里【小説】

読み返すのが辛くてしばらく置いていたのですが、そろそろ書こうと思いました。

なぜ『楽園の烏』で雪哉があんな感じだったのか、出てこなかった人はどうなったのかが語られる一冊。
登場人物に愛着があるだけ心を抉ってくる巻でした。
以下はネタバレしかない感想です。

『楽園』で確定していた情報が
①金烏は長束の幼い弟
②明留は死んでいる
でした。地獄の答え合わせでしたね!

奈月彦の退場は予想してましたが、手を下したのが藤波だったのは完全に予想外でした。
(正直雪哉じゃないかと危惧してたので違ってちょっと安心しました)
藤波の生い立ち、尼寺での暮らし、そして最期。今回読んでて一番辛かったのがここでした。
誰も彼女を愛しはぐくまなかったのに、役割だけ求められて利用されて捨てられて。あの子の人生なんだったの。
滝本との関係もまた辛い。あんな形でしか終われなかったのが悲しいです。

とうとう夕蝉が退場しましたが、新しい親王がここで出てくるんだ、と唸りました。
母親は誰なのか、まさか真赭あたりに無理矢理産ませたとかじゃないだろうな、と思っていたらもっとヤバいのが出てくるなんて。
衝撃すぎて上の画像は馬酔木になりました。

今回一番気になったのは奈月彦の遺言の真意です。
「全て、皇后の思うように」という一言だけが奈月彦の遺言でした。雪哉と浜木綿はそれを見て、雪哉は信頼されていなかったという結論を出しましたが、本当にそうでしょうか。
雪哉はちゃんと奈月彦に魂を捧げていたし、奈月彦はそれを受け止めて雪哉を信頼していたと思います。
雪哉は混乱した結果、信頼されてなかった=奈月彦に心を捧げてなかった、と思い込みましたが、逆に言えば信頼されていた=心を捧げていた、となるのでは?
花祭りの護衛を雪哉に任せたこと、「私の一厘も随分大きくなっていたものだ」という言葉を私は信じたいです。

では、何故あの遺言になったのか。
浜木綿と他の人で意見が分かれてることがありましたよね。いざとなったら烏になってもいい浜木綿と、今の山内を維持したい側近。
奈月彦は、自分が死ぬのはもはや山内がどうにもならなくなった時だと思っていて、だからダメになった山内に固執しないで新たな道を模索してほしい、とそういう遺言だったんじゃないでしょうか。
暗殺されるなんて思ってなくて、ましてや自分の仇打ちするかしないかで意見が割れるなんて想像すらしなかったでしょうにね。
奈月彦が見誤ったのは浜木綿の乙女心だと思います。

奈月彦への忠誠は否定され、浜木綿や長束との信頼は崩れ、紫苑の宮へ伸ばした手は取られることはなく、友人は失い、雪哉はこれまで積み重ねてきた人間関係をほぼほぼ失ってしまいました。
あぁこれはもう必要性の奴隷になるしかないよな、と納得の結末でした。しんどい。
唯一残ったのが治真ですが、治真が雪哉に対して抱くものが「美しい言い訳」でなければいいです。
そして私は文庫で読んでいるので、読み終わって目に入る表紙は昔の雪哉。「だから、駄目だと言ったのに」じゃないか!表紙を見るたびにダメージを受けてしまう。最後まで手を抜かずに読者の心を抉る仕様になっていたのでした。

どんどん辛くなっていくばかりの一冊でしたが、エピローグの澄生に救われました。鮮烈な風が澱んだ空気をさっと吹き流したような印象。
もう勝手に澄生は紫苑の宮だと思っています。
目指すのは万民の幸福。その万民の中に、雪哉も含まれていてほしいと願ってます。
あの美しく優しい桜の夜が、そのままで二人の思い出の中にあってほしいのです。



これは完全に蛇足なのですが。
暗殺事件は夕蝉が黒幕ということで決着がつきましたが、本当にそう??
滝本は夕蝉から直接暗殺を指示されたわけではなく、そもそも東家筋の人間のふりをするのは東家の協力なしには不可能です。
終盤小梅と会話している霞という女性は早蕨ですよね。どっちも笑窪の描写されてますし。
というわけで夕蝉は東家に嵌められたのでしょう。十六夜暗殺とおんなじ構図。

ただ今回は過去のお話で本編はここから十数年後のお話になるので、小梅や霞が今後出てくることはあるんでしょうか。
とりあえず東家はまだ暗躍しそうなので東領の人が出てきたら警戒しようと思いました。
ところで治真って東領出身でしたね。

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